第14話  魔王魔王魔王様と、女神の策略
─ そ の 3 ─




 ドクン ドクン ドクン ドクン……



 炎の魔王の星は、今にも破裂しそうな勢いで脈打ち、熱を発していた。

 闇の世界の中で今、もっとも危険な星。

 あちこちにダーナの兵士が配置され、厳重な警備がしかれている。その暑さと
抑えきれない力に兵士たちの顔も険しく、辺りには不安にかられた重い空気が
漂っている。周りの星が炎の魔王の星と呼応するかのように、辺りは邪悪な気配で
覆われていた。
「何者だ!?」
 突然現われた宙に浮かぶ少女に、1人の兵士が気付き、持っていた槍を構える。
その声に他の兵士たちが次々と集まり、武器を手に、少女を囲む。
 少女は兵士たちの張り詰めた緊張を和らげるように可愛らしくニコッと笑った。


「みなさん、警備おつかれさまー  っていうかぁ、
 ここかなり暑い〜!みたいなー。
     エレ、服ぬいじゃおっかなぁーーー?」


 少女が胸元に手を置く。
 暑いはずのこの場所にひんやりとした空気が流れ込んでくる。
 ゴクリと生唾を飲み込む兵士たちの視線が少女の胸元に……


〔スキありッ!!〕

ドカッ!  バキッ!



 まさに早業。華麗に舞う蝶のように身を翻しただけで、一瞬にして兵士たちが
全滅。
〔ふっふっふっ……。丁重に相手をしてやろうと思ったが、あいにく時間が
 なくてな。雑魚には用はないのだ〕
 少女は倒れる兵士たちの真ん中に立ち、あごに人差し指をあてて不敵な
笑みをもらす。
〔しかし、余の作戦は完璧だな。さて、ぐずぐずしてはいられない。炎の魔王と
 対面といこうじゃないか〕
 エレナの体を乗っ取った氷の魔王は、炎の魔王の星へと舞い降りた。






 炎の魔王の星は、溶岩の塊だった。これが星を赤く見せていたのだろう。一面に
広がるマグマの海、かろうじてある突き出た岩の1本道に降り立ち、氷の魔王は
歩き出した。
 溶岩のトンネルの中、星の中心へと続く道。
 この先で、炎の魔王は闇の世界の崩壊と自身の復活を待っている。
 モンスターの形をしたマグマが何度も氷の魔王めがけて飛び掛ってきたが、
氷の魔王は焦ることなく、次々とそれらを消し去っていく。
 しかし、炎の魔王の星の灼熱の暑さにさすがの氷の魔王も力を奪われていた。
エレナの体にも限界がある。自分の魔力でエレナの体の熱を冷まして体温を
保っているが、この炎の中でいつまでこの肉体がもつかわからない。苦痛の表情を
浮かべる氷の魔王は自身のことよりそれを心配していた。普通の人間の体ならこの
星に降りた途端に消滅していただろう。炎に多少たりとも耐えられるエレナの竜族の
血に感謝するしかない。そして、短時間で勝負を決め、この星を脱出しなくてはいけ
ない。
〔炎が氷を溶かすのが先か、氷が炎を消し去るのが先か──〕
 それすらも楽しそうに氷の魔王は唇の端を持ち上げる。




 しばらく歩き、氷の魔王が辺りの空気の変化に気付き立ち止まった。
 マグマの中から勢いよく炎が燃え上がり、覆い被さるように氷の魔王に襲いかかる。
 氷の魔王は手に氷の剣を作り出すと振り上げた。炎と吹雪が衝突し、蒸気と
なり、シューッと音をたてて辺りが真っ白に染まる。
 その先にあるものを氷の魔王は見た。炎の台座の上に置かれた赤き球体。
その中で眠る魂を──。炎の中で2つの黄色い瞳がギラリと輝く。
 自分と対極の力を持つ炎の魔王の魂だ。
〔……久しブリだな〕
 再会の言葉を一言で終わらせ、ようやく獲物を見つけた氷の魔王は、手に持つ剣に
力を込めた。吹き付ける熱風をもろともせず、氷の魔王は黄色い瞳めがけて一直線に
走り出す。
 両端のマグマが炎となり氷の魔王に襲いかかる。
 氷の魔王は周りの炎など一瞥もくれずに炎の魔王の魂めがけて走る。
 地獄の業火が氷の魔王を襲う。
 炎の燃え上がる音がまるで狂った笑い声のように辺りに響く。
 すべてを焼き尽くす炎が体を襲い、熱さを通り越した痛みが全身に走る。一瞬、
心が死の恐怖に震えたような気がしたが、今更、そんなことを考えたってしょうがない。
 視界が真っ赤に染まり、息をすることも出来ない。
 それでも氷の魔王は足を止めなかった。

〔この炎さえ越えられればッ!〕

 この体の持ち主は、「炎の魔王を倒す」と言った。その気持ちに氷の魔王は全てを
賭けたのだ。
 地面を蹴り、上空へ飛び、自ら炎の中に突っ込む。
 そして、
 氷の魔王は炎を抜けた。
 眼下にあるのは炎の魔王の魂。
 まさか、攻撃が届くとは思っていなかったのだろう。炎の魔王の黄色い目が驚きと
恐怖に変わるのを見て、氷の魔王は口元に笑みを浮かべた。

 氷の剣を赤き球体へと突きつける。

 ピシッ

 氷の剣が炎を止めた。
 一気に温度が下がり、辺りのマグマが岩へと変わっていく。
〔残念だったな……〕
 台座で小さくゆらめく炎に氷の魔王が呟く。
〔この娘は面白い物を持っていた。火ネズミのマントだ。どこまでお前の炎に
 耐えられるか心配だったが、4着分使いきり、お前の元に辿り着けた。
 そして、この娘は人の姿をしているものの、竜族。 余と竜の力、お前を封印
 し直すには十分すぎたな〕
 氷の魔王は剣を引き抜いた。
 しかし、氷の魔王にも悔いが残る。エレナの体を借りて炎の魔王を鎮めたことに。
出来ることなら自分の力だけで勝ちたかった。だが、再び炎の魔王との勝負を
実現させてくれたのはエレナだ。氷の魔王はそう割り切ると辺りを見回した。
 焼け野原、黒き大地、炎はどこにも見当たらない。

 炎の魔王の星が落ち着きを取り戻していく。


 氷の魔王は何の未練もなくさっさと星を脱出した。
 遠ざかっていく炎の魔王の星は、今では燃え尽きたような灰色をしている。


〔ふっふっふ。余の勝ちだ〕
 氷の魔王は闇の世界を飛びながら笑った。
 後はこの闇の世界を脱出するのみ。

 心の奥底で1人の少女が今も抵抗を続けているが、氷の魔王の支配から
今だ逃れられないでいた。






  



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