第14話  魔王魔王魔王様と、女神の策略
─ そ の 2 ─




 カツーン カツーン カツーン……

 白い衣を羽織った1人の少女がゆっくりと塔から出てくる。うつむき加減で
その表情はよく分からない。

 寒いのに空王丸の外でエレナの帰りを待っていたラリス、リリス、それから2人に
付き合っていたガミガミ魔王がその足音に顔を上げた。
「ねーちゃんッ!」
「エレナ様ッ!」
「おいおい、まさか収穫ゼロかよ」
 ラリスとリリスがうれしそうに塔から出てきたエレナに向かって駆け出す。ガミガミ
魔王はため息をつき、背を向けるとデフロボたちに空王丸発進の合図を送る。

 ラリスとリリスがエレナから数メートルほどの距離に近づいたとき……

 その異様な殺気に気付いて、2人は立ち止まり身構えた。
 エレナが、ラリスとリリスに向けてスッと手を上げる。

「さがれ、リリス! ファイアーボールッ!!

 ラリスが杖を頭上に掲げたのと、エレナの手から氷の刃が放たれたのは、
ほぼ同時だった。
 2つの反する力が激突し、巻き起こった爆風に両者の服がなびく。
 エレナの放った氷の刃のほうが威力が強かった。ラリスのファイアーボールの
炎を越えて、氷の刃がラリスとリリスへ降り注ぐ。
「マジックレイズッ!」
 慌ててラリスが魔法をかけ直すが、間に合わない。2人は襲ってきた氷の刃を必死に
避けた。ラリスの頬を鋭い氷がかすり血がにじみ、リリスの髪が数本ハラリと落ちる。

「ガミガミミサイルッ!」

 氷の刃から2人を救ったのはガミガミ魔王だった。
 エレナに何の借りもなく、むしろ貸しばかりあるガミガミ魔王は遠慮する
ことなくガミガミミサイルをエレナに打ち込み、その動きを止めさせることに成功
する。
「おい、お前ら大丈夫か?」
 ガミガミ魔王が双子に駆け寄る。ラリスは頬の血をぬぐい、リリスは服の
汚れをはたきながら立ち上がった。
 張り詰めた空気。目の前の人物を睨みつける。

 白い衣をなびかせ、エレナは赤い目を細め、皮肉めいた笑みを浮かべた。


〔この体は余のものだ〕


「〜〜〜〜〜ッ!」
 ガミガミ魔王が息を吸う。


「「「こ、氷の魔王さんですかッ!?」」」



 ズササササササササ─────→

 慌てて3人が猛スピードで空王丸まで後退する。
「お、おい、どーゆーことだよ、これ」
「わ、悪い冗談ですよね。ガミガミ魔王様?」
「俺様に話題を振るんじゃねーよ……。ほれ見ろ、言わんこっちゃない」

 エレナ……いや、氷の魔王はうれしそうに自分の手の平を見つめる。

〔勝負に余は勝ったのだ。この体は余のもの。 まぁいい、この世界を出たら
 魔力を集め、自分の肉体を復活させることにしよう。 その前に、この姿を
 使って憎き竜のサニアとピエトロを討つか……〕

「う……かなりヤバイこと言ってますけど?」
「おっさん、一度、氷の魔王を倒してるんだろ? 何とかしてくれよ」
「バカヤロウ! 俺様に不可能という文字は…………あるッ!」
「あるのかよ……」
 3人がコソコソともめ合っているうちに、氷の魔王が一歩、また一歩と
近づいてくる。その手に氷の剣が現われる。
〔邪魔だな、『再生力』を使う子供たちよ。余の刃に討たれよ〕
 再び氷の魔王の攻撃が始まった。
 もめ合いはそこで終わり、3人がそれぞれの方向に飛び、攻撃を避ける。
さすがにこちらから攻撃は出来ない。精神は氷の魔王であっても、その体は
エレナのものだからだ。
 ガミガミ魔王が空王丸のハッチを開け、ラリスとリリスに乗るように指示を出す。
 華麗に攻撃から身をかわしていたラリスとリリスが氷の魔王を睨む。
「ボクたち、そう簡単にやられないよーだ!」
「自分で身を守れるくらいは強いので!」
 あっかんべーーッと舌を出す2人。氷の魔王はそれに怒る気もないようで
肩をすくめた。
〔天空城にいた時はお前たちは常に守られていたから炎の魔王もなかなか
 手を出せなかったが、今は違う。余にかなうと思っているのか?〕
 氷の魔王が一撃を出そうと手を上げた。
 攻撃に身構えるラリス、リリス。
 氷の魔王はその手を振り下ろさずにいた。
〔……ッ!〕
 氷の魔王は唇を噛んだ。魔法を放とうとした頭上の右手が小刻みに震えている。
氷の魔王は舌打ちした。
〔まだ抗うとは、こざかしい。余に……攻撃させないつもりか〕
 その言葉。氷の魔王が誰に言ったのか、一目瞭然だった。体の内側にいる
エレナに言ったのだ。今のこの攻撃を止めさせたのも彼女だ。
「エレナ様ッ!」
「まだ氷の魔王に完全に乗っ取られていないんだッ!」
 2人に希望の笑みが浮かぶ。──そう、まだ望みは十分ある。
〔……くッ!〕
 氷の魔王がその手を下ろす。
〔まだこの体を自由に出来ぬか。だがそれも時間の問題だ〕
 吐き捨てるように言う。


「がーーーはっはっはっはっ!

 その姿を見て、何かを思いついたのか、ガミガミ魔王が突然、高笑いを始めた。
左手を腰にあて、右手で氷の魔王をビシリッと指差す。
「そうだッ! お前を倒す手がある!! ガキ共、空王丸に乗り込め!」
 ガミガミ魔王の声に、ラリスとリリスがうなづき、空王丸に駆け出す。
「氷の魔王、貴様はこのガミガミ魔王様が倒ーーーす!」
〔ほう……〕
 少し興味をそそられたのか、氷の魔王は目を細め、ガミガミ魔王を睨んだ。当の
ガミガミ魔王は人差し指をヘルメットに当て、何かを考えている。
「例の……ほら、アレだ。何と言ったか、あの音楽だ」
〔『再生力』か。その子供たちがダーナ神殿に戻り、パイプオルガンの前に座る
 までに、それまでにここから脱出してやる。造作もないことだ〕
「脱出出来ねーよ! お前はこれから炎の魔王を倒すっていう大仕事が待っ
 てるんだからな。 おい、エレナ。聞こえてるんなら、とっとと足を動かして
 炎の魔王の星へ行って来い!」
〔……いいか、覚えておけ〕
 氷の魔王が既に飛び立とうと舞い上がった空王丸のデッキに立つ3人を睨み
上げた。
〔『再生力』を使い、この闇の世界を再生させたとしても、この体は余のものだ。
 この娘も余と一緒に闇の世界に封印されることになるのだぞ〕
 その言葉を聞かずに、空王丸が飛び立つ。
 闇の彼方へと消えるその機体を氷の魔王はじっと見送った。
〔……わかっている〕
 少女の赤い唇からおぞましいほど低い声が漏れる。
〔炎の魔王との決着、つけようではないか〕
 氷の魔王は冷たく鋭い瞳で、遠く赤く激しく燃え上がる星を睨みつけた。





  



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