第 1 6 話 「 楽 園 の 君 へ 」
─ そ の 2 ─
「ガミガミミサーーーイル!!!」
ドーーーーーーーンッ
「帰らない」というエレナの言葉にキレたガミガミ魔王が、エレナに向かって
いきなりミサイルを発射した。ラリスとリリスをミサイルからかばうように座り込み、
彼の攻撃を防いだエレナはガミガミ魔王を睨んだ。
「ちょっと、なにするのよ!」
「うっるさーーーーいッ!! とっとと帰り支度をしろ! 俺様は、早く
ナルシアちゃんの待っている世界に帰りたいんだ!!」
足を踏み鳴らし、エレナの態度に抗議するガミガミ魔王。しんみりとした空気が
全く台無しである。
「だったら、あなた1人で帰ればいいでしょう!」
「……変わったな、お前」
「……ッ」
冷たい目で睨むガミガミ魔王にポツリと言われ、エレナは黙った。
「とにかく! 優しい俺様はあともうちょっとだけ待ってやる。帰るぞ」
バファンもバファンでやれやれと肩をすくめ、小さな子供に言い聞かせるように
エレナに言った。
「エレナ姫。ラリスとリリスは誰のために『再生力』を使ったと思ってるんだ。
あんたに帰らないなんてワガママ言わせるためじゃない。あんたも地上で
待ってる人がいるんだろ」
そうバファンに言われ、エレナは落ち着こうと努力した。目の前の変えられ
ない現実にショックで口走ってしまったが、エレナには確かに地上で待って
くれている人たちがいる。たくさんの人の顔がエレナの脳裏に浮かぶ。
「……そうね。生きなくちゃいけないのよね」
「ほら、立てるか?」
差し出される手。エレナはバファンの手を取り、立ち上がった。
その手を握った瞬間だった。
「 「 !! 」 」
エレナとバファンが一瞬のうちに見たのは「一筋の光」。
「……何、今の?」
「わからない」
突然のことにエレナとバファンが辺りを見回す。周りには何も変化はない。しかし、
今、2人に光が見えたのだ。小さな、まるで未来を灯すような小さな光が。
「行かなくちゃ、私!!」
エレナは思わず叫んでいた。
不審そうに眉をひそめるガミガミ魔王。
「帰らないと言ってみたり、行くと言ってみたり、どっちなんだよ」
エレナは、バファンを見た。
ふと、何かを思う。
バファンの目を見つめ、うなづく。
「そうだわ!! 光の意思デュオンの力よッ!!」
バファンの手をエレナは取った。
久しブリに見るエレナの笑顔に一瞬ドキリとするバファン。
「そう、美の女神マイラは、ここまで見越していたんだわ……。
バファン、あなたは空王丸でラリスとリリスに残された寿命は闇の世界を再生
させる分しか残っていないと言ったわよね」
「あ……あぁ」
「マイラは、ラリスとリリスを助けたいという私に対して、炎の魔王を鎮めるように
提案した。炎の魔王を鎮めて、ラリスとリリスの寿命を引き伸ばし、その寿命で、
死ぬ寸前だった私に対して2人に『再生力』を使わせた……。全部、マイラの
作戦だったんだわ!」
エレナは1人で納得しながら、広間全体に響くように言った。
「私とバファンとで『再生力』を使うのよ!! 『楽園』を演奏するのッ!」
「なッ……!?」
そこにいた全員が絶句、目を点にしてエレナの無謀な発言に耳を疑った。
1番驚いているのは、名前の挙げられたバファンだ。とんでもない!と言わん
ばかりに後退る。
「待てよ! オレにそんな力があるわけ……ない・・・・……」
それが、だんだん自信のない口調になるバファン。自分の手を見つめ、何かを
考える。そして、弱々しく頷いた。
「いや、もしかしたら、あるかも!」
「私の中に『再生力』を使うための光の意思デュオンの力はある。ラリスとリリスが
私にくれたもの。そして、バファンの中にもあるのよ。さっき私たちに見えた光が
それよ!」
「オレの中にも……」
「そうよ、私は再生力のおかげで命を助けられた。あなたもなんでしょう?
ス・ミ・レ・ちゃん!」
「う゛……その名前でオレを呼ぶなって」
顔を真っ赤にして照れるバファンに笑いながらエレナは確信してうなづいた。
「私とバファンとであのメロディーを奏でるの。『楽園』を! きっと2人を助けること
が出来るわ!」
マイラはバファンのことを「切り札」だと言っていた。それが意味するもの、バファ
ンの中にもラリスとリリスからもらった光の意思デュオンの力があり、もしかしたら彼に
も奇跡を起こす力があるかもしれない、ということ。
もちろん、出来ないかもしれない。
でも、やってみなくちゃ始まらないし、終われない!!
エレナがダーナを見上げる。
「そうでしょう、ダーナ様?」
ダーナは閉じた瞳の奥で何かを考えているようだったが、しばらくして静かに口を
開いた。
「再生力を使うには、それなりの『代償』が必要だということを忘れては
いないだろうな」
『代償』、その言葉にエレナは唇を噛み締め、そしてうなづいた。
「はい、覚悟は出来てます」
「オレもだ」
そんなやり取りを、広間の隅で眺めていた永遠の番人は始めはキョトンとしていた
が、全てを理解したようにうなづき、ニッコリ微笑んだ。
「な〜るほど、そういうことね、ダーナ様。 ウサギさん、よかったらウチのオーケスト
ラを演出に貸してあげるわ。最後だし、派手にいきましょう★」
「え?」
エレナが振り返る。永遠の番人がさっと手を振ると……広間に現われたのは100人
を越えるネコさんオーケストラ&指揮者のドン・マエストロ。やる気満々、それぞれ
楽器を片手にエレナたちに笑いかける。
エレナは夢で見た試練のことを思い出していた。ダカート号の自室で居眠りをした
時に見た7回目の夢。ネコさんオーケストラを指揮するバニーガール・エレナに怒る
ドン・マエストロ。その時にあった楽譜を思い出していた。
──タイトルに「楽園」とあったことを思い出す。
最初から、こうやって奏でることが宿命付けられていたんだなと今更ながらそう思う。
「ドン・マエストロさん、楽譜を見せてちょうだい」
「ヘイ、ボスッ!」
ドン・マエストロから楽譜を受け取る。物凄い勢いでどんどん広間がオーケストラ会場
に変わっていく様を見つめながらバファンが心配そうにエレナに声を掛ける。
「エレナ姫、あんた弾けるのかよ?」
「大丈夫よ。自分で言うのもなんだけど、私のオカリナの腕前は大したものなんだから。
あなたこそ、とちらないでよ」
楽譜を目で追いながらサラリと答える。それでも心配そうなバファンの背に、永遠の
番人が声を掛けた。
「少しぐらい間違えたって、ま、大丈夫なんじゃない? 光の意思デュオンがきっとあなた
たちをラリスとリリスの元へ導いてくれるわ」
「おい、エレナ」
ガミガミ魔王がエレナの前に立つ。ガミガミ魔王は彼女のトランクを差し出した。ずっと
預かっていてくれたのだろう。
「まったく、とっとと終わらせろよ。俺様は1秒でも早くここから出たいんだ」
「ありがとう、ガミガミ魔王さん」
エレナはトランクを受け取った。
床に置き、開ける。手にしたのは、兄のオカリナ。
「にいさま……」
一瞬、心が揺れたがエレナはしっかりとオカリナを握り締めた。バファンも自分の横笛を
取り出す。空王丸のデッキで彼はこの笛を吹いていた。ダーナからもらったものだと彼は
言っていた。彼も今、自分と同じ気持ちなのかもしれない、とエレナは思う。
コンコンッ
ドン・マエストロが譜台を叩く。
・・・〜〜♪
エレナのオカリナと、バファンの笛の澄んだ音色が広間に響く。
ラリスとリリスの側に立ち、エレナたちは演奏を始めた。