第12話  ダーナ神殿、再会、今の私に出来ること
─ そ の 2 ─




「この方が闇の王ダーナ……」


 見上げるほどのとても大きなダーナの姿に圧倒されながらエレナとバファン
はダーナの前に進んだ。
「あの……はじめましてッ!」
 エレナは大きな声で天井に向かって叫ぶように挨拶した。
 するとエレナの体を薄い膜のようなものが包んだかと思うとふわりと浮き、彼女の
体がダーナの顔の高さまで飛んだのだ。
 闇の世界を司る王……真っ白い肌、男とも女ともわからない抽象的な顔。巨大な
その姿で闇の世界に眠る邪悪な魂を監視しているのだろう。閉ざされた瞳の奥で、
ダーナはエレナを見つめている。
 エレナは姿勢を正し、胸を張った。
「私はエレナ・パカプカ。サニアの娘で、ピエトロの妹です」
 エレナはダーナの玉座の奥を見つめた。
 後方にとても大きく立派な金色に輝くパイプオルガンが置かれている。1万本近く
あるパイプは、エレナの小指ほどの小さなものから神殿をつきぬけるほどの長さの
もの。3段の鍵盤に足で弾くペダル鍵盤、演奏台には数十の音量や音色を変える
ためのストップ。
 ──あのパイプオルガンで2人は演奏するのだ。「楽園」を。
 エレナの胸は痛んだ。
「ピエトロ……。そうか、あの小さき者なら覚えている。氷の魔王を復活させ
 その時、私もかなりの兵力を失った」
 ダーナの声は耳から入ってくるのではなく、直接頭に語り掛けてくるようで
エレナは嫌な頭痛に襲われた。
「でも、氷の魔王はちゃんと兄さまが倒して……」
「そして再びこの闇の世界に封印された。もう永遠に復活することはない。
 ……全て昔の話だ」
 エレナは話に切り出した。
「お願いします、ダーナ様ッ!! ラリスとリリスに会わせてください!」
 それがエレナの目的だ。
 ダーナはエレナのように感情的ではなく、ただ機械的に語る。
「闇の世界の均衡は崩れ始めている。お前も見ただろう、炎の魔王の星を。
 ヤツが復活すれば、それが引き金となり闇の世界に眠る全ての魂が
 目覚め始める。だから双子の力が必要なのだ。再生力を使い、均衡を
 戻さなければならない」
「だからと言って、今すぐ炎の魔王が復活するわけではないでしょう!?」
「2人の命は、この世界を救う分しか残されていない。今すぐにでも発動
 させなければ手遅れになる」
「少しぐらい会わせてくれたっていいじゃないですか!」
「……わかった。では聞こう、会って、お前はどうするつもりだ?」
「それは……」
 途端にエレナは口篭もった。
 実のところ何も考えていない。
 ダーナは閉ざされた瞳の奥でエレナの思いを感じ取っていた。
「闇の世界と地上を結ぶ扉は永遠の番人によって閉ざされた。ここから2人を
 連れ出すことは不可能。この世界でお前に出来ることがあるとすれば、
 再生力を使う2人の最後の姿を見守ってやることだけだ」
「……」
 エレナもダーナもそれ以上は何も言わなかった。重い沈黙が流れる。

 と、その時だ。



 ドーーーーーンッ!!


 外でものすごい音が響いた。
「なに!?」
 慌ててエレナが振り返る。エレナはダーナから解放され、床に足をつけていた。
 再び爆発音のようなものが聞こえ、空気が震えた次の瞬間、エレナたちが入って
きた扉が破壊され吹き飛んだ。
 剣に手をかけて思わず身構えるエレナとバファン。そして広間にいた兵士たちが
ダーナを守るようにぐるりと囲む。


 爆発の煙の中、現われたのは……


「エレナ様〜〜〜〜!!」

 リリスだった。その後ろでラリスが扉を派手に破壊したであろう魔法の
杖をクルクル回して腰にしまうと、いたずらっぽく笑う。
 リリスは駆け出し、ホップ・ステップ・ジャンプでエレナに飛びついた。
「リリス!!」
「エレナ様、会いたかった……」
 エレナは心が押し潰されそうだった。ギュッとりリスの体を抱きしめる。
「まっさか、ここまで追いかけてくるなんてな」
 あきれた口調だが、うれしそうにラリスはエレナとリリスに近づいた。バファンを
見上げてニッと笑う。
「本当に良かった……2人とも無事?」
 エレナはラリスとリリスを抱き寄せた。涙ぐむエレナに2人はうなづく。
「見てのとーり。三食昼寝つきで、ワガママし放題さ」
 ラリスが肩をすくめる。
 確かに。バファンがラリスとリリスの機嫌を損ねないように気を使って
いたように、ダーナたちも2人の扱い方に気をつけていたのだろう。この
2人にしか闇の世界を救えないのだから。
 元気そうなラリスとリリスを見てエレナは安心し、それから壊れた扉から
現われたとある人物に気が付いた。

「も、申し訳ありません、ダーナ様。この2人が部屋の壁を壊して脱走し……」
 ラリスとリリスの後を追ってヨロヨロと現われた1人の兵士。

「あの人は……」
 エレナはこの兵士に見覚えがあった。
 ガミガミ魔王城でラリスとリリスを闇の世界へ連れ去ったあの兵士だ。
その後、2人の面倒を見ていたのはきっとこの兵士だったのだろう。かな
り疲れた表情をしている。
 バファンが気の毒そうにその兵士を見て、それからラリスの頭をこついた。
「お前ら、脱走、始めてじゃないだろ」
「えへへー、今回で36回目かな?」
「全部未遂で終わってますけどね」
「おいおい……(-_-;)」
 その兵士はバファンに目を止めた。たえだえだった息を整え、バファンに
向き直る。
「お前……! 何故戻ってきたのだ!?」
「オレは……」
 バファンが答えようとした時、たくさんの兵士が広間になだれ込み、エレナた
ちは四方八方を囲まれた。
 剣や槍、弓矢をこちらに突きつけている。
 エレナとバファンも剣に手を掛けた。しかし、これだけ大勢の兵士を相手に
するのはまず不可能だ。


 その時、エレナは頭上で何かがキラリと不気味に光るのを見た。


 ダーナが右手を天にかざす。
 轟音と共に現われた青い雷がダーナの手より現われ……
 雷はエレナの目の前でバファンを襲った。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 バファンの叫び声が広間に響く。ラリスが立ち尽くし、リリスはエレナの
服に顔をうずめる。
 電光は止まらなかった、激しくバファンを痛めつづける。
「やめて!」
 その雷の激しさに近づくことも出来ない。エレナは叫ぶが、轟音と
バファンの悲痛の声にかき消される。
 

 長い時間に思えた。ダーナの放った雷はやみ、バファンはゆっくりと
その場に倒れた。




  




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