その日、モンバはマスト上の見張り台に立っていた。
 太陽は心地よく、波も穏やかでダカート号がゆりかごのようにゆったりと揺れたりするので
モンバは眠ってしまいそうだった。

 ゴチンッ☆

 そんなモンバの頭をカーティスがグーで叩いた。一発で目が覚めたようで、モンバは
頭をさすりながらカーティスを睨みあげた。
「まだ寝てなかったッス!」
「寝ようとしてただろッ!」
 カーティスが見張り台に上がっていたのは気象観測するためで、見張りのためではない。
太陽の高度をはかり、気温、気圧といろいろノートに記録していく。双眼鏡で遠い空を見つめ、
カーティスは眉をひそめた。
 そんなこと気にせず、モンバは平和そうに、また大きなあくびをする。
「ようやく次はボスの目的地ッスねー」
「そうだな。日の国で物資の調達が出来なくて進路を変更した分、大きく時間のロスをしたが、
 なんとかたどりつけそうだ」
 航海士として目的地へ船を導くのが彼の仕事だ。一仕事が終わりそうで、カーティスは
満足そうにうなづいた。

 と、そこに、伝声管からドノバンの怒鳴り声が聞こえてきた。

 モンバとカーティスは顔を見合わせ、伝声管に耳を傾ける。

______________________________
「まったく、ボス! それはいったいどういうことですか!?」
「どういうことも何も……ねぇ」
「は? 聞こえませんよ! そんな大事なこと、もっと大きな声で早く言うべきでしょう!」
「いえね、言うタイミングを逃したというか……」
「ボーーーースーーーー!!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 どうやらエレナの部屋かららしい。ドノバンがエレナに怒られているならまだしも、その逆で
エレナがドノバンに怒られているらしい。なんて珍しい光景だ。
 そして、しばらくして、ドノバンから正式に伝声管に通達があった。


「お前ら、全員ボスの部屋に集合だッ!!」



 モンバが目をパチクリさせた。
「……なんスかね?」
「さぁな。 じゃ、ちょっと行ってくる」
「オイラも行くッス!」
「悪いがお前はここで見張りを続けてくれ」
 全員集合って言われてるのに、残れと言われ、モンバはムスッとした。
 カーティスは険しい面持ちで遠くの海を見つめた。先ほどまで双眼鏡で覗いていた海域だ。
 モンバも不思議に思い、彼の視線の先を追う。 そして、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 彼らの見つめる先にあるもの。 

      ──魔の海峡

 船乗りに恐れられる霧と奈落の海だ。
「魔の海峡の天気がかなり悪い。気をつけて見ていて欲しいんだ。何かあったら、すぐに連絡をくれ」
「アイアイサー!」
 モンバは大きな声で返事をした。






「失礼します」
 海図室に観測用の荷物を置き、カーティスがエレナの部屋へ行くと、そこにはほぼ全員が揃って
いた。楽しそうな雰囲気……ではなさそうだ。
「おい、モンバはどうした?」
 ドノバンに聞かれ、カーティスは答えた。
「天候がちょっと気になるので、見張りを続けてもらってます。呼んできましょうか?」
「いや、いい。……大丈夫だ」
 ドノバンはその場にいる全員を見渡した。エレナはイスに座り、人差し指で机を叩いて考え事を
しているようだった。あまり乗り気ではない顔で集まったみんなを見ている。
 この場にいないのは、見張りに立つモンバとビリー、あとは機関室のガストンだ。ガストンの
かわりにアイナがこの場に来ている。彼女の話では、エンジンのクララの調子が悪く、ガストンは
手が離せないとのこと。手が離せないどころか、アイナの他にも人手が欲しいらしい。

 エンジンのことは後で人を向かわせることにして、ドノバンはエレナをせかした。
「さて、ボス。 さっき言ってたこと、もう一度どうぞ。 みんなの意見を聞くべきです」
「ドノバン、やっぱりいいわよ」
 そう言うエレナをドノバンがギロリと睨んだ。
「話してください!」
 そう強く言われ、エレナは迷ってから、ようやく口を開いた。


「みんなには言ってなかったんだけど、先日、日の国に行って、みんなが牢屋に入ってた頃、
 私は殿と一緒に『龍のほこら』と呼ばれる場所に行っていたの。……そこで、声を聞いたのよ」



「竜と人の子よ、世界に危機が迫っている。 ポポロクロイスへ戻るのだ……」

 エレナの部屋はしーんと静まりかえったままだ。

「世界の危機……。うぅーむ、なんか厄介そうだな」
 グーリーが腕を組む。
 重い空気を変えようとエレナはニコッと笑った。
「でも、ほら! 空耳かもしれないし! だって殿にはあの声は聞こえてなかったわ!」
 そんなエレナの明るい声は、この重い空気の部屋には通用しなかった!
「それは、ボスが竜族の血をひいているからでしょう。龍の祠で、あなたに話しかけたのですよ。
 その声を無視するのはいただけないかと」
「……」
 ランバートに言われ、エレナは押し黙った。 立ち上がり、みんなに背を向け、海を見つめる。



世界の危機ってなによ?  ポポロクロイスに戻ったところで私はまた
みんなの足手まといになるんだわ。 だったら戻らないほうがいい。
 世界の危機なら、
英雄ピエトロいつもみたいになんとかしてくれるわよ!!」






   「にいさまが……」
    

 






ダカート号 GO! ゴーゴゴーッ!!

最終話

「 そして、『月の掟の冒険』へ…… 」


 

  

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