第10話  剣の山、闇への扉を開く者
─ そ の 4 ─





 そして、太陽が西の水平線に沈み、東の空に星が輝き始めた頃・・・・・・。
 
 エレナは覚悟を決め、大量の酒瓶を持ちラダック仙人のところに乗り込んだ。
 ラダック仙人の家の扉を開けると、彼はのん気にお茶をすすり、夕飯を待って
いるところだった。厨房では、打ち合わせ通りにジャンボが夕飯(酒の肴)を
作っている。
 ラダック仙人は警戒の目でエレナを上から下まで見つめた。
 彼女は、赤いチャイナ服でラダック仙人の元へ乗り込んだのだ。これは
前回の冒険でとある商人から購入したもの。戦闘スタイルということもあり特に
悩ましいという格好ではないが、雰囲気を出すため、エレナは着替えたのだ。
 ラダック仙人が怪しむのは当然のこと。
「何を企んでおる、エレナ姫?」
「た、企んでなんかいません!」
 ギクリと動揺するものの、エレナは酒瓶をちらつかせニッコリと微笑んだ。
「フンバフンバ村で作られた極上のお酒です。いかがですか
「そんなものでワシはお前たちを闇の世界へは行かせぬぞ」
「まさか! 伝説の仙人様を物で釣るようなことは致しません。ラダック様に
 闇の世界へ連れて行ってもらうのは諦めましたから」
 すかさずラダック仙人の隣にぴったりと座る。
「ささ、一杯どーぞ。それとも私のすすめるお酒は飲めませんか? 毒なんて
 入っていませんよ」
「・・・・・・」
 最初は疑いの目で、目の前の透明の液体を見ていたラダック仙人だったが、
やがて注がれるお酒をゴクリと飲んだ。一口、また一口と。
 そして、ジャンボが酒の肴を持ってきた頃には、ラダック仙人は頬を赤く染め
上機嫌になってきていた。全く作戦通りである。
「うまいのー、この酒は」
「喜んでもらえて光栄です」
「これ、ジャンボ。お前も飲め」
「へ? あ、いえ、私は結構です」
 謙虚に断るジャンボ。ここで彼にお酒を飲まれて酔われでもしたら大変だが、
彼は全くお酒には興味はないらしく、エレナはほっと胸をなでおろす。
「相変わらずつまらん男じゃの、お前は」
 エレナはラダック仙人のコップに容赦なくお酒を注いでいく。ピエトロなら
一口で倒せるだろう、アルコール度50を越えるお酒を迷うことなくコップに
ついだ。
 ラダック仙人はしゃっくりをし、それからため息をついた。
「はぁ・・・・・・。これでピチピチギャルでもいてくれたらウハウハ
 なのにのぉ」
「あら、私がいるじゃないですか
 ウフッと、普段は絶対にしない動作をするエレナだが、ラダック仙人は
それを認めていないらしい。
「うーん、エレナ姫は雰囲気が違うんじゃよ。こう姫という身分に固められ、
 堅苦しいと思える時がある。お前さん、器用に生きられんタイプじゃろ」
「う・・・・・・気にしていることをズバリと」
 なんだか説教され始めていないか? エレナはラダック仙人がどれ位、
酔っているのか心配になってきた。もう何本も酒瓶は空になっている。
「そうじゃな、もっとハジけてはどうじゃ?」
「はじける??????」
 実のところラダック仙人の言葉をよく聞いていなかったエレナは思わず
聞き返した。
 ラダック仙人はエレナに杖の先端を向けた。とっさに脇に置いていた剣を
掴もうとするエレナだったが、ラダック仙人の術のほうが早かった。



 ボンッ



 と、途端にエレナは煙に包まれた。
 煙はすぐに晴れたが、別に辺りは何も変わっていない。目の前には
「うむ、似合っておるぞ」         「……(゚o゚;)」
 と、うなづくラダック仙人と、口を開けて動かないジャンボの姿……。
 エレナは自分に何が起きたのか把握できなかったが、そっと下を向き顔を
真っ赤にした。彼女はチャイナ服ではなかった。
 バニースーツに、黒のハイヒールに網タイツ。慌てて
頭を触ると、そこにあるのはウサギの耳……。



「キャー−ーーーーー−ッ!!」



 エレナは叫んだ。その声は外で待機しているバファンはもちろん、ふもとの
ハタハタ村にまで響き、聞こえただろう。
 ラダック仙人によってバニーガール姿にさせられたエレナはそのショックで
膝をつき、手をついた。
「私は一国の姫よ。花も恥らう乙女よ。なんでこんな格好を………」

 人生最大の屈・辱

「エレナ姫、何にも縛られてはいかん。もっと自由に生きんとな」
 自由に生きろ、と言った結果がコレですか。
 頬を赤く染めて「うひゃひゃ」と笑う上機嫌なラダック仙人を横に、それでもエレ
ナは自分を抑えた。本当なら目の前のエロジジィをはっ倒しているところだが、
ぐっと我慢し、笑顔を作り、手を震わせながらラダック仙人の酒の相手をする。
 今の彼女には隠忍自重という四文字熟語がよく似合う。


 ドンッ


 その音と同時にラダック仙人はうつ伏せに倒れた。
 ぷくーーっと大きなたんこぶが頭から生えてくる。
「よぉ、待たせたな。エレナ姫、なかなか似合ってるじゃん!」
 バファンが程よい棒を片手に意地悪そうに笑った。
 途中、おかしなところもあったが、首尾よくラダック仙人を気絶させることに成功する。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーー。
 お師匠様、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!」
「ラダック様。どうしても私、闇の世界へ行きたいんですッ!」
 そう何度も謝りながらエレナとジャンボは目を回すラダック仙人を布団へ寝かせる。
バファンは呆れながらラダック仙人の後頭部に濡れタオルをあてる2人の行動を
眺めていた。(なら、やらなきゃよかったのに……)と、彼の目が言っている。

 床に転がるラダック仙人の杖を拾い、ジャンボへ渡す。
「それじゃあ、行きましょう!!」
 3人は剣の山の山頂へ走り出した。






  



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