その2
「そのが越えられないなら、無視すればいい」



「エレナとウララをここに呼べーーーいッ!!」

    どーん!

 平和なポポロクロイス城に響くのは、ピエトロの大声。

 ピエトロは、謁見の間の玉座に腰掛け、2人を待った。ピリピリとした空気が
部屋にただよう。
 ピエトロの妹であるエレナと、同級生であるウララはすぐにピエトロの前に現れた。
「なぁに、にいさま? これから宿題があるんだけど……」
 ピエトロは大きなため息をついた。
「ポポロ学園から呼び出しがあった。聞くところによれば、お前たち2人で、
 ロマーナ学園の男子生徒10人をボッコボッコに叩きのめしたそうじゃないか
 エレナはムスッとした顔をピエトロに向けた。
「パーセラのカフェでウララと楽しくおしゃべりしてたら、向こうが軽々しく『遊ぼう』とか
 声を掛けてきたから軽くあしらったの。先に仕掛けてきたのはあっちよ」
「あたしの魔法で、5人燃やしちゃったのがいけなかったかしら。えへ☆」



 全く反省の色なしの2人の様子に、ピエトロは堪忍袋の緒が切れる寸前だ。
「お前らなぁ……」
「わかったわよ、もう! 謝ればいいんでしょう、謝れば! せーの」

 エレナとウララはかわいらしくポーズをとった。



 ブチッ

 ピエトロの堪忍袋の緒が切れた。



「ふ、ふざけるなーーーーーッ!!!」


ばーん!
        「!?」

 
 しーーーーーーーーん・・・・・・


 ここは、ポポロクロイス城@円卓の間。

 重要な会議中の最中に、いきなりのピエトロの大きな声(※寝言)に、全員が
静まり返った。みんな、びっくりしている。
「あ、えっと……」
 ピエトロは現状をすぐに理解した。
 会議がつまらなくて、寝てしまっていたのだ!!!
 あれ↑は、夢かーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!

「ピエトロ王、私の発言にご不満でも?」
 モーム大臣が額に青筋を立ててピエトロを睨む。
 ピエトロは口もとのよだれを拭きとった。
「いや、なんでもない。失礼。続けてくれ」
 ふぅっと息を吐き、何事もなかったようにふるまう。モーム大臣もそれ以上追及せず、
再び書類に目を落とし、会議は再開した。
 隣のナルシアが、小声でピエトロにささやく。
「どうしたの、夢でもみたの?」
「あぁ、夢でよかった」
 ピエトロは心の底からそう言った。
 その後は何事もなく会議は続き、しかし、ピエトロは全く集中できないまま、会議は
終了した。



 ピエトロは、1人、円卓の間の椅子に腰かけたまま、ぼぅっとしていた。
「……」
 ずっと物思いにふけっている。
 ふと窓の外を眺める。
 チチチッと鳥が鳴き、大空へと羽ばたいていく。
 ピエトロは空のかなたに消えた鳥にエレナを重ねた。
 ──エレナは今頃どのあたりにいるのだろう。元気にしてるのだろうか。
 そう思う。
「おぉ、ピエトロ王! ここにおられましたか!」
 現れたのは、サボーだった。元気のないピエトロの姿に眉をひそめる。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか。そういえば、先ほど、エレナ姫から宅配便が届きましたよ」

 サボーの話途中で、ピエトロは円卓の間を猛ダッシュで出て行った。

「おっみやげーーーー。 ひゃっほーーーーーーーいっ!」

 ざざざーーーーー←



「わーい、エレナおばさんが本を送ってくれたー♪」
「私にはアクセサリーよ。ステキ★」
「ふふ、綺麗な布ね。服を仕立てましょう」
「なんと姫様、私なんかのために有名な毛生え薬を送ってくださるとは……」
 みんな、エレナからの贈り物を手に取っている。
 ピエトロは目をキラキラと輝かせた。
「わ、私へのお土産は!?」
「「「「「………………」」」」」
 言いにくそうに、ピノンが、パプーが、ナルシアが、ウララが、モーム大臣が
ピエトロから視線を外した。
「『兵士さんみんなで食べてください』というお菓子があったから、ドン将軍とゴン将軍が
 持って行ったわ」
「いや、だから、私へのお土産は!?」
 再度。
 そして、再度視線をそらす全員。
 ついにナルシアが切り出した。

「ないわ。 ……ピエトロには、何もないわ」


 沈黙が流れた。

 ピエトロは肩を震わせ、そして、叫んだ。

「どういうことだ、エレナー!?」

エレナとウララ

 その日、ポポロクロイス城は、大きく揺れた。









 そして、ポポロクロイス王国から離れた遠い遠い海の上──。
 ダカート号では。
 ちょうどクルーが、ピエトロと同じ質問をエレナにぶつけているところだった。

「あの、ボス。どうしてお兄さんあてのお土産は買わないんですか?」
 ピエトロには届かぬ答えをエレナはさらりと言った。

「あぁ、『放置プレイ』ってやつよ♪」



(あ、兄貴が不憫だ……)
 


 全員がそう思うのだった。

 

おわり





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