その7
彼女の手料理




 ダカート号・医務室──ただいま診察中。

 ベルから渡された体温計を見て、ランバートはうなづいた。
「風邪ですね。注射打って、薬を飲んで、ぐっすり眠りましょう!」
「私としたことが、風邪をひくなんて、油断したよ」
 そう言い、ベルは大きなくしゃみをした。ランバートは立ち上がると、薬の入った棚を
あさり始めた。
「そこのベットで横になっていてください」
「あぁ。そうするよ」
 ベルはベットに向かった。仕切りのカーテンを閉めようとしたその時、思い出したように
呟いた。
「でも、夕飯はどうしよう。なにか作ってこないとみんなに迷惑がかかるし……」

「あら、だったら私が作るわよ」

 その時、誰か別の声が響いた。ランバートとベルが扉の入り口をみると、そこには
エレナが立っていた。
「ボス、どうなさったんですか?」
 風邪をひいてぐったりしているベルが、エレナもどこか具合が悪いのかと気遣う。
それに対してランバートは手を振った。
「あぁ、いいんですよ、ベルは寝ててください。 ボスはいつもフラフラ〜と医務室に
 来るんですよ。……体重計に乗りに
「まぁ」

「しょうがないじゃない! 誰かさんの料理がおいしすぎるから体重が増えるのよ!」



「ボス……病人に八つ当たりするのはおやめください。ベルは熱が38.5度あります」
「そうなの?! ベル、ゆっくり休んでちょうだい。夕飯は私が作るわ」
「でも、ものすごい量の食事ですよ。みんなよく食べますし。料理はかなり体力のいる
 仕事です。大丈夫ですか?」
 心配そうなベル。
 エレナは満面の笑みで、ドンッと胸を張って答えた。
「任せなさいって!!」




 というわけで、
 エレナが夕飯を作るというニュースは、瞬く間にダカート号内に広まった。
「へぇ〜。ボスが夕飯をね」
「なにを作ってくれると思う?」
「一国のお姫様が手料理食わせてくれるなんて、最高なんだナ」
「きっと、すごいスペシャルな料理を作ってくれるに違いない!」
「わたくしは、お酒がの飲めればなんでも!」
 甲板ではエレナの料理で話題もちきりだ。
「せ、船長! 大変です!!」
 盛り上がっているところに、マスト上の物見台で見張りをしていたビリーの声がドノバンの
もとに届いた。
「どうした、ビリー!? モンスターか!?」
 ドノバンがビリーを見上げる。ビリーは大声で言った。

「大変です! 厨房から黒煙が出てきています!!」


       えええええーーーーーー!?

うっわーーーーーー、ボスは何の料理をしているんだーーー(汗)。
 
 全員が引いているところに、大砲回廊からアイナが駆けあがってきた。
「あれ、船長たち、どうしたの〜?」
「おぉ、アイナか!」
「ベルのお見舞いに行ってきたら、ボスのことすごく心配していたから、あたい、ボスの
 料理の手伝いに行ってくるね〜」
 救世主アイナが現れたッ!
「よし、頼んだ、アイナ。ボスが何をしているか偵察してきてくれ!!」
「アイアイサー♪」
 アイナは、軽く返事をすると、食堂に入って行った。
 
 
 ──3分後
 
 アイナが食堂から出てきた。
 
「し……死……」

バタッ

「「「「「あいにゃーーーんッ!!!」」」」」


 アイナの倒れ際の一言に、全員が凍りついた。
 ど、どうしよう!
 今晩、ダカート号は内部犯によって全滅するかもしれない!!!
 
「せ、船長。どうしましょう!」
「ご決断を!」
「う……うぅむ……」
 ドノバンは腕を組んで考え、そして結論を出した。
「俺たちは、元海賊だッ!! 俺たちは強い! 自分たちの胃も強いことを信じるしかない!!
 お前ら、覚悟を決めて食うぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 グーリーが、カーティスの肩を叩いた。
「お前はやめとけ」
「あぁ、そうする。1日ぐらい飯を食わなくても死なないだろう」




 そして、運命の夕飯。




ゴゴゴゴゴ……







チーン……






「ご、ごめんなさい。 頑張ったんですが、無理でした。
お湯ぐらいはなんとか沸かせたので、これで勘弁してください」

 エレナの言葉と、目の前のカップラーメンに、ダカート一家は満面の笑みを浮かべた。

 ボス、良いご決断を! ……死なずに済んだぜ。



 ──そして、次の日にはベルは完全回復し、厨房に復帰しましたとさ。






おわり




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