第4話6
健康診断で、ゴーゴゴーッ!」

 


 そして翌朝。




「やったーーー。元気ーーーーーッ


 ベッドの上で、ビリーは思いっきり叫んだ。
「昨日の死にそうな表情が、ウソみたいですね」
 ランバートが書類に書き込みながら呆れたように笑う。
「だってさ、腹を切ったんだぜ。もう怖いものはないよ! ……注射以外は
「お腹を切ったといっても、ほんのちょっとですよ。抜糸するまでは絶対安静ですから。
 それから、次の島に着いたら、ちゃんとした設備のある病院に一緒に行きましょう」
「えーーー。ランバートの診察だけでいいよぉ」
「ダメです。行きますよ」
「……ヘーイ」
 がっかりしたようなビリーの気の抜けた返事。

 トントンッ

 と、そこに医務室の扉を叩く音がした。ランバートと、ビリーが同時に扉を見つめる。
「どうぞ」
 そう言うなり、扉が開き、みんなが一斉に部屋になだれ込んできた。
 病室ではお静かに!というのが基本だが、この船ではそんなこと関係ないらしい。
 トードが一番にベッドに駆け寄り、ビリーに抱きつく。
「……」
「……トード?」
 言葉もないようで、彼は肩を震わせ泣いている。そして、ようやく顔をあげた。

   

「うぅ、よかった。ビリー……。オレ、お前が死んだらどうしようかと……」
「んな大げさな……」
「おい、トード。男が泣くんじゃねぇ!」
 ドノバンに一喝され、トードが鼻をすする。
 みんなビリーの元気な姿を見て安心したようだ。1人ずつビリーに声をかけ、医務室に
笑い声が飛び交う。
 


「……」
 エレナは、医務室から漏れてくる笑い声を聞いて、安堵した。
「あれ、ボス。中に入らないんですか?」
 遅れてやってきたベルが、部屋に入らずに大砲回廊に立っているエレナに声をかけた。
「えぇ、私は後にするわ」
「なぜです?」
「ほら、私、竜だし、体重重いし、医務室は定員オーバーみたいだし、私が入って、
 重くて船が傾いて沈没するといけないし」



「なーに、わけわかんないこと言ってるんですか!」
 ベルはエレナの腕をつかむと、強引に引っ張った。
 バンッと豪快に医務室の扉を開ける。
「邪魔するよ! おや、なんだい、全員いるんじゃないか! ほらほら、ビリー。
 ボスが見舞いにきてくれたよ!」
 他のクルーから、からかうようなヤジが飛ぶ。エレナは人ごみをかき分けるように
ビリーのベッドに近づいた。
「ビリー、もう具合は大丈夫?」
「ありがとうございます、ボス。心配おかけしました」
「ほんとに。昨日の注射の時の暴れようには驚いたわよ!」
 エレナの言葉に、全員がドッと笑う。

 そんなみんなの姿を見渡し、エレナは、ふふっと笑った。
「なんだか、こうしてると、私たちって『仲間』っていうより『家族』よね」

 ふと漏らした彼女の言葉に、しんっと部屋が静まり返った。
 
 言っちゃまずかったのかと、エレナが口を押さえる。
 元海賊だ。みんなの素性を知らないことのほうがまだまだ多い。血のつながった家族と
縁の薄い者や、家族のない者だっているかもしれないのに、軽はずみなことを言って
しまったのかとそう思う。

 しかし、一瞬の間をおいて、みんながそれぞれにうなづいた。
「……家族か」
「そりゃいいや」
「うん、いいんじゃない?」
 エレナがほっと胸をなでおろす。
 ドノバンが腕を組み、うなづく。
『ダカート一家』か、いい響きじゃないか?」
「今度、海賊船と衝突したら、そう名乗ってやりましょう☆」
「やめて! そういう呼び方はやめて頂戴」
 そんなつもりで言ったんじゃなかったエレナが頭をかかえる。

「それじゃあ、そろそろ船を動かしましょう。進路はそのまま。次の目的地を目指すって
 ことでいいですね」
 確認するようにカーティスが手を挙げた。
「そうだな、よし。出航だ!」

「おーーーーーーーーうッ!!」

 
 

 ビリーは、グーリーを見上げて言った。


「グーリー! もう大丈夫だから、昼から見張り番できるぜッ!」



「コラ、待て、病人」






第4話 健康診断で、ゴーゴゴーッ!
おわり


  

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