第11話  永遠の番人の館、最後の試練
─ そ の 2 ─




 バンッ!


 着替え終わったエレナは、意を決して赤い扉を開けた。

 そこは広々とした何もない空間だった。赤と白のチェック柄の床の上をエレナは
辺りを伺いながら慎重に歩く。
 部屋の中には1つの大きな鳥の銅像が立っていた。その鳥の銅像は鎧を着て、
翼で剣を持っている。
「さぁ、最後の試練よ。ウサギさん」
「もう着替えたんだし、その呼び方はやめてよね」

 ザシュッ

 永遠の番人を振り返った瞬間、エレナは何者かに襲われた。間一髪のところ
で身をかわしたが、ハチミツ色の彼女の髪が数本、床へと落ちる。
「なに!?」
 身を翻しながら剣を抜き、構えるエレナ。
 先ほど銅像だと思っていた鳥が炎の翼を広げ、エレナの前に立ちふさがる。

「ふふ、その子はカルラ。最後の試練よ。あなたに彼が倒せるかしら?」

 エレナは握り締める剣に力を入れた。ここは夢の中ではない。進まなくては
いけない現実なのだ。
「さぁ、かかってらっしゃい!」
 エレナは地面を蹴った。
「かーぜーのー刃ッ!」
 剣が緑色に輝き、風がカルラを襲った。カルラは風の刃をもろともせず、風の中から
抜け出しエレナに斬りかかる。

 カキンッ

 両者の剣が重なった。
「くッ……」
 カルラの剣にエレナが押される。応じ技を繰り出すタイミングがない。やはり
力技でこられてはエレナに勝ち目はなさそうだ。エレナは剣を握る力を抜くと
後方へ避けた。カルラの剣がその勢いで地面を砕く。
 エレナは呼吸を落ち着かせてカルラを見据えた。剣を下へと構える。
「大丈夫、素早さは私のほうが上なんだから、隙を見て斬り込めば、必ず勝てる。
 バファンがいなくても、1人でも大丈夫なんだから。今までバニー姿で、根性で
 試練を乗り越えてきたじゃない! うん!」
 エレナは呟き、自分に言い聞かせた。しかし、夢の中での試練とは全く違う。
相手の威圧感がエレナに精神的にもダメージを与えてくる。
 しばらく相手を伺っていた両者が、同時に仕掛けた。
 カルラが大きな翼を広げ、エレナに覆い被さるように剣を振り上げる。
 エレナは身をかがめ、剣を下から上へと斬り上げる。
 
 ザシュ

 鈍い音がした。エレナの剣がカルラの足をとらえていた。カルラの足から流れる血。
咆哮と共に何度も翼をはばたかせ、翼から放れた赤い羽が辺りを舞う。
「うっ……」
 エレナも左腕を抑えた。激痛が走る。カルラの剣がエレナの左腕を斬りつけて
いたのだ。袖が真っ赤に染まり、ぽたぽたと血が床へ落ちる。
 ──痛がっている場合じゃない!
 エレナは剣を持つ手に力を込めるとカルラに向かって走り出した。
 カルラも身構え、両者が激しく討ち合う。
 攻撃力の低いエレナは左腕の負傷でいっそう剣を打ち込む力がなくなってい
た。しかし、カルラのほうも右足を負傷し、ほとんど動けない状態。エレナは素早
さを利用してカルラの胸へ一撃を繰り出そうとするが、カルラに剣を全て受け
止められる。
 何度かそれを繰り返したところでエレナはカルラの攻撃範囲外に退いた。
 息があがっている。左腕がしびれ、力が出ない。早く終わらせて腕の手当てを
しなければ、闇の世界へ行く前に力尽きてしまうだろう。
 そう、こんなところでグズグズしているられないのだ。
 エレナは奥歯を食いしばり、もう一度カルラに剣を構える。
 カルラも同じく目をギラリと光らせ、剣を振る。


「……頑張るわね、2人共」
 その片隅で、永遠の番人は両者を見つめていた。


「いい加減に倒れて、道を通しなさいッ!」
 左腕の負傷もあるが、さすがのエレナも体力の限界が近づいてきていた。
 次で決められなければ、必ず負ける。次で必ず勝負を決める、と自分に言い聞か
せる。


 エレナは、カルラへ向け駆け出した。






  



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