第14話  魔王魔王魔王様と、女神の策略
─ そ の 5 ─




「魔王様、どうしようッ! エレナ様の体、すっごく冷たいんですッ!」
「ボクが魔法をかけるッ!」

 マジックハンドで空王丸に引き寄せられたエレナは気を失っていた。
 空王丸のデッキに横たわる彼女の顔は真っ青で呼吸は弱々しい。氷の魔王を
その体に今まで宿していたのだ。当然の代償かもしれない。
「くっそー! なんで俺様がナルシアちゃん以外の奴のために動かなくちゃ
 ならねーんだ!」
 そう言いつつガミガミ魔王は、船内のデフロボたちにデッキに備え付けられた
マイクで怒鳴った。
「おい、お前ら! 俺様の部屋から毛布持ってこいッ! それから熱湯もだッ!」
 ラリスが回復魔法をかけ、リリスの介抱が労をそうして、エレナの顔色は次第に
良くなっていった。


「う……ん、ここは?」
 しばらくして、エレナはゆっくりと目を開けた。
「ねーちゃん!」
「エレナ様ッ!」
 ラリスとリリスが心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。
 エレナは頭をぼんやりさせながらも今の状態を考えた。ここはどこなのだろう。
自分は確か氷の魔王の星へ行って、氷の魔王の魂と勝負をして……その先を
思い出そうとしても、それきりの記憶がなかった。
 だが……。
「エレナ様〜! よかった、本当によかったぁ〜」
 リリスに泣きつかれる。ラリスがニッと笑い、イライラしているガミガミ魔王がエレナ
に背中を向ける。
 そして、静寂を取り戻した闇の世界を見渡す。それを見て、どういう状況な
のか理解し、彼女は安堵の胸をなでおろした。
「静かになったわね、闇の世界……」
「エレナ様のおかげです。私たちに残された時間も延ばされましたし……」
「え……?」
 まだ意識が朦朧としている。でも、今、リリスは何て……?



 パチパチ パチパチ ……



 エレナの思考は聞こえてきた拍手によって遮られた。

「ありがとう、エレナ姫。全て私の計画通りよ」

「あなたは……!」
 エレナが目を見開ける。
 目の前に優雅に立つ美の女神マイラは目を細めてエレナをあざ笑った。
 マイラの後ろには、ズール、ボクシー、ゴーク、ガープが従えている。
「マイラ……!!」
 慌ててエレナはラリスとリリスを守るように立ち上がった。しかし、力が出
ない。足がガクガクする。それをこらえてキッとマイラを見つめる。
「あらあら、そんなに怖い顔をしないで」
「何故あなたがここにいるの!? 炎の魔王も氷の魔王も元の場所に封印され
 たわ。闇の世界の均衡が保たれたんじゃないの!? あなたたちもおとなしく
 星に封印されているんじゃ……」
 エレナは立っているのもやっとだった。氷の魔王の件で体がまだ言うことを
聞いてくれない。胃の中が重く、苦しい。
 マイラはエレナに近づくと、手を伸ばし、そっとその頬に触れた。

「炎の魔王と氷の魔王を封印してくれてありがとう。私が復活する
 ためには2人が邪魔だったのよ」

「なっ……!?」
「そう。確かに、闇の世界で一番凶悪だった炎の魔王の魂を鎮めたおかげで
 『再生力』を使う時期を遅らせることは出来た。2人の寿命は少し延びたけど、
 それでも闇の世界の崩壊は進みつづけている。あなたが今、私を封印したと
 しても次から次へと闇の世界に眠る魂は目覚め始めるわ。
 この世界は、『再生力』をもってしか滅びの道を止められないのよ」
「……そん……な」
 顔を強張らせるエレナを見てマイラはうっとりと笑う。
 マイラの後ろでズールが紳士的に胸に手をあて、おじぎをした。
「マイラ様の手を汚すわけにはいかないゲス。私たちがエレナの始末をする
 ゲスよ」
「いいのよ、私がやるわ」
「この世界を……出るつもりなの?」
 恐る恐る尋ねるエレナ。
「えぇ、再び美の女神の座に君臨するわッ! 私の夢は終わっていないのよ!」
「同じ悲劇を繰り返さないで!」



ドスッ



 エレナは目を見開けた。
 脇腹を襲う鈍い衝撃。
「ねーちゃん!」
「エレナ様ッ!!」
 駆け寄ろうとするラリス、リリス、そしてガミガミ魔王の前にズールたちが
立ちふさがる。
「信じてたのに……」
 エレナは自分の腹部に刺さった短剣を見、それからマイラを見た。
「ごめんなさいね、エレナ姫。あなたにはここで死んでもらうわ」
 体から短剣が抜かれる。服が赤く染まり、血が一滴、また一滴とデッキの
床へと落ちる。胃の中にたまった血をエレナは吐き出した。
「信じてた……の……に……」
 エレナは本当に辛そうにそう言い、その場に膝をついた。
 目の前がかすんでいく。
 自分を呼ぶラリスとリリスの声が遠ざかっていく。
 エレナは息もたえだえにマイラを見上げた。
 マイラはそんなエレナを見て冷たく笑った。
「さようなら、エレナ姫。闇の世界で眠りなさい」
「あなたの誰かを、思う、気持ち……まだ、あなたの中にある……ので、しょ
 う? 私は……あなた……を、信じ……」


 エレナはその場に崩れ落ちた。





  



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