第1話2
「その船の名は、ダカート号ッ!!」
「おい、ランバートはいるか!? すぐ医務室に戻って来いッ!!」
伝声管からどなり声が響いてくる。
「こらー、ランバートーー? いないのかーーーーーー?」
「あ、あのぅ、私、そんなにケガしてないし……」
「いえいえ、お嬢さん。うちの船医は優秀です、ご安心を。
ランバート、すぐ医務室に来いッ!!」
カポッ
その男は、イライラしながら伝声管のフタを閉じると、再び作業机へと戻った。
どなり声はピタリと止まり、あたりに静けさが戻る。
男はため息をつくと、難しい顔で海図と向き合った。
「えーーーーーっと、風向きを考えると……」
集中して作業にあたろうとするも、そこへ、またもやバタバタという足音がし、
乱暴に部屋の扉が開かれる。
「カーティス、いますか?」
その声に、男──カーティスは顔をあげることもせず、地図から目を離さず言った。
「ランバートか。お前、船長が探してるぞ。うるさいから伝声管のフタを閉めたところだ」
部屋に入ってきたランバートは、後ろ手で扉を閉めると2、3歩カーティスに歩み寄った。
「ハーピエルを倒したっていうお嬢さんにはもう会いましたか?」
「いいや、まだだけど。
まったく、ベルのヤツ、イカリをおろしてなかったから、だいぶ船が流されているんだ。
船の位置確認のほうが先だ」
「いやいや、仕事熱心ですね。神経性胃炎には気を付けてください」
「お前も早く医務室戻って仕事したら? 船長とお嬢さんが待ってるぞ」
「ハーピエルといえば、男の船乗りに幻影をみせるモンスター。私たちは本当によく
助かったものです」
「そんな話は後でいいから。……本当に船長に怒られるって!!」
カーティスはイラッとして、ようやく海図から視線をあげた。
「そーれがですね、目が覚めたら、こんなんだったんですが、私はどんな幻影を
見ていたんでしょう? さっぱり思い出せなくて・・・・・・」
「……いや、思い出さなくていいんじゃないの?」
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