第13話  闇の世界のとある星、運命の選択
─ そ の 2 ─




 次にエレナが目を開けた時……ほんの数秒だっただろう。
 特に船内に変化は見られなかったが、船外はとても静かになっていた。
ダーナの兵士の姿が1人も見当たらない。空王丸は星星の佇む静かになっ
た空間を漂っていた。
 ダーナは言っていた。地上と闇の世界を結ぶ扉は閉めた、と。
 つまり、ここはまだ闇の世界ということになる。
「ワープ成功デフ」
「よっし。もう兵士たちは追ってこないな。早く燃料タンクの修理をしねーと、
 動かなくなっちまう」
「すごい、これってガミガミ魔王さんの力なの?」
 驚いてみせたエレナだったが、よくよく考えれば空王丸にワープをするような
機能はないはずだ。あったなら、以前乗せてもらった時に剣の山まで瞬時に
連れて行ってもらえたはず。

「あいつが魔法を使ってここまで俺様たちを移動させたんだ」

 ムッとしながら応えるガミガミ魔王。
 その「あいつ」という人の元へ空王丸は速度を緩めながらも向かっているら
しい。
 とりあえず兵士たちから逃れたことに安心し、エレナは黙り込んでいる
ラリスとリリスを振り返った。
 落ち着きを見せている2人は窓からある星を見つめていた。
炎の魔王の星ね」
 2人の背後からその星の名を言う。
「エレナ様、よくご存知で」
「えぇ、バファンから聞いたわ。闇の世界の中で今一番復活しそうな人なんで
 しょう?」
 エレナは小さな窓から双子と一緒にその星を眺める。
 燃えるように周辺を赤く染めていた星が、ここから見るとだいぶ小さく
なっていた。空王丸は数秒で相当の距離を移動したことになる。そして
改めてこの闇の世界の広さを思い知らされる。

「炎の魔王にはさ、かなり嫌な思い出があってね」

 炎の魔王の星を睨みながらラリスが呟くように、エレナに話しはじめた。
「ねーちゃんに会う10日前。天空城はモンスターの大群に襲われたんだ。
 ボクたちの命を奪いに、炎の魔王の配下のモンスターたちが攻撃を仕掛け
 てきた」
 彼のその声は少し震えているような気がする。
 エレナは、ピエトロから天空城がモンスターに襲われたことを聞いていた。
ラリスとリリスを消してしまえば、「再生力」を使える者はいなくなり、闇の世界は
破滅する。それを危惧した2人の父・ボリスは、天空城にはもう居させられない
とラリスとリリスをポポロクロイスへ逃がしたのだ。
「にーちゃんにどこまで話を聞いているか知らないけどさ、ボクたち、知恵の
 王冠の前にも再生力を使ったことがあるんだ」
「お父様にかーなり怒られましたけど」
 クスリとリリスが笑う。
 そう言われて、エレナはバファンの言葉を思い出していた。

「あの2人はもともと闇の世界を再生させるために使わなければならない力を
 2回も別のことに使ったんだぞ。あんたも1回見ているだろう。再生力を使う
 ためにあの2人は命をかけているんだ」

 確かに、ガミガミ魔王城から飛び立った空王丸内のまさしくこの場所でバファンが
そう言っていた。その時は、ラリスとリリスが連れ去られた現実で精一杯で、何に
再生力を使ったのかまでは聞かなかったが……。
 ラリスは話を続ける。
「天空城がモンスターに襲われた時、ボクたちをかばって1匹の猫がモンスターに
 殺されたんだ」

「……猫?」
「猫の名前はスミレ。私たちが飼っていた大切な猫です。再生力を使って
 元に戻してあげたの」
「……生き返らせた、ってこと?」
 再生力にそんな力まであるなんて……エレナは息をのんだ。
 2人はそんなことはどうでもいいように、再び窓の外の星星に目をやった。その
先に、自分たちの故郷・天空城を見るかのように。
「父さんとスミレ、仲良く暮らしてるかなぁ」
 そう呟くラリス。リリスがクスクス笑いながらエレナを振り返る。
「そう。お父様は、猫とお菓子が嫌いなんです。過去の”虎と鹿”なんですよ」
「それを言うなら”トラウマ”でしょう(-_-;)」
 エレナが思わず指摘する。3人は可笑しくて、つい笑った。
 ──お互いに悲しい顔は見せられない。
「おい、お前ら、もうすぐ着くぞ。 シートベルトしろよ」
 ガミガミ魔王に言われ、エレナたちはモニターを見上げた。進行方向に
薄いピンク色をした星が輝いている。空王丸はその星に吸い寄せられるように
進んでいった。




 しばらくして、空王丸は何の障害もなくその星に降り立った。
 白い石柱の並ぶ1つの小さな神殿らしい建物がその星にはある。ダーナ神殿
のような冷たい印象はない。ここはなんだかとても温かみのある場所だった。
 エレナはその星に驚いた。
「すごーい」
 花が咲いているのだ。この闇の世界に。
 ピンク色の4枚の小さな花びらが可愛らしい。神殿を取り囲むように咲いて
いる。この星が薄いピンク色に見えたのは、この花のせいだろう。
 ガミガミ魔王はデフロボたちに空王丸の破損箇所の修理の指示を出していた。
ガミガミ魔王の姿を見て、エレナはここが安全な場所なのだと判断する。

 コツ コツ コツ コツ……

 神殿から聞こえてきた足音に、エレナはラリスとリリスをかばいながら身構
える。
 そこから現われたのは……

「ガミガミ、ちゃんと双子を連れてきたでゲスか?」

「あ゛ッ!」
 エレナが短い声を上げた。
 元サーカス団団長、エレナが3歳の時、誘拐した人物。片眼鏡にシルクハット、
タキシードを着た、以前と変わらぬその容姿……。
「ズールッ!!!!」
 エレナに指をさされ、ズールは飛び上がった。
「ギャ−ーーーーー! エレナ姫!?」
「その節はどうも。まさかこんなところで会えるなんてね。……ていうか、私を見て
 驚きすぎじゃない?」
「頼むからみぞおちにエレナタックルは勘弁してくれゲス」
 エレナ3歳当時に攻撃されたことでもあるのか、ズールが怯えたように一歩
後退る。
「そっちこそ。私たちをゴブリンの姿に変えようとしているんじゃないの?」
 2人がまさに言い合いを始めようとした時、
 ズールの背後から声が聞こえた。

「ズール! 何をしているの、お客様をこちらにお通ししてちょうだい」

「この星は……まさか!」
 エレナが狼狽する。
「ついてくるゲス」
 ズールは姿勢を正し、踵を返すとエレナたちに神殿に入るように合図をした。






  




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