「やめて、父さん! ボクたち、全然後悔してないから!」
「スミレは悪くない! 悪いのは私たちのほうでしょう!」
ラリスとリリスがスミレを蹴り続けるボリスの足に抱きつき、その動作をやめさせた。
「何でお前なんだ……」
スミレを睨みつけるその声が震えている。
「何でお前なんだッ!!」
ボリスの大声に、リリスがこらえていた涙をポロポロと流し始める。ラリスが声を上げて
泣き出す。ボリスは泣きじゃくる2人に背を向けて、自分も肩を震わせ声を押し殺して
泣いた。
運命はもう止まらない。
その後、ボリスは大臣に命令し、ラリスとリリスを自室へ連れて行かせた。
謁見の間に残ったのはボリスとスミレのみ。
スミレは黙っていて何も言わなかった。
「生きろよ……。これは『約束』だ」
ボリスは呟き、スミレを見下ろす。
「2人にもらったその命、絶対に無駄にするなよ。お前は何が何でも
生き抜けッ!! そうじゃないと私の気が……おさまらない」
せめて2人がもう少し大きくなるまでは、自分の手で育てたかった。でも、それは
もう無理だろう。闇の世界のことに使わなければならない「力」を別のことに使った
のだ。今後、また今のように感情的に「力」を使ってしまう恐れがある。それでラリスと
リリスの命が尽きてしまえば、世界はオシマイだ。それをさせないためにも、ダーナ
は2人の引渡しを必ず要求してくるはずだ。従わなければならないだろう……。
その夜、ボリスはポポロクロイスのピエトロ王宛に手紙を書いた。彼なら信用できる。
こちらの事情を深く話さなくても、しばらくの間ならラリスとリリスを守ってくれるだろう。
ラリスとリリスは、スミレことダーナの兵士と共に闇の世界のダーナ神殿に向かう
ことになる。その前に、2人に世界を見せてやろう。自分たちが守る世界を──。
そして、物語は「プロローグ」へと続く。