ここは、どこともわからぬ大ホール。
後ろに100人を越える猫たちのオーケストラを従え、ウサギの指揮者は
客席に向けて一礼する。静まり返る満員の客席。
頭を起こすとウサギはオーケストラに向き直った。
トントンッ
指揮棒で譜面台を叩き、オーケストラの猫たちがそれぞれに楽器を構える。
「コホンッ」
ウサギは咳払いすると、指揮棒を魔法の杖のようにかろやかに振り始めた。
ぶんちゃー♪
ずんちゃっちゃー♪
ずっちゃっちゃ♪ ちゃー♪
ぱふっ♪
「ふっ、決まったわね」
指揮棒を振るのをやめ、ウサギは勝ち誇ったように笑う。
そして、180度方向を変えると、
カメラ目線でウインク。
「『ポポロクロイス 楽園の君へ』 はじまりはじまり〜〜〜!!
みなさん、最後まで読んでね」
盛り上がるウサギと猫さんオーケストラ&客席(総立ち)。
「さてと、次の曲はと・・・・・・」
ウサギは楽譜の次のページをめくった。音符の並ぶ楽譜の上に書いてある
曲名に目を留める。その曲の名は──交響詩「楽園」。
「えぇい! 待て待て待てぃ!
そこのバニーガールッ!!!」
その声にウサギことバニーガールの少女は振り返る。
舞台の端から大股で歩いて登場してきたのは手足の生えた大きな魚。魚は
紳士的に胸に手を当て言い放つ。
「え〜、読者の皆様、勘違いされちゃ困りますが、私こそがこのオーケストラの
指揮者ドン・マエストロ。私のオーケストラで演奏し、この物語を始めようとして
いるバニーガールよ、お主は一体何者ぞ?」
「そうねぇ・・・・・・」
ウサギの少女は待ってましたとばかりに腰に装備する細身の剣を引き抜いた。
「あなたが
ドンなら、私は
ボスよ! さぁ、刺身にされたくなかったら道を
お開けなさい、お・さ・か・な・さ・ん! 私は急いでいるのよ!」
パチパチパチ・・・・・・
客席から小さな拍手が起こった。少女とドン・マエストロは振り返る。
客席から拍手を送るのは1人のエプロンドレスの少女。
「アリス・・・・・・」
ウサギの少女が呟き、エプロンドレスの少女・アリスを睨む。アリスは笑い、
奇妙なことを口にした。
「ボスーーー! こんなところで寝てると風邪ひきやすぜ?」