第13話  闇の世界のとある星、運命の選択
─ そ の 3 ─




 ズールに言われ、神殿の中に入ったエレナたち。しかし、この星自体が小さい為、
外見は大きく見えた神殿も入ってみれば住みやすい家のような空間だった。
「入るゲスよ」
 そして、通された部屋で。
 エレナは始めなんと言ったら良いかわからなかった。
 そこではピンク色の長い髪、色白の肌、純白のドレスを身にまとった美しい
女性がエレナたちを待っていた。

「美の女神マイラ……」

 思わずエレナがゴクリと唾を飲む。
 そう。15年前、バルバランと共に兄のピエトロに倒されたマイラがそこにいた
のだ。
「あらあら、そんなに怖い顔をしないで。私は昔 犯した罪をここで償っているのよ。
 闇の世界の均衡が崩れて警備の強化はされているけれど、闇の王ダーナは
 私には甘いの。もう少し強く私をこの星に封じ込めておけばこんな事態には
 ならなかったのに。読みが足らなかったようね」
 マイラたちが闇の世界のこの星で、このように実体を持って普通に暮らしている
のはダーナの計らいのようだ。ダーナは彼女のことをあまり危険視していないらし
い。
 親しみやすい雰囲気でクスクスと笑うと、マイラは自分の後ろに控える老女を
呼んだ。
「ガープ、お客様に飲み物を用意してちょうだい」
「かしこまりました」
「ぬわーーーにがお客だッ! 有無を言わせず強引に俺様を
 連れてきたくせに!」
 マイラに対し、プリプリと怒っているガミガミ魔王。
 ガミガミ魔王を空王丸ごと闇の世界に連れてきたのは、彼女のようだ。
「ふふっ、ごめんなさい。さぁ、みなさん、おかけになって」
 レースのテーブルクロスのかかった机。マイラに勧められ、エレナたちはそれ
ぞれ席についた。目の前に紅茶とお菓子が置かれる。エレナは食べる気なんて
これっぽっちもなかった。
 ラリスとリリスはうれしそうにお菓子を食べ、ガミガミ魔王は「熱い日本茶を
出せ!」とガープに文句を垂れている。
 どうしてこんなに平然としていられるのか、エレナには居合わしている誰の
気持ちもわからなかった
「エレナ姫、ピエトロとナルシアはお元気?」
「え?」
 マイラに聞かれ、ずっと紅茶の中に映る自分の沈んだ顔を見ていたエレナが
顔を上げた。
 マイラは優しそうな笑顔をエレナに向けている。
「……はい、元気です。マイラ様もお元気そうで」
「私のほうは見ての通りよ。救われない闇の世界にいるけれど、私にはズール
 たちが側にいてくれる。あんなに酷いことをしたのに、まだ私のことを慕って
 くれているのよ。私はもう人の上に立てるような立派な神様じゃないのに……。
 ま、私の話はどうでもいいわね。
 それで、ピエトロはまだお土産を集めてたりするの?」
「え? あ、はい。相変わらずお土産マニアで……」
「そう。闇の世界にもお土産屋があるのよ。そこでうちのボクシーとゴークがバイト
 させてもらっているの。後でズールに案内させるから買いに行ってらっしゃい」
「あ……ありがとうございます」
 エレナは頭を下げたきり、その頭を上げなかった。
 カチコチと時計の秒針が時を刻む音がエレナの頭に響きつづけている。刻々と
炎の魔王が復活する時が近づいているのだ。つまり、ラリスとリリスが再生力を
使う時が近づいているということ。2つの命が消えるということ。
 こんなところでお茶なんてしている場合じゃないのに!!
 闇の世界を救えつつ、ラリスとリリスを救える方法。いくら考えてもエレナに
良い考えは浮かばなかった。
 それにバファンは……。
「そうよ、バファンよ!」
 エレナはバリバリとせんべいを食べているガミガミ魔王を睨んだ。
「あなた、なんでバファンを見殺しにしたの?」
 ガミガミ魔王はその話に興味なさそうに、マイラに視線を送る。エレナの
問いに答えたのはマイラだった。
「バファンって、あの兵士さんのことね。彼なら無事よ。今ごろ、ダーナの
 命令で手当てを受けている頃だわ」
「……本当ですか?」
 マイラの言葉にエレナはキョトンとした顔を見せる。
「あの兵士は、ダーナの『切り札』だもの。それになにより、彼には生きな
 くてはならない理由がある。彼は大丈夫よ。私が保証してあげるわ」
 マイラの言葉にエレナは心配ながらもうなづいた。
 そう言ってくれるのなら、マイラのことを信じよう。彼女はピエトロやナルシアの
おかげで「誰かを思う大切な心」を思い出したのだ。彼女はもう敵ではない。
 その時、バタバタという足音と共にズールが部屋へと戻ってきた。
「マイラ様。双子がここにいることがダーナに気付かれたようでゲス。兵士た
 ちがこっちへ向かっているゲス。到着までに少し時間がかかりますが、急い
 だ方がいいゲスよ」
「そう……」
 マイラはティースプーンで紅茶をゆっくりかき回している。
「あの……マイラ様! この子たちのために私が出来ることって何かありません
 か?」
 エレナに聞かれ、マイラはティースプーンの手を止めた。
「そうねぇ。闇の王ダーナが一刻も早く再生力を使わせたい理由、それはこの
 闇の世界で最も邪悪な魂である炎の魔王が復活しそうだからよ」
「……」
「炎の魔王が復活してしまえば、それが引き金となって、後はシャボン玉の
 ようにポンポンと他の邪悪な魂の眠る星星の封印も解けて、闇の世界は
 破滅してしまうわ」
「……」
「何が言いたいか、わかるかしら?」
 エレナはなんとなくわかった感じ半分で、微妙に首を斜めに傾けた。ラリス
とリリスも食事の手を止めて、目の前の美しい女性の言葉に耳を傾けている。
「つまり、炎の魔王を──その魂を鎮めればいいのよ。そうすれば、ダーナが
 今、強制的に行おうとしている再生力を使う儀式をやめるはずよ」

「炎の魔王を鎮める……?」

 途方もない話だった。闇の世界を赤く染めようとする、封印はまだ解かれて
いないものの邪悪な力を体いっぱいに感じるあの炎の魔王を鎮めるなんて。
そんなこと、簡単に出来るのならとっくの昔にダーナがやっているだろう。
「そんなの無理ですッ!!」
「あなたの力では無理でしょうね。協力者が必要よ」
「協力者?」
 スッとダーナは窓の外を指差した。
 エレナたちがその方向に視線を走らせる。
 炎の魔王の星とは正反対の方向、窓の外には遠く青白く小さな星が弱々しく
輝いている。
 エレナは嫌な予感で胸が締め付けられるのを耐えながら、口を開いた。
聞かずにはいられない。
「……誰の封印されている星ですか?」

 マイラが目を伏せ、唇に怪しい笑みを浮かべた。


「氷の魔王、よ」






  




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