その1
「ここに、リンゴがたくさんあります」




「 く く 、はちじゅういちーーー!!」

 食堂にて、テーブルの上に本を広げて勉強中なのは、アイナとモンバだ。
 学校に行けないことを心配したエレナが、みんなで2人に勉強を教えて
あげようと提案したのだ。
 算数はダイク、国語はエレナ、歴史はランバート、地理と気象はカーティス、
音楽はエドガー、家庭科はベルなどなど、みんなで手分けしてアイナとモンバの
勉強をみることになっている。
 
 今はダイクに算数を教えてもらっているところだ。
 お題は、「かけ算」。
 徹底的に覚えないと、間違って覚えてしまうと厄介なので、ダイクは何度も
何度も復唱させていた。
「アイナは合格なんだナ」
 ダイクが大きくうなづく。 はぁっと、モンバがテーブルに顔を突っ伏した。
「オイラ、七の段がいまいち覚えられないッス……」
「毎日やってれば自然と覚えられるんだナ。さて、今日はここまでにしておくんだナ。
 3日後、またテストをするんだナ」
 パタンとダイクが本を閉じる。
 終わったーーー!と、アイナとモンバが大きく背延びをした。
 タイミングをみて、ベルが3人のもとに揚げたてのドーナツを持ってきてくれた。
「はい、お疲れさま!」
「わーー、ベルありがとう!」
「いっただっきまーーーす!」
「船の仕事も覚えないといけないってのに、勉強もあって大変だね」
「本当ッスよ!」
 これから甲板の掃除が待っているモンバが机をたたいた。
「なんで大人は勉強しなくていいのー?」
「大人は子供のころにたくさん勉強したからいいんだナ」
「じゃあ、みんな、かけ算できるッスか?」
 モンバの質問に、ベルとダイクは顔を見合せて笑った。
「あったりまえだよ!!」
「もちろんなんだナ。だったら、3日後にみんなでテストすればいいんだナ」

  あははははははは!
 食堂からの賑やかな声が、伝声管を通して、ダカート号に響きわたる。







 カーティスは、医務室に胃薬をもらいに来ていた。
「最近は調子がよさそうなので、薬の量を減らしましたよ」
 処方した薬を袋につめながらランバートが笑う。そう言われて、カーティスは
自分の胃をさすった。
「あんまりストレスになるようなことがないからな」

 バンッ!!

 扉をものすごい勢いで開けて、医務室に飛び込んできたのは、ドノバン、エドガー、
そしてビリーの3人だった。
「どうしましたか?」
 深刻な面持ちで現れた3人。 ランバートとカーティスは何事かと立ち上がった。
 ドノバンがギロリとカーティスを睨んだ。
「お前も一緒だったか、カーティス」
「なにかあったんですか、船長?」
「おい、ビリー!」
 ドスの効いた声でドノバンがビリーに合図すると、ビリーは医務室の伝声管のふたを
全部閉じた。聞かれてはまずい話が始まるらしい。
 沈黙が流れ、そしてようやくドノバンが話を切り出した。
「み……三日後にかけ算のテストがあるらしい」
 そう言われ、ランバートとカーティスは顔を見合わせた。
「あぁ、モンバが言ってたヤツですね」
「それがなにか……」

 ドノバンとエドガーとビリーは、頭を下げた。

「「「お願いします! 頭を診てくださいっ!!!!」」」

  ドーンッ




「あ、あのですね……」
 ランバートが何か言いかけて、カーティスがそれを静止した。
 コホンッと、カーティスが咳ばらいをする。

「問題です。
 ここにリンゴがたくさんあります。
 5人で3個ずつ食べたら、2個余りました。リンゴは全部でいくつあったでしょうか?」



       どうしよう、重症だ……。

 ドノバンがランバートに泣きつく。
「なんとか、恥かかないように、かけ算覚えてぇんだ!!」
「わたくし、やる気はあります!」
「オレも頑張るからさー!」
 ランバートは、眉間にしわを寄せつつも、大きくうなづいた。3人のやる気に賭けたらしい。
「わかりました! みなさん、頑張りましょう!」
「じゃ、私は海図室に戻ります……」
 そんなカーティスの肩ををランバートは力強くつかんだ。にっこりと笑う。
「あなたも手伝うんですよ」
「い、胃が痛ぇ」



 そして、3人は、頑張って頑張って、かけ算を覚えた!
 そして、2人は、イライラしながらも、丁寧に確実に教えた!
 その模様はざっと省略。


 

 運命の3日後──

 バンッ!

「ダイク、たのもーーー!」
 眼の下にクマを作った3人は、意気揚々と食堂に乗り込んだ。

 

「船長にエドガーに、ビリー……いったいどうしたんだナ?」
「いや、かけ算のテストがあるからって……」
 ダイクは首をかしげた。
「あぁ、この前の話はただの冗談なんだナ。それに、モンバが昨日、全部九九を
 言えるようになったんで、次のステップに進んでいるんだナ」
 元気よくアイナが手を挙げた。
「今日から時刻と時間の勉強だよーーー」
「船長ー。今が10時30分だとすると、5時間20分後は何時何分になるか、わかる
 ッスかー? ちょっと難しいッスね、これ」


「「「……」」」








「次は面積の問題、次は分数の問題、次は……」
「いい加減にしてください」
「……胃が痛ぇ」



 

おわり





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送