第10話  剣の山、闇への扉を開く者
─ そ の 5 ─





 夜、満天の星が輝いている中、ジャンボを先頭にエレナとバファンは山道を
走った。
「はっくしゅん!」
 エレナは思わずくしゃみをした。かなり冷え込んでいるのにバニーガールの
衣装ではさすがにこたえる。トランクから白い村で安値で購入した火ネズミの
毛皮のコートを出しても良かったが、ラダック仙人が目を覚ます前に闇の世界へ
行かなければならない、そっちが先だった。
 3人は山頂の平たい場所へと辿り着いた。昼間、ラダック仙人から杖を拝借
するというこの作戦を考えた場所だ。
 ──闇の世界への入り口。
「ここだな……」
「ジャンボさん、お願いします」
「……」
 ジャンボの師匠の杖を握る手が震えている。ここまできてためらっているら
しい。
「私はお師匠様の側でいつもお師匠様の神通力を見てきました。でも、見るだ
 けで……」
「そういうマイナス思考はいいから、とっととやってくれよ」
「本当に仙人の修行らしいことなんてしたことないんですよ?」
「ジャンボさん、杖を振るだけでもいいから、やってみてよ」
 エレナに優しく言われ、ジャンボはコクリとうなづき、杖を空へ掲げた。

「開きたまえ、光と音と命なき世界の扉よ、我が前に道を示せ」

 ブンッとジャンボは杖を振った。




















「……」
「……」
「……」
 何も起こる気配はない。
「じゅ、呪文が違うんじゃない?」
 すかさずエレナがジャンボのやる気を損なわないように場を取り繕う。
「お師匠様の言ったとおりの台詞でやってみたんですが……」
「おししょーさまの通りじゃなくて、ジャンボさんオリジナルでやってみたらどうだ?」
 バファンの提案に、ジャンボは少し考えコクリとうなづいた。



「ひらけ〜〜〜、闇の世界への入り口 ゴマッ!!!!」

 再びブンッとジャンボは杖を振った。









さらに










「うっ……」
 ジャンボが今にも泣き出しそうな顔でエレナとバファンを見つめる。
「やっぱり私には無理……」
 そう言いかけた時、





「こらーーーー、お前たちッ!!」





 その声に3人は振り返った。
 ラダック仙人だった。真っ白の眉を吊り上げ、額の血管は浮き出ている。かなり怒って
いることが誰にでもわかる。

 まずい、最悪な展開だ。

「ジャンボ、お前、ワシの杖を持ち出して何をしようとしておるのじゃ!?」
 大股で3人に近づいてくるラダック仙人。
「お……お師匠様〜〜〜」
 すがる目でラダック仙人を見つめていたジャンボだったが、エレナとバファン
を見つめ、頭を振ると、師匠に向かって正直に叫んだ。
「闇の世界への扉を開こうとしているんです!」
 ラダック仙人は3人と距離を置き、立ち止まった。
「ジャンボ、お前の気持ちはワシにだってよく分かる。しかし、情に流されては
 いかん。それがお前の成長出来んところでもあるのだ。2人を闇の世界へ
 行かせてはならぬ。お前が良かれと思ってしたことが世界を滅ぼしても良い
 のか? 後悔する前にワシに杖を返すのだ。2人をポポロクロイスへ強制
 送還する」
「いやですッ!」
 ジャンボは言い切った。

「後悔したくないッ!!  だから私は……
 2人を闇の世界へ行かせてあげたいんですッ!」

 
 ドンッ!

 ジャンボは無我夢中で杖を振り回すと、地面に叩きつけた。

 ゴゴゴゴゴ………

 地面が揺れ、空から星が無くなり、辺りが闇に包まれていく。
そして地響きと共に、夜空から強大な力が剣の山へと降りてきたのだ!

 エレナたちの前に吸い込まれるほど深い闇の穴が現われた。
「で、で、出来た……」
 一番驚いているのは本人、ジャンボのようだ。
「すごい……」
 エレナが息を飲む。

 
 ラダック仙人は目を見開け、その光景を見つめていた。
 その目は、エレナたちが闇の世界へ行くことを恐れているのか、それとも
ジャンボが闇の世界への入り口を開けたことに驚いているのか……。
 ジャンボは我に返ると、エレナたちを振り返った。
「この先に永遠の番人の館があります。闇の世界はその先です!」
「ありがとう、ジャンボさん。あなたは……」
「私はここに残ります。お師匠様にこてんぱんに怒られ、追い出されるかも
 しれませんが、私は大丈夫です」
 ジャンボは細い目をより細くして笑った。
「……ごめんなさい、本当に」
「謝らないでください、さぁ、早く!!」
「このお礼は帰ってきてから必ずするから!!」
「体でな……ぐはっ」
 バファンの背中を蹴り、闇の穴へ突き落とす。
 彼の大絶叫が響き遠のいていく中、エレナはラダック仙人を見つめた。

 騙したのだ、心が痛む。

 ラダック仙人は呆れたように、そして、こうなることがわかっていたかの
ように笑った。
「まったく……なにか企んでいるのはわかっておったが、まさかうちのジャンボを
 使うとはな。……ワシも仙人としてまだまだじゃな。
 エレナ姫、ここからが正念場じゃ。この先、誰が自分の敵で、
 誰が自分の味方なのか、しっかり見極めなされ。そして、あんたは
 世界の敵か味方か、全て闇の世界でわかるじゃろう。もう止めは
 せん、行きなされ!」

「ありがとうございますッ!」

 エレナは深々と2人に頭を下げ、そして闇の穴へと飛び込んだ。






  



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送