ポポロクロイス城──中庭。

 今日も相変わらず良い天気で、ポカポカ陽気の中、中庭でナルシアは異国からの
訪問者と会っていた。
 普通、来客は謁見の間でするのだが、気が知れた仲間だったので、ナルシアは
中庭に通したのだ。とても静かで、噴水の水の音が辺りに響く。
 散歩がてら一緒についてきたピノンは、その訪問者が怖いのか、ナルシアの後ろに
隠れて、様子をうかがっていた。
「ピノン、私はこの方とお話をするから、向こうで遊んでいてくれないかしら?」
「はーい。行こう、パプー」
 ピノンは、もう一度その訪問者を見て、軽くおじぎをすると、パプーと一緒に駆けていく。
 ナルシアはその姿を笑顔で見送ると、訪問者に向き直った。

「お久しぶりですね、鬼面童子さん」

 訪問者は鬼の面をつけ、変わった鎧を身にまとった鬼面童子だった。鬼の面をつけているもの
のその眼はとても優しい。
 鬼面童子は、昔、ピエトロ、ナルシアと冒険を共にしたことのある仲間だった。今は日の国で
城中務めをしており、妻と一緒に暮らしているらしい。
 鬼面童子もピノンの去った方を見て笑った。
「いや、まったく。ナルシア殿も立派な母親になりましたな」
「ふふふ、あの子、そのお面がちょっと怖かったみたい」
「いつもは外しているのだが、ここへ来る時は、つけておいたほうがいいと思ったでござる」
「それで、至急の用ってなにかしら? ごめんなさいね、ピエトロは今、いないのよ」
 鬼面童子はピエトロを訪ねてポポロクロイス城を訪れたのだが、あいにくピエトロは朝から
不在で、代わりナルシアが彼に会ったのだが、彼女は不安な顔になり、風車小屋のほうを
みつめた。



 その先にあるのは、竜の祠──。

 ナルシアは目を伏せた。
「半年前に、闇の精霊との戦いがあったわ。そして、最近、また世界で良くないことが起ころうと
 している気配があるの。それが何かはよくわからないのだけれど、ピエトロは危惧して、今日は
 竜の祠の見回りに行っているの」
「良くないこと……でござるか」
 鬼面童子も神妙な面持ちで腕を組んだ。
 その様子を見て、ナルシアは鬼面童子の話も良くない話なのだと悟った。
「ピエトロに大事な話があるのでしょう? いつ帰ってくるかわからないけど、客室に案内する
 から待つといいわ」
「いや、拙者の話は……」
 鬼面童子は押し黙り、少し考えてから、ようやく切り出した。

「あの、実は……先日ピエトロ殿の妹君のエレナ殿が、日の国を訪れたでござる。それで……」

「まぁ、エレナちゃんが!?」
 ナルシアが驚く。 まさか、鬼面童子の口からエレナの名が出ると思っていなかったのだ。
 日の国は、鬼面童子の住む国だ。ずいぶん遠いところまで旅をしているのだな、とナルシアは
感心した。
 しかし……話しにくそうな鬼面童子の様子では、世界の危機ではないにしろ、よくない話が
あるらしい。
「わかりました」
 ナルシアは、噴水に腰かけ、鬼面童子にも座るようにすすめた。




「その話、ピエトロではなく、私がお伺いいたしましょう」



 



ダカート号 GO! ゴーゴゴーッ!!


第10話

「日の国は、今日も雨だった」




  

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