第1話 ウッキィ帝国、舞い降りた天使たち
─ その 1 ─


「ボスーーー! こんなところで寝てると風邪ひきやすぜ?」

 エレナは目を覚ました。
 新・ダカート号、エレナの自室の机で、彼女はどうやらうたた寝をしてしまっ
たらしい。
 モンバが心配そうにエレナの顔を覗き込む。
「やだ、私ってば寝ちゃってたわ」
 右頬に机の木目の後がくっきりとついてしまっている。エレナはため息をついた。
「ボス・・・・・・またその、『アリス』とかいうヤツが出てくる夢ですかい?」
 モンバにそう言われ、エレナはエプロンドレスの少女を思い出す。そして、自分が
その夢の中でいつもバニーガールの姿なのに腹が立ち、ドンッと机を叩いた。
「えぇ、これで7日連続よ。なんなのかしら、あの夢!!」
「船を降りる前に一度ランバートに診てもらったほうがいいんじゃないッスか?」
「大丈夫よ。別に具合が悪いってワケじゃないもの。
 それよりモンバ、私を呼びに来てくれたってことは、パーセラに着いたのかしら?」
 モンバはうなづき、窓の外を指差した。かすかに陸地が見えている。
「この大型船じゃパーセラの港に入れないんで、今、小船を用意してるッス」
「そう、ありがとう」
 エレナは荷物の入ったトランクを持ち、部屋を見渡し忘れ物がないか確認する
と甲板に出た。
 甲板には船長のドノバンを始め、ダカート号のメンバー全員がエレナの見送り
に出てきていた。
「みんな。私は船を降りるけど、ちゃんと航海を続けるのよ」
「ヘイ。しかし、我らの女神が船を降りるとは・・・・・・」
 まだ納得しきれていないドノバン。エレナは小船にグーリーの手を借りて
乗り移ろうとしていたが足を止め、ドノバンを振り返った。
「しょーがないでしょ。にいさまからの呼び出しなんだから!」


 ──それは、時を遡ること1週間前。
 伝説とうたわれる『バファンの剣』を探す航海の最中だったエレナたちの前に
ルナの使いであるという海の妖精がエレナに1通の手紙を持ってきたのだ。
 その手紙は兄のピエトロからであり、すぐにポポロクロイスへ帰還するように
と書かれていた。用件などは特に何も書かれておらず、どうしても1ヶ月間程
城に帰ってきて欲しいという内容だった。
 バファンの剣をめぐる大事な航海の最中だというのに・・・・・・エレナは迷ったが
兄の手紙に逆らうことが出来ず、了承したのだ。


「1ヶ月だけよ。ドノバン、モンバ、私がいない間、船のこと任せたわよ」
「「アイアイサー!」」
 2人の元気な声に安心し、エレナは小船へと乗り込んだ。
「ボス、1ヶ月後の待ち合わせ場所はどうしましょう? またパーセラに船を
 つければよろしいですか?」
 地図を片手に航海士のカーティスがエレナに尋ねる。
「そうねぇ・・・・・・」
 エレナは一瞬考えたが、軽く頷いた。
「クロコネシアで合流しましょう。必ず行くから待っててちょうだい」
「わかりました。お気をつけて」
「ボスボスボスボスボスーーーー!!」
 カーティスとの会話が終わり、エレナに話し掛けてきたのはアイナだった。
「ボスー。マルコに会うでしょ? 会うでしょ? 会ったら『アイナは元気に
 してる』って伝えてね!」
「アイアイサー!」
 エレナは軽く手を上げるとアイナに向かって笑った。
「じゃ、みんな、行って来るわね」
「あ、ボス。忘れ物ッスよ〜〜〜!!」
 船を離れようとするエレナにモンバが紙袋を放り投げた。
「ありがとう!」
 船のみんなが手を振り続ける中、エレナは小船をパーセラの港へと進めた。


 パーセラ港。小船を桟橋へと寄せる。
 たくさんの人々の行き交う街、魚市場があったり、商人が武器や薬草を売って
いたり・・・・・・それよりなにより、ここはエレナがフライヤーヨットで初めて海へ
出た場所でもあった。久しぶりの町にうれしくなる。
「お久しブリです。エレナ姫」
「お荷物をお持ち致します」
 差し延べられた手。
「ドン将軍! ゴン将軍!」
 2人の将軍の出迎え。エレナは2人の手を取り、小船から降りた。
「お元気そうでなによりです」
 エレナに頭を下げるドンとゴン。エレナは「そんなにかしこまらないで」と
2人に笑う。
「それで、私を呼び出しておいてにいさまってば何の用事なの?」
 まずはその理由を聞きたい。
「さ、お城へ行きましょう」
 ポポロクロイス方面へ歩き出すエレナをゴン将軍は呼び止めた。
「いえいえ、エレナ姫。先にこちらに行くんですよ」
「馬を用意してありますので」
 ・・・・・・と、2人の将軍が指差すのはロマーナ王国方面。城とは全く逆の方向
だ。
「なんで (ーー;) ?」
「それが最近、パーセラ・ロマーナ間の鉄道でまたまたまたまたサルたちが
 悪さをするようになったんですよ」
「今も線路に岩を置かれて通行止めになってるんです」
 2人の言葉にムッとするエレナ。
「わ、私にサル退治をしろ・・・・・・と?」
「我々もいます。ガーンッ!と頑張りましょう!」
「私は今、船から降りたところなのよ。船旅で疲れているの」
 と言っても、ついさっきまで寝ていたんですけどね。
「しかし、ピエトロ王のご命令ですから」
「〜〜〜ッ! んもう、にいさまったら! 行けばいいんでしょ!
 エレナは青い空に向かってそう叫ぶと、ドンとゴンを従え大股で鉄道へと向かった。



  


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