「まぁ、流れ星!?」
「そうです。年に一度、流星群を観測できるんですよ。天候もよさそうですし、今夜は最っ高の
天体ショーを楽しめそうです!」
ドノバンの言葉に、エレナはうなづいた。
「ステキ☆ ロマンチックよね〜」
エレナはこういうものに弱い。ようやくダカート号クルーもエレナの扱いがわかってきた
ようだ。 毎日、規則正しい航海だけではつまらない。やっぱり楽しみがなければッ!
というわけで、
「それじゃ、今夜は決まりでよろしいですか?」
「もちろん。機関を停止して、みんな夜まで休みましょう。私もちょっと眠ることにするわ」
エレナの言葉にドノバンは驚いて2、3歩後ずさった。
「なッ、なッ、なに言ってるんですかボスーーーーーーッ!!」
机をバンッと叩き、急にドノバンがわめきだす。なにごとかと思うエレナ。
「眠ってる時間なんてないですよ! これからみんなで早口言葉の練習をするんです!
ボスは知らないんですか!? 流れ星にお願い事を3回するとその願いが叶うって
いうんですよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「はいはい、私は寝るから、そっちで勝手に練習してちょうだい」
エレナはそう言いながらドノバンを部屋から追い出した。
そういえば……と昔を思い出し、エレナは笑った。自分も流れ星にお願い事をしたことが
あったな、と。
ダカート号 GO! ゴーゴゴーッ!!
第9話
「 星に願いを。スターマン2010 」
そして、夜。
今日は快晴、細い三日月が東の空の低い所に浮かんでいる。月明かりのほとんどない空には
たくさんの星が瞬いている。
海は風もなく、波も穏やかで、ダカート号1隻のみ、海にポツンと浮いている状態だ。
今日は貸し切りの天体ショーとなりそうだ。
言うまでもないかもしれないが、こういう楽しいイベントの場合、ダカート号の甲板は宴会場と
化す。食堂からテーブルを運び、御馳走がズラリとならび、すでに飲めや歌えやで賑わっている。
その時、きらりと星が流れた。
「みてみて、今、星が流れたよ!!」
アイナが空を指差し、つられてみんなが空を仰いだ。
さらにまた1つ、星が流れる。歓声が上がった。
「酒、酒、酒〜〜〜!!」
「お金、お金、お金、なんだナッ!!」
パンパンッと手を合わせ、エドガーとダイクが空を拝む。なんかもう、切実だ。
そんな2人を横目に見ながら、ビリーがおかしそうに笑った。
「やっぱりオレが流れ星に願い事をするなら『ヒーローになりたい!!』だな。トードは?」
聞かれてトードはポツリと呟いた。
「……『ビリーの注射嫌いが直りますように』」
「いいですね。ついでに私も祈りましょうか?」
「うっわーーー。ごめんなさい、絶対無理です」
「やっぱり、願い事をするなら、みんな、これだろう!!」
そう言い切り、注目を集めたのはカーティスだった。
「ボスが、メイド服を着てくれますよーに!!! これでどうだ!!」
ドスッ (鉄鎚)
エレナが手を払い、ランバートを振り返った。
「ランバート、彼を医務室へ連れてってちょうだい」
「またですか。相変わらずですねぇ」
ズルズルズル……
それから、ドノバンも甲板の隅っこで必死でお願いしていた。
「ボスとデートできますように!! ボスとデートできますように!! ボスとデート!!」
その隣でグーリーも祈っていた。
「船長の願い事が、かないませんように」
なんだかこれは去年どこかで見た光景だ!!
「ねぇ、じーちゃんの願い事は? なになに?」
アイナがうれしそうにガストンに尋ねる。料理を食べながらガストンは答えた。
「アイナが無事に成長してくれればそれで十分じゃ」
「あたいはねぇ〜、海に出るっていう夢も叶ったし、次は素敵な彼氏を作ることかなぁ☆」
ブチッ ←ガストンの中で何かがたてた音
「許さんぞーーー!!」
そう叫んだガストンの前に、ベルが料理を置いた。テーブルの上には乗りきらないほどの
料理が並んでいる。これが、あと1時間もすればみんなのお腹のなかに全部入ってしまうのだ。
「まぁまぁ、おやっさん。ローストチキンが焼けたから、食べてよ。私も願い事はないけれど、ま、
私の料理でみんなの笑顔が見れれば、満足さ。 って、こらモンバ、あんた好き嫌いしてるん
じゃないよ」
野菜を横に避けていたモンバの手をピシャリとベルが叩いた。バレた、という顔でモンバが
苦笑いする。
「オイラは『花より団子』ッス。流星より御馳走のほうが大事ッス〜」
エレナは腰に手を当てて、深くため息をついた。
「んもう! みんなロマンスの欠片もないんだから。こんなに星が降る素敵な夜なのに……」
「オイラ、こういう時に合うロマンチックないい歌を知ってるッスよ」
「へぇ〜、どんなの?」
エレナは、聞いてしまったことを瞬時に後悔した。モンバがすぅっと胸いっぱいに息を
吸い込むと、元気よく歌いだした。
「 ♪ 空を〜 駆けた 流れ星は 〜 2人の願いを知って
運命も忘れるほど〜 ただキレイに輝いてた〜〜〜〜 ♪ 」
いきなりの不協和音に、全員が一斉に耳をふさいだ。
「聞くんじゃなかったーッ!」
と、その時、1つの流れ星が……
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