第11話4
「そして『月の掟の冒険』へ……」




「……そう。 言いたいことは、それだけかしら?」
  ニコッ

       「……へ?」
 

  ゴンッ☆


「さっさとモンバに体を返して出航してちょうだい。  アイナ、一緒に機関室に行きましょう」
「え。……あ、うん!」
 アイナが(うわぁ……)と、気の毒そうにダカート号をちらりと見る。大きなたんこぶを頭に作って、
甲板に突っ伏して動かない。体はモンバのものなのだが、エレナは躊躇なかった。
 ランバートに冷たいタオルを頭に乗せられ、ダカート号は身震いして起き上った。
「無茶しやがる……。ほんまに行かへんからな!」
 船倉へ降りようとするエレナは歩みを止め、ダカート号を振り返った。大きなため息をつく。
「そう、仕方ないわね。わかったわ」
 そう言われ、ダカート号はほっと胸をなでおろす。エレナはグーリーを呼んだ。
「グーリー、小舟を出してちょうだい。彼が動かないっていうのなら、私1人で行くから」
「なっ……!?」
 慌ててグーリーが間に入る。
「無理です、ボス。こんな海のど真ん中で小舟を出すなんて、波にさらわれて終わりです」
「しょうがないじゃない! だったらいいわ、泳いで帰るから」
「泳ぐって……もっと危険です!」
 グーリーが必死でエレナを止めに入る。エレナはダカート号を睨んだ。
「あなたに私は止められない。なんとしても私は行くわ、ポポロクロイスへ!!」 
 エレナに迷いはなかった。
「……!」
 ダカート号が口を紡ぎ、首を垂れた。言い返す言葉が見つからないらしい。そんな彼の隣に
ドノバンが座った。


「お前もわかってるはずだろう? ボスは、真っ直ぐな人だ。 この先に、どんな危険が待っている
 かは知らないが、あの人はそれに立ち向かう」
「……」
 じっと甲板を睨んでいたダカート号が、意を決して顔を上げた。彼にも、もう、迷いはない。
「わかった! 行こう、ポポロクロイスへ。 なにがあっても、オレはあんたたちを守る。約束だ。
 だから、前へ進め!!」
 そう言うと、彼の体はガクリと折れて、甲板に倒れた。ランバートがその体を支える。
 ものの数秒で、モンバは目を開けた。きょろきょろと辺りを見回す。
「あれ? オイラ、どうして甲板にいるッスか? たしかマストの上で見張りを……」
「モンバ……!!」
 みんなが安堵する。みんなが自分を囲んでいるので、モンバは頭にはてなマークを浮かべながら
首を傾げた。どうやら乗っ取られていた間の記憶はないらしい。ランバートは、彼の頭に手を置いた。
「『クロコネシア人』、そして『子供』ということで、一番モンバの心に入りやすかったのでしょう」
「なんの話ッスか?」
「こちらの話です。体のほうは大丈夫ですか?」
「大丈夫もなにもオイラなんともないッスよ。あ、でも、言われれば頭が殴られたよーにガンガン
 するッス」 
「あ……ゴメンね、モンバ」
「なんでボスが謝るッスか?」
 エレナが苦笑する。
 ひと段落したところで、ドノバンが甲板にいる全員に出航の準備を指示した。モンバも見張りに
戻ろうとしたが、ぐいっとドノバンに手を掴まれる。
「おい、ランバート。モンバを医務室に連れてって一応診てやってくれ」
「そうですね。モンバ、ちょっと私の部屋でお話をしましょうか」
「へ? だからオイラはなんともないッスよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 ランバートに引きずられ、モンバの声が船底に遠ざかっていく。
 それと同時に聞こえてきたのは、エンジン音だった。
 クララがまた動き出したのだ。エドガーが舵輪を握り、伝声管でガストンと話をしている。
どうやらすぐにでも動かせそうだ。
「やったぁ! 精霊石が力を取り戻したんだ!」
 ぱぁっとアイナの顔が明るくなる。そして、うれしそうにエレナを見上げたが、彼女の顔に笑顔は
なかった。
「ボス、どしたの?」
「え? ううん、なんでもないわ。ほら、ガストンが待ってるわよ」
 アイナが機関室へ降りていくのを見送ると、エレナはマストに手を当て目を閉じた。
「……ありがとう、ダカート号」







 カーティスの計算した安全かつ最短ルートでしばらく安定した航海が続き、ダカート号はついに
目的地のポポロクロイス近海までへたどりついた。鳥がたくさん飛んでいるので、陸地はもうすぐ
そこだろう。
 もう必要もないな、と、ドノバンは地図をたたんだ。エレナを振り返る。彼女は、後部甲板で
ビーチチェアに座って本を読んでいた。傍から見れば、余裕に感じられるが、そんなことはない。
彼女はポポロクロイスに近づくにつれて不安になっていった。本も、同じ列を何度も何度も目で
追うが、ちっとも頭に文章が入ってこない。
「ボス、船はパーセラにつけましょうか?」
 ドノバンの声に、エレナは顔を上げた。
「ポポロクロイス海岸に行きましょう。お城からも近いし、あそこならこの大型船を停泊させられるわ」
「わかりました」
「ボス、陸地が見えてきましたーーー!」
 マスト上で見張りをしていたビリーの大きな声が甲板に響く。
 エレナは立ち上がり前方に目を凝らした。
     
     

 夕焼けに赤く染まるポポロクロイス城がエレナの目に映る。ついに帰ってきたのだ。
「おかしいわね……」
 エレナが身を乗り出し、城を見つめる。もうすぐ夜が来るというのに、灯りがともされていないのだ。
いつもなら教会の「希望の灯」が道しるべとなるのに、どうしたのだろう。 そう思っているうちに
陸地はどんどん近くなり、やがてダカート号はポポロクロイス海岸へたどりついた。桟橋に船を寄せ、
錨をおろす。
 エレナは腰に剣を装備し、浜辺に上陸した。静かだ。迫る夜がそうさせているのか、人の気配が
全くしないのだ。 警戒することにこしたことはない、エレナは剣の柄を握り締めた。
「ボス」
 自分を呼ぶ声に、エレナは振り返る。

「ボス。 あなたは1人じゃありません。この先に何があろうとも、みんなボスについていきます!」


 旅立ちは1人だった。 それが今では、自分を大切に思ってくれる仲間がいる。これ以上に心強い
ことはない。自分は大丈夫だ。
「ありがとう、みんな!」
 胸騒ぎは消えない。この先に何かが待っている──!! 後戻りはしない、前に進むのみだ。
「行きましょう、ポポロクロイス城へ!!」
 エレナは力強い足取りで、ダカート号のみんなと共にポポロクロイス城へと向かった。







そして、『月の掟の冒険』が始まる……




Run Kakko presents 「ポケットからレッドカード4秒前」



<おわり>


御愛読ありがとうございました   2010.08.03 括弧るん

 



  

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