第10話2
「日の国は今日も雨だった」
──その日、ダカート号は日の国にたどりついた。
意気揚々と港に降り立ったエレナに、後ろからドノバンの声がかかった。
「ボス、雨ですぜ。傘をお持ちしましょうか?」
エレナは振り返ると強気に笑った。
「いらないわ。雨が降ってるなら濡れて行くだけよ。ここは日の国、年中雨が降っている国よ」
「へぇ! ずっと雨が降ってるッスか」
「なんか、変わった国だね〜」
エレナの後ろをついてきたモンバとアイナが興味津津に辺りを見回す。今までいろいろな場所に
寄ってきたダカート号だが、この場所はどこにも似つかなかった。瓦の屋根の建物に、そこに住む
者の着物、そして髪型。ダカート号のクルーも統一感なく個性的だが、この日の国もとても個性的だ。
そして、不思議なのは、この降り続ける雨。
「うーん、ずいぶん前の話になるらしいけど、この国には守り神の水龍がいたのだけど、亡くなって、
その水龍の加護がなくなってしまったためにこの国はずっと雨が降っているって聞いたわ」
そんな話をモンバとアイナにしているところで、ようやくダカート号全員、船から降り、エレナの
周りに集合した。
最初に手を挙げたのは、カーティスだった。
「一応、ここが最後の経由地です。ここで食糧を積み込んだら、次はいよいよボスの目的地、
バファンの剣の眠る場所に上陸です」
キリッとした表情でエレナはうなづいた。
目的地までもう少しだ。 よくここまで来れたなと、自分でも感心する。でも、やはり、ここまで
来れたのは、ダカート号のみんなのおかげだ。もし、1人でフライヤーヨットで旅をしたままだったら
きっと途中で挫折して、ポポロクロイスに逆戻りだっただろうと、そう思う。
「んじゃあ、いつも通り、食糧・物資調達班と、情報収集班に分かれて行動だ。 えぇと……」
ドノバンが、班を分けようとしているところに、エレナに声がかかった。
「これはこれは、もしやエレナ殿ではござらぬか?」
驚いてエレナが振り返る。そこには、鎧を身にまとった日の国の武士が立っていた。なかなか
渋いナイスミドルである。
「ボス……お知り合いですか?」
グーリーが警戒するように声をかけてきた武士に目を向ける。
エレナにも、まったく記憶にない人物だ。
「あ、あの……失礼ですが、どちらさまでしたでしょうか?」
エレナがたずねると、その武士は声に出して笑った。そして、袋から面を取り出し、顔につけた。
「あぁ、こうするとわかるかな?」
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その面の形相にアイナとモンバが驚いてエレナの後ろに隠れる。エレナの表情が明るくなった。
「まぁ! お久しぶりです、鬼面童子さん! お面をつけてないからわからなかったわ」
「いやはや、本当にエレナ殿であったとは! ピエトロ殿は元気でござるか?」
「さぁ、知らないわ。元気なんじゃないかしら?」
さらりとピエトロのことを流され、ちょっと困惑気味の鬼面童子。何か気に障ることでも言ったのか?
しかし、そんなこと気にしていない様子で、エレナはみんなに鬼面童子を紹介した。
「この方は鬼面童子さん。 昔、にいさまと一緒に世界を救ったこともあるのよ。彼のおかげで、
日の国とポポロクロイスはとても親交が厚いの」
エレナに紹介され、鬼面童子は深々と頭を下げた。
「お初ににおめにかかる。拙者は鬼面童子でござる。よく日の国へ参られた」
「あぁ、こりゃどうも」
ダカート号のみんなも彼を真似して頭を下げた。
鬼面童子は、不思議な様子でエレナとダカート号クルーを見た。ポポロクロイスの姫の仲間に
してはいささか怪しそうな者たちが多い気がするが……。
「鬼面童子さんは、どうしてこんなところにいるの?」
本当はエレナにその質問をしたかったのだが、鬼面童子は律義に答えた。
「殿が『釣りがしたいでおじゃる』とおっしゃるので、今日は殿のお供で海に行っていたでござる」
「……ということは」
エレナがはっと顔を上げる。エレナたちから少し離れたところに、ものすごい大名行列が
止まっていた。ゆっくりとカゴ持ちがこちらに近づき、カゴを下ろす。そこから1人の人物が
出てきた。
「殿ッ!」
鬼面童子が声を上げる。エレナは失礼のないように、全員に伏せるように指示を出す。
わけのわからないままドノバンたちはとりあえずひれ伏した。
エレナも鬼面童子の隣に膝をついて座った。
現れたのは、日の国当主・旭日龍宮天政位大帝武者小路助六、通称『殿』である。
「どうしたでおじゃるか? その者たちは、そなたの知り合いか?」
「ははっ、殿。 この方はエレナ殿。ポポロクロイスのピエトロ王の妹君でございます」
エレナはゆっくり顔を上げ、そしてにっこりほほ笑んだ。
「お初にお目ににかかります。エレナ・パカプカです。殿におかれましては、御機嫌麗しく、
恐悦至極にございます」
「余は殿でおじゃる。そうか、そなた、あのピエトロの妹か。そうかそうか。遠いところをわざわざ
ご苦労でおじゃる」
殿は扇子をひろげ、満足そうにうなづき、それからエレナの後ろに控えるダカート号の
クルーに目を向けた。
「ほほう。後ろにおる者たちは、そなたの召使いでおじゃるか?」
め……召使い!? って、どういうことだ、ゴラァ!!
全員が頭を上げて、ものすっごい勢いで殿を睨んだ。
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