第9話 フンバフンバ村、男を賭けた女の戦い
─ そ の 4 ─
夜の闇が辺りを支配しようとし始める頃、フンバフンバ村の広場では
1人の男をかけて女同士の一騎打ちが始まろうとしていたッ!!!
「ちっがーーーーーう!! その本文間違ってる!!」
「お前、殺してさしあげる!」
ナルンガが鉄球を振り回し、エレナに襲いかかる。彼女は本気も本気だが、
エレナは攻撃をするわけにもいかず、鉄球を避けるのみだ。
何十キロという鉄球を振り回しているのだから、体力を必要以上に消耗し、
向こうは短時間で息をきらして動きが鈍くなってくるだろう・・・・・・そうエレナ
は読んでいた。
が、彼女の神様を思う気持ちは想像以上だった。攻撃を休むことなく目に
炎を宿らせエレナに奇声を上げて襲い掛かる。目を見ればわかる、本気で
エレナを殺す気だ。
周りはフンバフンバ村の住人に囲まれ、逃げようにも逃げられない。その
住人たちはというと、太鼓を叩く者、戦いの踊りを踊る者、真面目にナルンガ
を応援する者もいれば、酒を飲みながら面白そうに観戦する者(←これが約7割強)。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ・・・・・・えぇい、待ちやがれぃ!!」
鉄球が地面にめり込んだのを見て、エレナは声を上げた。
この村はどうも言葉を聞いていると敬語と卑語が逆らしい。他の価値観全般
も逆なのだ。周りに顔見知りもいないし、とりあえずフンバフンバ村の言葉に
合わせて怒鳴ってみる。
エレナの言葉にナルンガが動きを止めた。今なら話し合いで解決出来るかも
しれない。
「えぇーっと、私は神様の女じゃないわ。ポポロクロイス王国のナルシア王妃
のことをガミガミ魔王さんは言ってやがるのよ。空王丸に写真があるから、
取ってきてやる。だから争いは・・・・・・」
ドスンッ
ナルンガが再び鎖を引いて鉄球を持ち上げる。
「そんなのウソ、信じない!」
「ウソじゃないってばーーー!!!」
「お前みたいなブス、神様には似合わない」
ブスって・・・・・・エレナのこめかみに怒りマークが浮かんだ。しかし、ここは
フンバフンバ村、価値観が逆なのだ。そう何度も心に言い聞かせようとエレナ
は頑張るが・・・・・・。
シャキー−−ン
ついにエレナは剣を引き抜いた。
周りを囲む住人たちから声があがる。
「私はこんなところで死ねないの! ラリスとリリスに会いに行かなくちゃ
いけないのよ。
そして、なによりガミガミ魔王さんの女だと勘違い
されて死ぬのだけは、死んでもゴメンよ!!!!」
エレナは剣を持ち直し、ナルンガに向けて走り出した。
ナルンガがグルングルンと音をたてて回していた鉄球をエレナへとぶつける。
エレナはそれを軽やかによけると、ナルンガの後ろへ回り込んだ。ナルンガが
振り向く隙を与える前に、
ドスッ
エレナが剣の背でナルンガの背中、首の辺りを叩いた。
ナルンガがピタリと動きを止め、そして次の瞬間、仰向けに倒れた。
「みねうちよ。心配する必要ないわ」
エレナが剣をしまい、髪を振り払う。
勝負はほんの一瞬だった。ナルンガの単調な攻撃を素早さのあるエレナが
避けるのは造作も無いこと。ナルンガの周りに駆け寄る住人たちを見て、少々
本気になってしまったことに反省するエレナ。
やがてナルンガはゆっくりと起き上がった。その目には既に殺意は見られな
い。
「お前、強い。気に入った」
「・・・・・・それはどうも」
ナルンガも無事なようだし、そろそろ空王丸に帰ろうとエレナは踵を返す。
そこへ飛んでくるナルンガの声。
「でも私、神様ゼッタイ諦めない!!」
相当この人はガミガミ魔王さんにゾッコンラブ(死語)なんだな。
エレナは思わず苦笑した。
「だったら諦めなきゃいいじゃない。『諦めちゃだめだ』ってポポロクロイスの
王様も言ってるわ」
エレナの言葉にナルンガが口を開けて呆然とする。
と、その時だ。
爆音と共に星の輝く空に現われたのは──空王丸。
「修理が終わったのね」
空を見上げて手を振るエレナ。空王丸から降りてきた縄ハシゴにつかまる。
「神様〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
村人たちが空王丸に叫び続ける。
エレナはハシゴにつかまりながら小さくなっていくフンバフンバ村を見つめて
いた。切なそうなナルンガの大きな顔が遠のいていく。
「これで・・・・・・よかったのかしら?」
まぁ、たぶん2度とあの村へ行くことはないだろう。エレナはそう割り切り、
微妙な思いを振り切った。
ハシゴを登り、船内に入る。コントロールルームでガミガミ魔王とバファンは
待っていた。
「で、何してたんだよ?」
そう問うバファンにエレナは何も答えなかった。もう忘れてしまいたい過去の
話である。
エレナは息を吐いて、それからガミガミ魔王を見た。
「あなたも何だかんだ大変なのね・・・・・・」
そう言うエレナにガミガミ魔王は何も答えなかった。エレナと同じで早く
忘れてしまいたいのだろう。
その後、空王丸は順調に飛行し、朝を迎え、そして太陽が真上に昇った頃、
水平線の彼方に剣の山が見えてきた。上空に雲がかかっているとても高い山だ。
「あそこにラダック仙人がいらっしゃるのね」
空王丸のデッキから海に浮かぶ剣の山を見つめるエレナ。
──もうすぐラリスとリリスに会える。
剣の山は荘厳な姿でエレナたちを待っていた。