第11話  永遠の番人の館、最後の試練
─ そ の 1 ─




 剣の山の山頂から飛び込んだどこまでも続いていそうな闇の先にあった場所。

 エレナが降り立った場所は不思議な空間だった。無限のようでいて圧迫され
るような感覚がエレナを包み込む。
 エレナの目の前には、この場にはあまりそぐわない童話の世界に入り込んでし
まったかのようなメルヘンチックな白い家が建っていた。空には静かに星が瞬い
ている。
 その家の庭にエレナとバファンは立っていた。
「ここが闇の世界……なの?」
「いや、まだだ」
 そう言うと、バファンはエレナに手を差し出した。
「何よ?(ーー;)」
「エレナ姫、『闇の本』を持っているか?」
「闇の本???」
 読書の好きな彼女もそんな本のことは聞いたことがなかった。バファンはその本を
要求しているらしいが、そんなアイテムは持っていない。
「そう。まぁ、ここの通行手形みたいなものだ。ダーナの兵士だった頃はこんな館、
 素通り出来たんだが、やっぱり今のオレたちはそうはいかないらしい」
「闇の世界へ行くにはまだ手続きが必要なの?」


 コツ コツ コツ コツ … …


 その足音に2人は黙った。ピンと張り詰めた空気。近づいてくる足音。剣に手を
掛け、その足音のする方へ視線を走らせる。
「気をつけろ」
 白い家の扉が開き、現われた人物を睨み、バファンが小声でエレナに警告を
する。
「この館の主、永遠の番人だ」
「この子が!?」
 白いエプロンが可愛らしい、金髪の少女は2人の目の前で立ち止まると微笑
んだ。

「ようこそ、永遠の番人の館へ。 ウサギさん」

 エレナはその人物を知っていた。
 なんとなく腑に落ちたような顔でエレナは口を開く。
「アリス……久しブリね」
 バファンは驚きながらエレナと永遠の番人を交互に見つめていた。
「な、なんだよお前ら、知り合いなのか!?」
「知り合いってほどでもないわ。夢を見たのよ。この子に散々いじめら
 れる夢をね」
 エレナの冷たい言葉に永遠の番人は面白そうにクスクスと笑った。
「いじめじゃないわよ。あなたがここに来ることは、わかっていた。だから、夢の
 中で先に試練を受けさせてあげてたの」
「試練? なんのこと?」
 眉をひそめるエレナにバファンが説明する。
「闇の世界へ行くには、闇の本がいるんだ。それを持っていない者は、ここで
 試練を受けることになる。永遠の番人に認められなければ、闇の世界への扉は
 開かない」
「それをアリス、あなたは先に受けさせてくれてたのね!」
 エレナの顔に笑顔が浮かんだ。
 散々だった連夜の夢も今なら納得が出来る。
「そうよ。あなたたちには時間がないんですもの。感謝してくれるとウレシイわ。
 残すは最後の試練のみ。それをクリアすれば、私はあなたたちが闇の世界へ
 行くことを認めてあげる」
「ありがとう!」
「ふふ。さぁ、こっちよ」
 永遠の番人がエレナ達に背を向け、館の中へ入っていく。
 その後ろを歩いていたエレナはバファンを振り返った。彼はその場を動かず、
何かを考えていた。
「バファン! 行くわよ」
「あ……あぁ。 えと、エレナ姫」
「なに?」
「悪いがオレはあいつを……永遠の番人を信用できねぇ。何を考えているか
 わかったもんじゃない」
「でも行かなくちゃ。大丈夫よ、悪い人じゃないわ」
「……」
 それでも彼は納得していない様子だったが、先へ進むしか道はないのだ。
 エレナとバファンは永遠の番人の館へ足を踏み入れた。



 不思議な空間をエレナとバファンは永遠の番人の後について歩いた。
 確かにエレナは、この場所に見覚えがあった。バニーガール姿でいろいろな
ことをやらされた。変な青い薬を飲まされ実験台にされたり、ピエロと空中
ブランコ対決をさせられたり、コロシアムに連れて行かれ相手をこてんぱんに
やっつけてやったこともあったし、美しいハープを奏でるお姉さんがいれば、
魚の指揮者がいたり、ネコさんオーケストラで指揮者役もこなしたし、ポセイドンの
使いとかいう魚にクイズを出されそうになったこともあった。
 本当に変な夢……いや、試練だった。
 エレナは夢の中でいくつもの試練を試練と知らされず受けてたのだ。
「さて」
 番人は立ち止まった。
 黒と白のチェック柄の床。目の前には左に赤い扉、右に青い扉。
 覚えている。ラリスとリリスに出会ったあの晩、夢の中でエレナはこの扉を
見ていた。
「この先が最後の試練よ。さ、2人ともそれぞれ別の扉に入ってちょうだい」
「え? 別々に試練を受けるの?」
「そうよ」
 2人で協力して試練を乗り越えようと考えていたが、そうはとんやがおろさ
ないらしい。
「試練を乗り越え、私に認められた者だけが闇の世界へ行くことが出来ます。
 2人が行けるとは限らないという事よ」
「なるほどな、エレナ姫。あんたはどっちへ行く?」
 バファンが目を細めて扉を見つめる。
「そうね……、じゃあ私は赤い扉を行くわ」
「了解。じゃ、オレは青い扉だな」
 エレナとバファンは向き合った。
「いい? ちゃんと試練を乗り越えて闇の世界へ行くわよ」
「もしもどちらかが試練を乗り越えられなくて、1人になったとしても……」
「お互いの目的のために、ちゃんと闇の世界へ行く」
 エレナが言葉を続け、バファンはうなづいた。
「じゃ、オレは先に行くな。エレナ姫、ちゃんと着替えてから試練を
 受けろよ。その格好はさすがにマズイだろう」
 バファンはバニーガール・エレナを鼻でわらってやると、エレナの鉄拳が
振り下ろされる前にさっさと青い扉の中に姿を消した。
 エレナは自分のバニー姿を見つめ、それから永遠の番人を振り返った。
「ねぇ、ここで着替えても問題ないかしら?」
「あら残念、着替えちゃうの?」
「勝手に着替えさせてもらうわ」
「ご自由にどうぞ」

 永遠の番人は機械的に笑うと、部屋の天井につけられた窓から星空を見つめた。






  



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