第10話  剣の山、闇への扉を開く者
─ そ の 3 ─





「おい! おいってば! エレナ姫!?」

 ずんずんと山道を登るエレナの後を追うバファン。
 エレナは剣の山の山頂でようやく一息ついた。山の冷たい空気を吸い込んで
彼女はようやく落ち着きを取り戻し始める。
 山頂の少し開けた場所──ここが闇の世界の入り口。ラダック仙人が杖を
一振りしてくれれば闇の世界に行くことが出来るのだが・・・・・・。
 その道は閉ざされたのである。

「これからどうするつもりだよ?」
「……あなたにも、あなたの理由があるのね」
「はぁ?」
 ポツリと言ったエレナの言葉に眉をひそめるバファン。
「闇の世界へ行く理由よ。あなたは『帰る』のよね」
「ま・・・・・・そーだな」
 バファンは青い空を仰ぎ、伸びをすると硬い地面を踏みしめた。
「ラリスとリリスを助けたいなんて言ったら私、あなたに殺されると思ってた」
「そうか?」
「えぇ。あなたはダーナの兵士ですもの」
「今はもう違う」
 そう会話する2人は硬い地面を足で蹴っていた。

 この下に、闇の世界の入り口はあるというのにッ!!!!!

「ねぇ、掘り進めれば闇の世界へ行けると思う?」
「はぁ? (ーー;)」
「たとえば、ナグロさんに頼んでここを掘ってもらうとか」
「誰だよ、それは」
 と、その時だ。


「エレナ姫ーーー。バファンさーーーん!!」

 大きな体をのっしのっしとジャンボが山頂へ走ってきたのだ。
「ジャンボさん!」
 ジャンボは2人の前に到着すると荒い息を落ち着かせようと大きく深呼吸を
する。この巨体、相当山道はこたえるらしい。
「どうしたんですか、ジャンボさん」
「あ、はい。お師匠様からの伝言です。『帰る手段がないなら、ワシがポポロ
 クロイスへ一瞬で送ってやるぞ』だそうです」
「結構ですッ!!」
 エレナはムッとしてジャンボに背を向けた。
 ジャンボは申し訳なさそうにエレナとバファンに頭を下げた。別に彼のせいで
行けないわけではないというのに。バツが悪そうにエレナがジャンボの顔を
覗き込む。
「ごめんなさい。あなたに八つ当たりすることないわよね」
 ジャンボはラダック仙人に2人を闇の世界へ連れて行くようにお願いをして
くれたことを思い出した。
「本当にすみません。私に少しでも力があれば・・・・・・」
「あら、だったら話は早いわ」
 エレナの軽い声に地面を見つめていたジャンボは顔を上げた。

「ラダック様に闇の世界へ連れて行ってもらうのはほとんど無理だから、
 あなたに頼みたいの。
 ジャンボさん、私たちを闇の世界へ連れてって!」

「な・・・・・・!?」
「は・・・・・・!?」

 エレナの言葉にジャンボとバファンはあんぐり口を開けて固まった。
 今、確かに 無 謀 な 発 言 が聞こえたような気がするが・・・・・・。

 冷たい風が山頂を吹き抜ける。

 しばらく時が止まったかのように思えたが、エレナは驚く2人を気にせずに
話を続けた。
「ジャンボさん。あなた、ラダック様のお弟子さんなんでしょ? 杖を一振り
 すればちゃちゃーと闇の世界への扉なんて開けられるんでしょ?」
「む、むむむむむむむむ無理です!!」
 エレナの強引な言葉にジャンボはマッハのスピードで手を振り拒否する。
 バファンが「一理あるな」ということでエレナの考えに賛成したようだ。
ジャンボの肩に手を置く。
「あんた、ラダックのところで何年弟子をやってんだよ?」
「え、えぇと・・・・・・」
 バファンに聞かれ、指を折りながら数を数え始めるジャンボ。しかし、どうや
ら手の指だけでは足りないらしい。
「なに言ってるのよ。私のにいさまが闇の世界へ行った時にはもうお弟子さん
 だったのよ。何十年も仙人の修行を積んでるに決まってるじゃない!」
「・・・・・・いえ、ぜーーーーんぜん」
「へ?」
 さらりと言われ、今度はエレナが固まる番だった。
「ぜ、全然?」
「はい。一応肩書きは、『弟子』なんですが、家事ばかりで実は修行らしい修行は
 したことなんてないんですよ」
「何十年も?」
「はい。でも、もしかしたら、私が気付かないだけで、家事・雑用と見せかけて、
 私にお師匠様はちゃんと修行をつけてくれてるのかもしれないですし」
「うーん、私にはそうは見えないけれど」
「あのじーさん、あんたをこき使ってるだけじゃねーのか!?」
 吐き捨てるように言うバファン。彼は最初からラダック仙人を信じていなかった
が、ジャンボに話を聞かされ本当に呆れたようだ。
「で、でも。お師匠様は本当に素晴らしい方なんです。お側にいられるだけで
 私は幸せなんです!!」
 今にも泣き出しそうな声を出し、ジャンボが2人を交互に見る。
「ジャンボさん・・・・・・」
「いいのか、それで?」
 バファンに言われ、ジャンボはコクリとうなづいた。
「いいんです」
「仙人に憧れて、弟子になったんじゃねーのかよ?」
「そうです」
「ムダな人生送ってるな、お前」
「む、ムダなんかじゃありません! 私はいつかお師匠様のような
 立派な仙人になって・・・・・・」
「いつかって、いつだよ!? だったら今ここで、
 闇の世界への扉を開けてみろよ!」
「やめてよ、2人共!!」
 エレナに一喝され、バファンとジャンボは静かになった。
「ねぇ、ジャンボさん。ラダック仙人の弟子として、1回だけ私たちに協力して
 くれないかしら?」
「だから無理ですよ。私にそんな力はありませんし・・・・・・」
「やってみるだけやってみましょーよ」
「お師匠様に怒られます。破門されたら、私、行くアテがないんですよ!」
「そんな心配してるのかよ。破門されたらオレと一緒に自由気ままに旅しようぜ。
 オレだって行くアテねーし。 そーだな、タイトルは『ジャンボとバファンの
 世界漫遊記』なんてどーだ?」
「バファン、茶化さないでよ!」
「そうか? オレは本気だけどな」
「まったく・・・・・・。ジャンボさん、ラダック様はきっとあなたを破門されたりなんか
 しないわ。ラダック様だってあなたがいなくなったら困るもの。それにもしも、もし
 もよ、もしも破門されたりしたら私が別の仙人様を紹介してあげるわ。クロコネシ
 アのデルボイ様。とてもおやさしい方よ」
「・・・・・・」
 ジャンボは重いため息をついた。
「どーしても私にやらせたい訳ですね」
「「うん」」
「無理ですって。あなたたちの言葉はどう考えても悪魔のささやきにしか聞こえ
 ませんし」
 エレナは押し黙った。諦めきれない。だけどこれ以上ジャンボを苦しめるわけ
にはいかない。もし何かあって困るのは誰でもないジャンボなのだ。
「ごめんなさい、ジャンボさん。やっぱり他の方法を・・・・・・」
「やります!!」
 ジャンボは力強く言った。
 ニヤリとバファンが笑う。
「ん、よく言った。それでこそ男だッ!」
「でも、失敗した時は一緒にお師匠様に謝ってくださいよ」
「そうね、わかったわ。土下座でも何でもする。それで・・・・・・諦めがつくかも
 しれない」
 エレナはうなづいた。



「さてと」
 エレナたちは硬い地面を見つめた。
「どうしたら闇の世界への扉は開くの?」
「お師匠様は杖を振って闇の世界への扉を開けてました」
「杖か・・・・・・」
 ラダック仙人がいつも手にしている杖を3人が頭に思い描く。
「あの杖は強い魔力のこもったもので、お師匠様は肌身はなさず持ち歩いて
 います」
 その杖がキーアイテムらしい。
「さて、どーやってラダックから杖を奪う? はっきり言うが真正面から対決
 して120%勝てない相手だぞ」
「困ったわね・・・・・・。あと少しなのに。急いでいるのに・・・・・・」
 はたとエレナは今の自分の気持ちに疑問を持った。
『急いでいる、行かなくちゃいけない』そう、私はこれと同じ気持ちを感じた
ことがある。でも、どこで・・・・・・。
 それを思い出そうと考えているところに、バファンとジャンボの会話が耳に
入ってきた。
「お師匠様はお酒が大好きです」
「よし、酒ならガミガミ魔王からもらったやつが山ほどあるぞ」
「それから、ピチピチギャルもお好きです」
「ピチピチギャルは、オレの知り合いにはいないなぁ・・・・・・」
 バコッ
 バファンの後頭部をエレナはこついた。
「あ〜ら、目の前にいるじゃない」
 エレナは強気に笑った。自分の胸に手を当ててうなづく。
「ラダック仙人を私の魅力とお酒によわせて、隙を見て杖を貸してもらって、
 ジャンボさんに闇の世界への扉を開いてもらう! その作戦で行きましょう」
 後頭部をさすりながら今の発言に言い返したいが、ぐっとこらえるバファン。
 エレナの言葉を訂正させてもらえば、「隙を見て杖を貸してもらって」では
ない。「隙を見て、杖を強奪して」が正しいとなるが、正義のエレナはそんな
ことは気にしていられない。
 ジャンボはとても不安そうにエレナの作戦を聞いていた。しかし、彼にやって
もらうしかないのだ。
「それじゃあ、今夜決行よ」
 3人はうなづいた。




  



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