第12話  ダーナ神殿、再会、今の私に出来ること
─ そ の 1 ─




 闇の世界へ続く扉へ飛び込んだエレナは、次の瞬間、真っ白のふわふわの
クッションのような足元に驚き、尻餅をついた。
「なんなの、この床!?」
「床じゃない、クジラの背中さ」
「クジラ?」
「ほら、立てるか?」
 バファンの手を取り、エレナは不安定ながらも立ち上がった。白い床だと思われ
たそれは1頭の大きなクジラの背中だった。エレナも航海で何度かクジラの姿を
ダカート号のみんなと一緒に目撃したことがあったが、こんなに間近で見る……、
いや、その背に乗ることなんて初めての体験だった。

 ──やってきた死者の魂を乗せて闇の世界を泳ぐというクジラ。

「私、知ってるわ。クジラのマックでしょう?」
「ボクのこと、知ってるのーーー?」
 ゆったりと響く声で、白いクジラが聞いた。
「えぇ、兄さまから話を聞いたことがあるわ」
 エレナは幼い頃、兄のお土産部屋で見た白いクジラの壁掛け飾りと兄の話を
思い出し、懐かしく思いつつうなづいた。

 とうとうたどりついたのだ、闇の世界へ。

 星星の輝く宇宙空間のような場所。この星1つ1つに邪悪な魂が封印されている。
 ピエトロも母を追い、この世界へやってきたことがあった。
 そして今、エレナが闇の世界へ足を踏み入れたのだ。
「おい、マック。ダーナ神殿まで連れてってくれ」
 バファンにそう言われ、マックは尾を振り進み始めた。
「キミ、帰ってきたんだねーーー」
「……そうだな。帰ってきた。オレが留守にしてた間にずいぶんと荒れてきたな」
 バファンは瞬く星の中で一際赤く輝いている場所を睨みつけた。漆黒の闇の
世界でその星は赤く輝き、静寂の闇の世界でその星は激しく脈打っていた。
遠く離れているはずなのに、その赤き星が発する邪悪な力をエレナとバファン
は身をもって感じていた。その星を見ているだけで、寒気がし、気分が悪くな
る。
「本当に闇の世界の均衡が無くなろうとしているのね」
「そうだ、つまり、ラリスとリリスはまだ再生力を使っていないということになる」
 エレナはうなづいた。
 バファンが見つめてる気になっている、赤い星を指差す。
「ねぇ、あの星は?」
「あれは、『炎の魔王』の封印されている星だ」

「炎の魔王???」

「そう。この均衡を失いつつある闇の世界に眠る魂の中で、一番に復活する恐れ
 の高い邪悪な魂だ。復活すれば、手がつけられないどころか、他の星の封印も
 解かれ始める。その前に再生力を使い、闇の世界を元に戻すんだ」
「ダーナの神殿が見えてきたよーーー」
 マックの声にエレナは炎の魔王の星から目をそらし、前方を見つめた。
 闇の中に白い神殿が浮かんでいる。
 あそこにラリスとリリスがいるのだ。
 エレナとバファンはダーナ神殿に降り立った。





「うわーー、大きな階段!」
 神殿に降り立ったエレナは、真正面にある壁のような巨大な階段を見上げ、
第一声を発した。まさか、これをよじ登るんじゃ……。
「それはダーナ専用(ーー;)。 オレたちはこっちだ。行くぞ」
 バファンの後ろについてエレナは歩き始めた。ちゃんと別の場所には普通サイズの
階段もある。何も闇の世界のことを知らないのだから、バファンに大人しくついて行くし
かないだろう。
 神殿の中はとても静かで2人の足音が聞こえる以外は不気味なぐらい何の音もしな
かった。要所要所にダーナの兵士や巫女、神官などがいるが、こちらをチラリと見る
だけで、決して話し掛けてはこない。
「みんな愛想ないわね。私たちに対して何かしら対応してくれてもいいのに」
 総無視状態に、エレナは思わず呟いた。
 ラダック仙人と永遠の番人はエレナを闇の世界へ行かせたっくなかった。
闇の世界の住人も、当然自分を歓迎してくれないだろう……と覚悟はしていたの
だが、これがノーリアクション。エレナはため息をつき、警戒を解いた。誰も何も
思っていないのだろうか……。
「そう悪く言ってやるな。全員オレの兄弟だ」
「え、そうなの?」
 エレナの高い声が神殿内に響く。
「オレたちは、この神殿の奥にある部屋で、ダーナの心から生み出された。クジラの
 マックだってそうさ」
「ダーナ様……か。ねぇ、バファン、あなたもここに住んでいたんでしょ?」
「もちろんだ。エレナ姫の兄貴も昔、ここで見た」
「え゛ッ!?」
 エレナは立ち止まった。
「本当にあの時は大変だったよな、氷の魔王が地上へ出た後、崩壊した星の
 後片付けはオレたちがやったんだぜ……ん?」
 歩き続けていたバファンがようやく立ち止まり、距離の開いてしまったエレナを
振り返る。
「なんだ、どうしたんだ?」
「バファン、あなたってば何歳なの?」
 バファンを上から下までまじまじと眺める。見た目はエレナとかわらない歳に
見えるのに……。
「さぁな。生まれて気付いた時には、この姿でここで雑用やってたからな」
 ──ここにいる人たちは、全てダーナの心から生まれたのだ。
 この世界の支配者の強大な力をエレナは身に感じ始めていた。



 その後、2人は黙って歩き続けた。
 大きな扉までやってくるとバファンは足を止めた。扉の前には巫女が静かに
立っている。
 エレナにもわかった。この先に闇の王ダーナがいることを。
 巫女はそっと目を開けて2人を見つめた。
「ダーナはあなたたちをお待ちです。どうぞ中へお入りください」
 ダーナ神殿に降りてから、初めて自分たちへ向けて発せられた言葉。
 ゆっくりと扉が開かれる。

 エレナとバファンは扉の中へ足を踏み入れた。





  




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