その3
ルナ「私とこの人たちは全然関係ないからッー!!」






「ようこそ、迷える人間だちよ。ここは人魚の海。
この海域を無事に通りたければ、
あなたたちの大切なものを差し出しなさい」










「「「「「「人魚、萌え〜〜〜〜ッ!!」」」」」」





 風も吹かぬ穏やかな海。
 穏やかすぎて不気味な海で、ダカート号は人魚に出会っていた。

「ちょっと、誰よこの航路を選んだのは!」
 まっさきにエレナはカーティスを睨んだ。
 カーティスはにやけた顔をしながら手を振った。
「普通、道に迷って偶然にたどりつく場所なんですよ、人魚の海というのは」
「だから?」
「ですから、行こうと思って、来れる場所じゃないんです」
「だ か ら ?」
「だ……だから、目的をもって、どんぴしゃで辿りつけるなんてさすが、航海士様の
 実力〜、みたいな」

 ゴンッ!!
 カーティスに鉄鎚が振り下ろされた音。

「ランバート。彼を医務室連れてってちょうだい!」
「はい。まったくなにやってるんでしょう、この男は」
 ズルズルズル……

「いやぁ、満足満足」
「いいもの見れたなぁ〜」
 ドノバンが笑う。他の者たちも、実にうれしそうだ。
 エレナは大きなため息をついた。
 こーれだから、うちの男どもは……。
「んもう! どうするのよ、大切なもの差し出せとか言ってるけど……あなたたち、何も
 考えてないでしょう?」
 1人ぐったり落ち込むエレナに、グーリーが声をかけた。
「昔は人間を困らせた人魚たちですが、命までは奪おうとしません。本当に自分たちに
 とって大切なものを差し出せば、この海を通してくれますよ」
「で、大切なものって?」
 エレナを中心に円陣を組むように甲板に全員が集まる。
 ちょっとばかり不機嫌なエレナに、助言を出したのはベルだった。
「前の港で聞いた話によれば、たいていの船は、ここでお金や宝石を差し出すようですよ」
「なるほどね」
 一斉に全員がダイクを見る。
 財務大臣ダイクは、静かに首を振った。
「差し出せるほどのお金も宝石もこの船にはないんだナ。雀の涙とはまさにこのこと!」
「なに、ダカート号ってそんなに貧乏なのか!?」
 あまり事態を重く見ていなかったドノバンがようやく事の非常事態に気付き始める。
──まぁ、いろんな意味で。
「そうだわ!」
 グッドアイデアがひらめいたエレナがポンッと手を叩いた。

「トード。船倉に無駄にたくさんのお酒があったわよね。あれを全部差し出しましょう!」

  

「うわぁぁぁぁぁぁぁん! ボスぅぅぅぅぅぅぅ!!
  お酒がないと わたくし、死んでしまいますぅぅぅぅぅぅーーーー!」

「あーーーもうッ!」

  ゴンッ!!
     本日、医務室2人目。
 
 エレナはエドガーを振り払うと、改めて全員を見渡した。
「さぁ、どうするの? 誰かに小指でも落としてもらいましょうか?」
 さらりと、怖いことを言う。


「ねぇ、早くしてくれない? 私たちだって暇じゃないのよ」
 待っている人魚から催促の声がかかった。
「ごめんなさい、もうちょっと待ってくれるかしら?」
 人魚がいたずらっぽく笑った。
「そうね、差し出すものがないならあなたの綺麗な紫の瞳をもらおうかしらね」
 人魚に臆することなく、エレナは手すりから身を乗り出した。
「反対に聞きたいんだけど、あなたたちの欲しいものってあるのかしら?」
 そう言われ、人魚たちは顔を見合わせた。そんなことを言われるのは初めて
だったらしい。やがて1人の人魚が髪をかきあげながら、こちらを見つめた。

「そうね……。私たちは音楽がとても好き。昔は歌姫の声を盗んだりもしたわ。
 出来るんだったら、誰かの『歌声』が欲しいわ」



 ほうほう、『歌声』ですか……。
 
「み、みんなの視線が痛いッス……」





「ダカート号、出航ーーーーー!」

 人魚に道を教えてもらい、ダカート号が動き出す。
「よかった、無事に抜けられそうね。もうこんな航路は絶対ごめんよ」
 プンプン怒るエレナ。
 それから火の玉をただよわせたモンバが甲板で突っ伏していた。
「オイラの……オイラの歌声が取られたッス! もう歌は歌えないッスか!?」
 ドノバンが優しくモンバの肩を叩いた。
「歌が歌えないだけで、声は出るんだ。いいじゃねぇか。
 大丈夫、お前は歌えなくても、立派に生きていける! むしろダカート号が
 平和になった!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ボスゥゥゥゥゥゥッ!!」
 モンバがエレナに泣きつく。
「大丈夫よ、モンバ」
「何が大丈夫なんッスか!?」
 泣きわめくモンバの背後からグーリーが声をかけた。
「ボス、もうすぐ人魚の海を出ます」
「そう。 ……そろそろかしら?」
「そろそろって?」
 モンバが首をかしげる。


 マスト上のビリーが声を張り上げた。
「に、人魚が追ってきます!」
「来たわね」
 人魚は、野球選手のように豪快に、奪ったものを投げた。


「こんな汚い歌声、いらないわよッ! 返すわ!!!
 もう何もいらないから、とっとと出てってちょうだい!!!」



 マジギレした人魚はそれだけ言うと、ピシャリと跳ねて海底に戻って行った。

 なにも取られずに人魚の海を脱出することに成功したダカート号。
 彼らは人魚たちのブラックリストに載ることとなる──。





 
「よかったね、モンバ。 はいっ! めでたし、めでたし♪」

「めでたくないッスーーーーーーー!!!」

ちょっと傷つくモンバだった。

 

おわり




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