第15話  天空城、過去・現在・そして未来へ
─ そ の 1 ─






  ・・・〜〜♪
 音楽が聴こえる……


 それに導かれるかのようにエレナは目を開けた。
 見渡す限り、真黒な世界。
 上も下も右も左もどこまでも闇が続くばかり……。
 しかし、エレナにはここが闇の世界とは全く別の空間ということはわかった。
次元を通り越した場所、というべきか。冷たいイメージしかない「闇」の場所に
反して、今居るこの場所はずっと身を委ねていたいと思える心地の良いところ
だった。
 フワリ
 目の前を小さな銀色の光が飛ぶ。その光は吸い込まれるようにエレナに触れ、
そして消えた。
 エレナは自分の体を見つめた。かすかに光っているのだ。
「私、どうしたのかしら。確かマイラに短剣で刺されて……」
 刺されて、意識を失った。その腹部に全く痛みはない。
 エレナはずっと聞こえている音楽にはっと息を飲んだ。
 
 一度聴いたら忘れられない。
 ポポロクロイス城で、知恵の王冠を前にラリスとリリスが奏でた曲。
 空王丸のデッキでバファンが奏でていた曲。
 曲名は──「楽園」。

「そう、『再生力』ッ!!」
 直感的にわかる。この曲は……ラリスとリリスが弾いているのだ。
 エレナは不安にかられ辺りを見回した。
「ラリス、リリス!? どこにいるのッ?」
「ボクたちはここにいるよ」
 ポツリと、そこにはラリスとリリスが立っていた。2人は笑っていた。強い瞳で、
悲しそうに笑う。

「ねーちゃん、ここでお別れだよ」
「私たちは、私たちの使命を果たします」
 
 マイラは言っていた「闇の世界の破滅は『再生力』を持ってしか止められない」と。
「……」
 言葉の出ないエレナに対して、ラリスはため息をつくと、頭をかいた。
「まったく、最後の最後で仕事を増やさないでくれよな」
「エレナ様のお体は私たちが光の意思デュオンの力で元通りにしましたから
 もう大丈夫です」
「……え?」
 エレナを包む優しい光は、まさしく光の意思デュオンの力。

 この曲は……、
「私の、ために……弾いてくれているの?」
 
「ボクたちにもう時間は残っていない。これから闇の世界を再生させる」
「エレナ様、どうか私たちを止めないでください。今日、この時のために
 私たちは生まれてきたんですから。ようやく私たちは自由になれるんです」
「自由になって、ボクたちは楽園を探しに行く」
 エレナはこの時ばかりは本当に恨んだ。変えられない「運命」に。
 2人の体は透明になり、今にも消えようとしている。
 ラリスとリリスは最高の笑顔をエレナに向けた。

「「さようなら」」

 まばゆひ光がエレナの視界を遮る。 たえられず、エレナは目を閉じた。







 先ほどまでの、夢の中のような宙に浮いた感覚とは違う。目覚めた瞬間、
体を引っ張られるような重さを感じた。
 エレナがいたのは、ベットの上だった。
 辺りを見回す。ここは空王丸内ではない。冷たい印象を受けるとてもシンプ
ルで何もない石造りの白い部屋。全く見覚えのない場所。
「どこなの、ここ……?」
「ダーナ神殿だ。詳しく言えば、ここは医務室か」
 その少し懐かしい声にエレナは涙が出そうになるのをこらえ、振り返った。
「バファン!! あなた無事だったのね!」
「当ったり前だ。あれくらいでオレは死にはしないさ」
 隣のベットに座り、エレナを見守っていたバファンが笑った。
 別れた時は瀕死の状態だった彼だったが、元気に回復していてエレナは
本当に安心した。ダーナの雷の後遺症も何もなさそうだ。「彼は大丈夫よ」、と
マイラが言っていたことを思い出す。あれは本当だったのだ。しかし、マイラには
後で裏切られてしまったけれど……。
 たくさんのベットの並ぶ部屋にはこの2人しかいない。エレナは自分の体を
しっかりと確認した。致命傷だったはずの腹部には傷跡1つない。
 やがてエレナはバファンに視線を戻した。
「ねぇ、マイラは!? 地上に出てしまったの?」
「あの人は、一体何がしたかったんだろーな」
 訳がわからないという感じで肩をすくめたバファンが天井を仰ぐ。
「あんたを刺した後、大人しく自分の星に帰ってったそうだ」
「え? (ーー;)」
 思わず眉をひそめたエレナ。
 地上に戻り、再び美の女神の座に君臨するとかどうとか言っていたが……、
大人しく自分の星に帰ったとは、じゃあエレナに対してのあの行動は一体何
だったのか。エレナはマイラが自分にしたことがまだ信じられなかった。信じ
られないのだ、今でもマイラのことを「信じている」から。
 バファンの声にエレナの思考は途切れた。
「闇の世界は不安定なままだが、どの魂もまだ復活しちゃいない。
 それからエレナ姫、オレがここで治療中に他の兵士から聞いたんだが、あの
 炎の魔王の魂を鎮めたそうだな。警備にあたっていた兵士たちが、お前の
 色仕掛け攻撃に合い、何人もここに運ばれて来た……ぐはっ、
 何すんだよ!?」
「覚えていないけど、なんかムカついたから」
 手近にあった枕を投げたエレナはパンパンと自分の手を払う。

 そして、耳を澄ます。

 かすかに聴こえてくるのは、パイプオルガンの音色


 ラリスとリリスが「楽園」を弾いているのだ。
 自分たちの命と引き換えに、闇の世界を元に戻すために。
           今度こそ、2人は命を落とすことになる──。


「行かなくちゃ!」
 エレナはベットから飛び降りた。慌ててバファンが彼女の手を掴んだ。
「放してちょうだい! 2人は私のために『再生力』を使ってくれた! 
 2人を助けてあげたいのに、逆に助けられるなんて。だから私……」
 キッとエレナに睨まれたバファンだったが、バファンも真正面からその瞳を
睨み返した。
「もう手遅れだ。あんたはやれることをやったよ。誰も責めやしないんだから。
 それに……助けられたその命、ムダにするようなことはこれ
 以上するな」
 バファンの手を振り払い、エレナは声を荒げて言った。
「手遅れなんかじゃないッ!! 星星の封印が
 解けるなら、また1つ1つ封印し直せばいい! 私がやるわよ!!
 2人の元へ私は行くわ!!」
 その言葉に、やれやれとバファンが肩をすくめる。
「ラリスとリリスの演奏が終わるまであんたをベットに縛り付けておけというのが
 ダーナの命令だったが、今更命令を聞くつもりはさらさらない」
 意地悪そうに、ニッと笑う。
 エレナはうなづいた。
「行きましょう!」
 エレナとバファンは部屋を飛び出した。


 廊下では、予想通り、ダーナの兵士たちが2人の行く手を阻むように待ち
構えていた。
 エレナは迷わず剣を抜いた。
「お願いだから邪魔しないでッ! かーぜーのー・・・・・・刃ッ!!」
 エレナの起こした激しい風に、ダーナの兵士たちが両脇に吹き飛ばされ、
一直線に道が開いた。その威力に兵士たちは再び起き上がってくる気配は
ない。
 剣に手をかけ応戦しようとしていたバファンだったが、エレナの攻撃力に
自分の出番はないな、と口笛を吹いてみせた。エレナがバファンを睨む。
「なにしてるのよ。さ、行きましょう」

 エレナとバファンは謁見の間に続く廊下を走り出した。






  



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