その5
「 8月末までに読むべし 」
ここは南国の島、クロコネシア島。
その日、クロコネシア村村長は、めだま峠の長い長い道のりを歩いていた。
めだま峠山頂はうっすらと雲に覆われている。
村長は山頂にたどりつくと、座り込んだ。彼も屈強の男だが、この山道は相当こたえる。
ぜいぜいと息をし、眼下を見下ろす。自分の村が小さく見えている。ここは村より気温が低く、
汗ばんだ体に涼しい風が心地よく感じられた。
ひっそりとたたずむ家の前で、村長のお目当ての仙人は畑仕事にいそしんでいた。
まったく仙人らしくない。
「デルボイ様、こんにちは!」
デルボイは顔をあげた。
「おぉ、村長か」
デルボイは村長を家に招き入れると、麦茶を出した。村長にはとてもありがたかった。
一気に全部飲み干す。
「なにかあったかのう?」
「モンバから手紙が届いたもので」
村長はかばんから大切そうに1通の手紙を取り出し、デルボイに差し出した。
「ふむ」
村長から手紙を受け取ると、デルボイは読み始めた。特に大した内容でもなく、モンバの
船上生活がちょっと誇大してつらつらと書いてあり、自分は元気だと綴られていた。
「乗った船は『ダカート号』という名でしたか? まぁ、元気そうでなによりです」
「そりゃ良かった」
デルボイも手紙を読みながら うなづいた。
モンバは息子のようなもので、どんな内容の手紙でも2人にはとてもうれしかった。
「しかし……」
と、村長の顔色が曇る。
「モンバは使命を忘れているようですが……」
「使命? なんじゃったかの?」
村長はガクッとこけた。
「デルボイ様まで……。『勇者様の乗る船を探し、ここにお連れすること』ですよ!!」
「大丈夫じゃ。モンバはすでに大きな運命に飛び込んでおる」
デルボイは手紙をたたむと、立ち上がった。
「大きな運命……ですか。それで、デルボイ様。おっしゃってた『世界の危機』というのは
わかったのですか?」
「いいや。まだよくわからぬ。しかし、大きな黒い渦はさらに大きくなりつつある。時が
来るのを待つしかないじゃろう」
「そうですか……」
デルボイは、タンスを開けた。
そこには、今までにモンバから送られてきたいくつもの手紙が大切に保管されていた。
そこに今届いた手紙をしまう。
「それにしても……あいつはこまめに手紙を送ってくるのぉ。そんなヤツじゃったか?」
「乗った船が良かったんでしょう」
2人は、モンバのことを思い、笑った。
さてさて、モンバの乗る船「ダカート号」では。
「モンバーーーーー!!」
エレナの声が甲板に響く。
グーリーと一緒に掃除をしていたモンバが顔をあげた。
「どうしたッスか、ボス?」
「あなた、クロコネシアへ手紙はちゃんと書いてるの?」
「書いてるッスよ!」
「最近はいつ書いたの?」
「えっと、に……2週間前に……」
「そう。あまり間隔が開くと、クロコネシアの方が心配されるわ。私たちはモンバをお預かり
しているんだもの。次の港で手紙を投函できるように、書いておきなさいね」
「……ボスは、ポポロクロイスのお兄さんに手紙とか出さないッスか?」
エレナの動きがぴたりと止まった。
「え? なんで私がにいさまに手紙を書かなくちゃいけないのよ (^v^)」
ただいま放置プレイ中。
「こら、モンバ! ボスに兄貴の話は厳禁だと教えただろ」
グーリーが小声で言い、モンバの背中を叩く。
エレナの殺気に、モンバは震えた。
「す、すみませんでした!!」
「まぁ、いいわ。とにかく、書いておくのよ」
「アイアイサー!」
エレナは、それだけ話すと、スタスタと食堂のほうに歩いて行った。それを見送り、
モンバは大きく息を吐いた。
「特に用もないのに、なんでいちいち手紙を書かなきゃいけないッスか」
エレナが去って行ったあと、モンバはモップ掛けをしながらブツブツと言った。
「このダカート号の乗組員全員、モンバの親代わりだからな。みんな心配なんだ。オレも
ボスと同意見だ。自分の安否を知らせるのは大切なことだぞ」
そう言ったグーリーが作業の手を止めた。
「そうだ、モンバ。オレが風流な手紙の書き方を教えてやろう。この時期だと……」
モンバは首をかしげた。
「”ふーりゅー”って、なんスか?」
再び、クロコネシア島。
「デルボイ様、またモンバから手紙が届いてますよ」
「本当に律儀なヤツじゃのう」
「今回は、変わってますよ。ハガキです」
「どれどれ……」
「残暑見舞いとは……」
デルボイは、ハガキを見ながら「ひゃっひゃっひゃっ」と笑った。
つられて村長も笑った。
「クロコネシアは『常夏の島』だから、残暑とかないんですけどねー」
それでも、2人はモンバからの手紙がとてもうれしかった。
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