第11話  永遠の番人の館、最後の試練
─ そ の 3 ─




「でやーーーーーッ!」
 斬り込んできたエレナにカルラが剣を構える。


 カキンッ


 両者の剣が重なり、火花が散る。
「くッ……」
 エレナは奥歯を食いしばり、カルラの剣を押そうとするが、やはり力では
勝てない。
 カルラも足を負傷しているが、片足で重心を保ち、決して倒れようとはしなかった。
 思わずエレナは叫んでいた。
「なんでそこまで頑張るのよ! 私はバファンと一緒に闇の世界に
 行かなくちゃならないの! お願いだから、降参してちょうだい!」
 しかし、エレナの言葉にカルラの心が動くはずもない。
「……?」
 お互いに譲れない気持ち。
 エレナはふと何かに気付いた。何かを探すようにカルラの目の奥を見る。


「もしかしてカルラ……、あなた、バファンなの!?」
 


 パリ−−−ン!



 まるでその言葉が呪文だったかのように、エレナの言葉に部屋がガラスの
ように砕け散った。
 戦いの場だった広間はもうそこにはなく、闇の中にエレナは立っていた。
 カランッ 左腕の痛みに思わず剣を手放してしまう。
 
 目の前には、足をひきずりエレナを睨むバファンが立っていた。

 バファンは、何が起こったのかわからず、辺りを見回している。
「バファン!」
「……エレナ姫、なのか?」
 彼も魔法が解けたらしく、エレナをまじまじと見つめた。
「エレナ姫!? なんであんたがカルラなんだよ!?」
「こっちだってビックリしたわよ。あなたこそ、私の目にはカルラに映って
 いたわ」
 青い扉と赤い扉、エレナとバファンは別々の部屋に入ったつもりだったが
それは同じ部屋へ繋がっていたらしい。そして相手の姿が敵に見えるように
幻覚を見せられていたのだ。
「なるほどな。……思い切り真剣に戦っちまったな。その腕、大丈夫か?」
「通りで、意地でもあなたは倒れてくれなかったのね。あなたこそ足は
 大丈夫?」
 青い顔をしているものの致命傷ではないらしく、2人はうなづいた。
 そして、永遠の番人を振り返る。
 エレナとバファンから少し離れた場所に、彼女はポツリと立っていた。無表
情で。
「ひどい! アリス、あなた私たちを同士討ちさせるつもりだった
 のね!?」
 剣の山からここへ降り立つ前に、「誰が自分の敵か味方か」判断することを
ラダック仙人に言われたばかりだった。バファンは信用していないみたいだっ
たが、エレナは、永遠の番人を味方だと思っていた。
「ごめんなさい」
 素直に謝る永遠の番人にエレナは怒りをどうにかして静めた。
「先に夢で試練を受けさせてくれたんですもの。まさか、こんなことをして
 くれるなんて」
「あなたちを闇の世界に行かせたくないの」
「どうしてそこまで……」
「ラリスとリリスに未来はないわ」
「……」
「会えば、辛くなるのはあなたよ、ウサギさん」
 永遠の番人のよく通る声に、エレナは押し黙った。
「あの子たちが命を犠牲にして『再生力』を使わなければ、闇の世界は破滅し、
 それは同時に全ての世界の破滅となるわ」
「ラダック仙人と同じ意見ね」
「そうかもしれない。そして、それ以上に私はワガママなのよ」
 寂しそうに笑い、肩をすくめる。
「ワガママ?」
「そう。私は永遠の番人よ。私には永遠が約束されている。世界の破滅だな
 んて……永遠を終わらせない。だからあなたたちを行かせたくない!」
 番人の声は少し震えているような気がした。怖がっているのかもしれない。
 エレナが一歩前に出る。
「ねぇ。以前、あなたは私に、私が兄さまを裏切って、世界を滅ぼすみたいな
 ことを言ったわよね。それって、これから先で起こることなの?」
「実のところ私にもわからないわ。起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
 ねぇ、ウサギさん、私の永遠は続くのかしら?」
 エレナはスッと指を差した。
 永遠の番人とバファンが、エレナの指先を見つめる。
 闇の中に1つの鉄で出来た扉があった。この空間の中にあるのはこの扉だけだ。

「迷っていてもしょうがないじゃない」

「……」
 番人はパチリとした綺麗な青い瞳でその重々しい扉を見つめた。
「あの扉を開けるのは、私でもバファンでもない。あなたよ、アリス」
「扉の先に何があるのか……あなたたちは知っているの?」
「”楽園”よ」
 考えもせずサラリとそう答えたエレナ。
 それが可笑しかったのか、永遠の番人はクスリと笑った。そして、左手を
ゆっくりと持ち上げる。
 永遠の番人の手の動きに合わせて扉が開き始める。
「お行きなさい。闇の世界へ行く資格のある者たちよ」
 その言葉と同時に、エレナとバファンは体に力が戻ってくるのを感じた。
永遠の番人が2人の傷を回復させたのだ。お互いに負っていた剣の傷が
跡形も無く消え、体力も元に戻る。
「ありがとう、アリス!」
「ついに闇の世界か……」
 扉の先の闇を見つめてバファンが呟く。彼にとっては懐かしき、そして二度と
戻ることはないと思っていた場所なのだろう。エレナもその闇の先を見つめる。
やっと、ラリスとリリスに会えるのだ。
「1つだけ、言わせてちょうだい」
 エレナとバファンの背中に永遠の番人は声を掛ける。
「ラリスとリリスに未来はないわ。だけど、あの子達には、
 未来を開く力がある。 ……私は、それに賭けてみるわ」


 エレナは扉に足をかけた。
 その先には闇があるだけ。今いる空間と見た目は変わらないが、空気が違う。
 エレナは永遠の番人を振り返り、安心させるように笑い、うなづいた。
「帰り道もよろしくね」
 そう言うとエレナとバファンは闇の世界へと飛び込んだ。





  




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