みんなが集まるダカート号の食堂には、「開かずの扉」というものが存在する。

 「月の掟の冒険」をプレイされた方は、ご存知かと思われる厨房へ続く扉の近くで、
船外に出るための扉なのだが、押しても引いても、どうしても開かない扉──。
 誰も、なにも、その扉について触れるものはいなかった。
 触れないようにしていたのかもしれない。



 夕食の手伝いをしていたアイナとモンバが、食器をテーブルに並べながら、ふとベルに
聞いた。
「ねぇ、ベル。あの扉って、どうして開かないの?」
 配膳中のベルの手がぴたりと止まった。
「え……、扉かい?」
「そうそう。オイラも気になっていたッス。非常用なんスか?」
 ベルは、一呼吸してから鼻で笑った。

「あそこはね……闇の世界と繋がっているのさ。
    あの扉を無理に開けたら、お化けが出てきて、食べられちまうよ」
      

  
「「きょえーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」


 二人が怖がる姿を見て、ベルは吹き出した。
「はははッ、冗談だよ。あれは非常用の扉。……といっても錆ついて開かないんだけどね」
「そ、そうだよねぇ〜」
 アイナが胸をなでおろす。ベルは手を叩いた。
「さぁ、準備準備。 早くしないと、みんなが来るよ。 今の話は忘れな」
「「アイアイサー!」」
 腑に落ちない感じだが、怖い話はしたくないようで、アイナとモンバはそれ以上何も
聞かなかった。
「……」
 ベルが、扉を振り返る。
 彼女の表情は、とても暗かった。


  
 
 


 その深夜──

 エレナは食堂の扉を開けた。
 薄暗い食堂で、テーブルにはろうそくの明かりが1つ灯っている。そこにはベルが1人座って
物思いにふけっているので、エレナは声をかけた。
「あら、ベル……」

「ボス、どうなさったんですか?」
 驚いてベルが立ち上がる。 夜更けにエレナは寝間着姿ではなく、普段着姿だった。腰に剣を
下げている。 エレナは笑った。
「私はこれから朝まで船首の物見台で見張り当番よ。温かい飲み物でも作ろうと思って」
「そうですか。御苦労さまです」
「いえいえ。私もこの船に乗せてもらっているんだもの、見張りぐらい当然のことよ」
「そんな。昼間ならともかく、夜遅くの見張りを か弱い女性にさせるなんて……」
「大丈夫よ。私、とっても強いもの
「ふふ、そうでしたね」
「だからグーリーも、遠慮せずにもっと見張り当番のシフトを組んでくれればいいのに」
「あなたは、『船の女神』ですもの。いてくれるだけで十分ですよ」
 そんなベルの言葉にエレナは首をかしげた。
「その『船の女神』っていうの、前にも私に言ったわよね」
「え、そうでしたか?」
「えぇ、私がハーピエルを倒して、この船に乗船することになった最初の夜、この食堂であなたは
 私にそう言ったわ」
「そ……そうでしたか」
 急にベルは押し黙った。何か気に障ることを言ってしまったのかもしれない。
 重い雰囲気になってしまったので、エレナは話題を変えようとチラリと机の上を見た。ロウソクの
灯りに、ビンとコップが浮き上がって見える。
「あら、お酒を飲んでいたの?」
「私だってエドガーほどじゃないですが、ちょっとはお酒をたしなみますよ」
「そう……」
 ベルは、窓の外を見た。エレナも彼女の視線を追う。

 今日は、月のない、とても静かな夜だった。



「私も1人で飲みたいときがあるんですよ。こんな新月の夜は──」



 





ダカート号 GO! ゴーゴゴーッ!!


第0話

 「 はじまりの、瞳の扉のその向こう側 」





  

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