第8話7
「歓楽都市ガバスッ! うちのボスとカジノの裏ボス」
──ガバスを離れて数日後。
立ち寄った港にて、ここ数日分の新聞を購入したダカート号クルーは、手分けして
片っぱしから読んでいた。
「ボス、どうやら載ってないようです」
確認作業が終わり、エレナはほっと胸をなでおろした。
「本当、何も書いてないわね。私たちに懸賞金でもかけられてたらどうしようかと思ったわ」
ガバスの一件があり、新聞に自分たちのことが書かれていないか心配だったのだ。
結構大きな騒ぎになっていたし、顔も見られているし、指名手配されて追われることにでも
なったらと危惧していたが、なんてことなかったようだ。
この騒ぎが兄の知れることになったら……と思うと、気が気でなかったエレナは、うれしそうに
青空に伸びをした。
「揉み消してくれたに違いないですね」
「裏ボスが後処理をしてくれたんでしょう」
新聞をたたみながらカーティスとランバートは笑った。
「なんの話?」
エレナが2人をにらむ。
「いいえ、こちらの話です」
「まぁ、いいわ。私って、ああいう場所は向いてないんだわ。やっぱり真面目に航海を
することにしましょう」
自分に言い聞かせるようにエレナは甲板にいるみんなに言った。
それから、いつまでも船のへりで落ち込むダイクに声をかけた。
「ほら。ダイクも、元気を出してちょうだい」
「お……惜しいことをしたんだナ」
ダイクは泣いていた。涙が止まらなかった。
そう、あの時、カジノの酒場で天井高く投げてしまったものに……。
「ひゃ……ひゃくまんえーーーーーーーーーーんッ!!!」
ダイクの叫びが大海原にどこまでも響いた。
はい、そんなわけで……
「申し訳ない、申し訳ない、今回は勘弁してください。すみません、すみません!!」
支配人にはこっぴどく怒られたが、パウロの顔にめんじて今回のことは何もなかった
ことにしてもらったガバス・カジノ。
あちこちに手をまわしてパウロが後処理をしてくれたおかげで、ダカート号は指名手配に
ならずに済んだのだった。
「ふぅ。なんとか片付いた……」
パウロは、エレナが発ったガバスの港に来ていた。今日は客船も少なく、港は静かだった。
時は夕刻、海がオレンジ色に染まり、キラキラと輝いている。
パウロは、じっと海を見つめていた。目の下にくまをつくり、どっと疲れた表情をしている。
「あぁ、サニアが心配しておるだろうな。そろそろ竜の国に帰らなければ。 いや、その前に
マンセルの叫びの谷温泉にでも寄っていくとするか!」
海を見つめ、パウロは自慢のひげを触りながら笑う。
「サニアに いい土産話ができたわい」
心地よい波の音に耳を傾ける。
パウロは今、竜の国に妻のサニアと一緒に住んでいる。 そして、彼は竜族と人族が仲良く
なるために間を持とうと頑張っているが、なかなかうまくはいかず、竜の国で幸せだが肩身の
狭い生活を送っていた。
だが、人と竜の間より、人間同士の絆のほうが難しいとパウロは思っている。身分や貧困の
差があり、人同士の争いも絶えない。人と竜の関係よりも、人と人との関係のほうがずっと
難しい。
でも、エレナはそれを簡単にやってのけていた、とパウロにはそう見えた。
いろんなものを越えて、エレナはちょっと風変わりな仲間と一緒にいた。自然にやってのけて
いたが難しいことだ。
「エレナ……きっと、あいつは兄よりも大物になるぞ! わっはっはっ!」
満足した顔で、パウロはガバスを後にするのだった。
第8話
「歓楽都市ガバスッ! うちのボスとカジノの裏ボス」
おわり
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