第10話  剣の山、闇への扉を開く者
─ そ の 1 ─





 空王丸は、剣の山のふもとにあるハタハタ村へと降り立った。当初の
予定では、朝には到着する予定だったが、フンバフンバ村の人たちに
襲われた為、ハタハタ村に着いたのは昼を過ぎた頃だった。
 エレナとバファンが空王丸から降りると、既にハタハタ村の村人たちが
物珍しそうに空王丸を囲んでいた。
「ありがとうございました、ガミガミ魔王さん!!」
 エレナは頭を下げ、丁寧にお礼を言った。ガミガミ魔王は、ここまで送って
くれるという約束だったので、ここでお別れとなる。
 ガミガミ魔王は、デフロボと一緒にデッキからフンバフンバ村の人からの
貢物を捨てているところだった。
「おい、お前ら。これを持っていけ」
 と、ガミガミ魔王(神様)への貢物を指差す。山のように詰まれたお酒や
果物。
「いいの?」
「俺様はいらん。つーか、あの村と関わるモノは一切ゴメンなんだよ。
 ラダックのところにでも持ってけ」
「あ、ありがとう……」
「それから、エレナ。お前を助けてやったことは、ちゃんと、お前の
 お義姉さんに『ガミガミ魔王様はいい人よ♪』って報告しておけよ」
「はいはい、わかりました (-.-)」
 ガミガミ魔王はエレナたちに背を向け、鼻をかいた。
「んじゃあ、お前らとはお別れだが・・・・・・あの双子に会えるといいナ」
「ありがとう!」
「よーし、帰るぞ!」
 ガミガミ魔王はデフロボたちに向かって声を張り上げると、船内に引っ
込んだ。
 そして、エレナとバファン、ハタハタ村の人々が見守る中、怒涛空王丸は
空へと舞い上がり、西の空へと飛び去った。



 エレナとバファンはハタハタ村の人たちにリヤカーを借りると、ガミガミ魔王
からもらった酒や果物を積み込み、ラダック仙人の元へと山道を歩き始めた。
 ラダック仙人はこの剣の山の山頂付近に住んでいるという。そこまで空王丸に
乗せていって欲しいとガミガミ魔王に頼んだのだが、頂上付近には着陸出来る
場所がないとのことだった。
 クロコネシアのデルボイ仙人もそうだったが、仙人は高い所が好きなのかも
しれないとエレナは思った。エレナ自身も海も好きだが、空も同じくらい好き
だ。高いところが好きなのは、きっと自分に竜族の血が流れているからなんだ
と、そう思う。
 ラダック仙人の住む家に着いたのは、太陽が水平線に沈みかけた頃だった。
夕陽に赤く染まる海は、ため息をついてしまうくらい美しい。
「あー、疲れた」
 リヤカーを引き続けたバファンは畑の側の切り株に腰をおろす。相当お疲れ
のご様子だ。
「ごめんくださーい」
 エレナがラダックの家の戸を叩くと、バタバタと中で音がして、それから
1人の男が戸口に現われた。大きな体、顔中ひげだらけの男である。
「あなたがラダック仙人ですか?」
 エレナが尋ねると、男は滅相も無いと首を振った。図体に似合わないとても
謙虚な姿勢である。
「いえいえ。私はお師匠様の弟子のジャンボです」
「まぁ、お弟子さん!」
「はい。えぇっと、エレナ姫にそれから・・・・・・」
 ジャンボは切り株に腰掛けるバファンを覗き込む。バファンと目が合い、
彼は慌てて視線をエレナに戻した。
「あちらはダーナ様のところの兵士ですね」
「えぇ、そうよ。さっすがラダック様のお弟子さん! 話が早いわ」
「ジャンボと呼んで下さい」
 ラダック仙人はエレナたちが来ることをお見通しだったらしい。初めて
クロコネシアを訪れた時も、そこに住むデルボイ仙人は自分たちが来ること
を分かっていた。やはり仙人には不思議な力があるんだと改めて思う。
「それで、ラダック様は?」
 はやる気持ちのエレナに、ジャンボは申し訳なさそうに頭を下げた。
「それが・・・・・・村のほうで釣りをしているかと」
「釣りですって!?」
「どうぞ、お師匠様が帰るまでお待ちください」
 ラダック仙人を追ってハタハタ村まで引き返すのも一苦労。入れ違いに
なってしまったら大変だ。仕方ないのでエレナとバファンはラダック仙人の
家で待たせてもらうことにした。




 しかし・・・・・・待てども待てどもラダック仙人は帰ってこない。




 空には既に星が輝き始めている。
 夕食の仕度の済んだジャンボがエレナとバファンに5度目のお茶を運んで
きた。
「遅いわね、ラダック様・・・・・・」
「そ、そうですね。きっともうすぐ帰ってきますよ」
 少しソワソワし、挙動不審なジャンボにバファンが眉をひそめる。
「あんたはオレたちがここに来ることを知っていた。当然、仙人サマも
 知ってるんだろう。それなのにどうして仙人サマは村で釣りなんかして
 家で大人しくオレたちが来るのを待っててくれなかったんだ?」
「え? あ、きっとエレナ姫とバファンさんに美味しい魚をごちそうしようと釣りに
 行かれたんですよ」
 なんだか一生懸命にお師匠様をかばっているジャンボを可愛そうに思い
ながらもバファンは指摘をやめなかった。
「オレたちが空王丸で村に到着した時、村人のほとんどが空王丸に物珍し
 そうに駆け寄ってきた。村で釣りをしていたならオレたちが到着したこと
 に気付くはずだろ。顔の1つでも見せてくれりゃいいものを・・・・・・」
「それは・・・・・・」
 口篭もるジャンボ。見かねてエレナが割って入った。
「ちょっとやめなさいよ、バファン。きっともうすぐ帰ってらっしゃるわ」
 それにしても帰ってこないラダック仙人。エレナもイライラしない、と
言えばウソになるが辛抱強く帰りを待った。



 そして、ジャンボが8度目のお茶を持ってきた時・・・・・・。

「ジャンボ、今帰ったぞ」
 その声と同時にエレナは立ち上がった。
 ガタンと戸が開く音がし、ようやくラダック仙人が帰ってきたのだ。
 戸口に現われたのはオレンジ色のローブを羽織った小柄な老人だった。長い
杖を右手に持ち、左手には魚の入ったバケツを持っている。
「ラダック様!」
「お師匠様〜〜〜。遅いですよーーーー」
 エレナが頭を下げ、泣きながらジャンボがラダックにすがりつく。バファン
は、やれやれとため息をついた。
「はじめまして、私は──」
「エレナ姫さんじゃろ」
 冷たくそう言われ、エレナはうなづいた。
「あの、私たち、闇の・・・・・・」
 エレナの話を聞こうとせず、ラダックは体を反転させるとジャンボに魚を
押し付けた。
「ほれ、料理してくれ」
「わ、わかりました・・・・・・」
 ジャンボはチラリとエレナを見て、それから厨房へと引っ込んだ。
 ラダックはそこが定位置らしく、奥の座敷の机の前に座った。エレナと
バファンも後に続き側に座る。
「エレナ姫さん、ピエトロは元気かね?」
「あ、はい!」
 背筋を伸ばし、真剣に答えるエレナ。ラダックは白いヒゲをさわりうなづいた。
「うむ。昔を思い出すな。ピエトロはあの時はまだ幼かった。母に会うために
 ここから闇の世界へ向かった」
「・・・・・・」
「そして、今度はエレナ姫。お主が闇の世界へ行こうとしておる。『再生力』を
 持つ双子に会いに、な」
 さすがラダック仙人、全てお見通しのようだ。
「あの・・・・・・連れて行っていただけますか?」
 ちょうどその時、ジャンボが料理を運んできた。フンバフンバ村の食材と
ラダック仙人が釣ってきたという魚の料理。
「んまぁ〜、なんじゃ、その話は明日じゃ」
 ラダックは、目の前の料理に満足そうにニッコリ微笑み、うなづいた。
「さて、長旅で疲れておるじゃろう。今夜はゆっくり休みなされ」
 エレナとバファンは顔を見合わせると、渋々ラダック仙人に従った。

 その後、ピエトロの冒険やエレナの船旅の話をしながら時間は流れていった。





  



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