第1話 ウッキィ帝国、舞い降りた天使たち
─ その 2 ─



 エレナたちが線路に沿ってしばらく馬を走らせていると、平原の真中で列車が
立ち往生しているのが見えてきた。
 線路に巨大な岩が置かれ、進路を邪魔している。車掌や機関士に運転手、
それに乗客まで出てきて、総動員で梃子を使って岩をどかそうとしている最中
だった。なかなか岩は動かない。
「ひどいことするわね」
 馬を止め、人々の様子を遠くから見つめるエレナ。
「最近はおとなしかったんですけどね・・・・・・」
「いいわ、乗り込んで成敗してあげる。さっさと片付けましょう」
 エレナ、ドン、ゴンが西方にそびえる岩山を見上げる。サルたちが住処としている
山だ。

 エレナたちは真正面からウッキィ帝国へ乗り込んだ。ツカツカと山道を登って
いく。たくさんのサルたちが木々の陰からエレナたちを見ているが手を出そうとは
しなかった。
 そんなサルたち仕草に苛立ちを覚えながら、エレナたちは洞穴にたどりついた。
その奥ではモヒカンヘッドの大ザルがバナナを食べながら待ち構えていた。
 エレナはサルの前に立つ。
「ウキ、ウキャキャキャ!」
 サルはエレナに向かって吼えた。口の中に入れていたバナナが地面へ飛ぶ。
「あなたがここのボスね?」
 エレナは冷静にサルを見据える。
「ウキャ」
「イタズラするのをやめてくれるかしら?」
「ウキ−、ウキキ、ウッキ」
「みんな迷惑してるのよ」
「ウキャ、ウキャキャ、キャッキャッ!」
「・・・・・・あ、あの〜、エレナ姫?」
 申し訳なさそうにドンがエレナとボスザルの会話に入り込む。
「なに、ドン将軍?」
「エレナ姫はサルの言葉がおわかりで?」
「え?」
 エレナはボスザルを見つめた。目が合う。そして、ドン将軍を振り返る。
「まさか。何を言ってるのかサッパリ!
 ガクッ とコケるドンとゴン。
「でも、まぁ、わかったわ」
 スラリとエレナは腰の剣を抜く。薄暗い洞窟の中で細身の剣がキラリと輝く。
エレナの殺気を感じ、ボスザルの周りにたくさんのサルたちが集まり身構える。
「私たちが勝ったら、人間へ悪さをするのをやめてくれる?」
 エレナの言葉にドンとゴンは顔を見合わせ重いため息をついた。
「私たちだって、ゴン」
たち・・・・・・そりゃ私たちも戦闘の頭数に入っているということでしょう」
「やるしかないようだな」
 ドンとゴンも剣を抜く。
 エレナを先頭にゴンとドンが剣を構えてサルたちに向かって走り出す。
「ウッキィ−ーー!」
 サルたちもボスザルの合図と共に一斉にエレナたちに襲い掛かった。木刀を振り回すサルに、
石を投げてくるサル、バナナの皮を地面にバラまくサル・・・・・・多勢に無勢か、エレナたちは
予想以上に苦戦をしいられることになった。全力で挑んでくるサルたちに対し、わざと剣の
柄でサルたちに致命傷を与えないように戦うエレナたち。
 エレナはサルたちの後方で指揮を取っているボスザルに的をしぼった。
 ボスザルを降参させれば勝負は決まる。
「二人ともさがってちょうだい! 風の刃ッ!
 エレナは技を繰り出した。ドンとゴンがあわててそれをよける。サルたちが風で
壁際まで飛ばされる。
 ボスザルは風の刃を紙一重のところでかわしていた。素早さならエレナに負けは
しないだろう。
 エレナはドンとゴンを呼んだ。
「こうなったら三人技で決めるわよ!」
「「は、はいッ!」」
 エレナは剣を頭上にかかげ叫んだ。
「ホーリーバーストッ!!」
 エレナの声と同時に現われた光弾がサルたちを襲う。逃げまとうサルたち。
「さぁ、降参するなら今よ」
 強気な笑顔でそう言ったエレナは、洞穴の天井がグラリと揺れるのを見た。
「地盤がゆるんでる。くずれるわ!」
 そう叫んだのと同時にエレナたちの頭上に岩が降って来た。
 逃げる時間も、防御するものもない、エレナはギュッと目を閉じた。

「ディフェンスレイズ!」
 エレナやサルたちが光のシールドに覆われ、
「でやぁッ!!」
 その声と同時に落ちて来た巨大な岩が粉々に砕け散り、エレナたちの上に雨の
ように降り注いだ。

「・・・・・・何が起きたの?」
 エレナたちもサルたちも、全員が動けなかった。
 巻き起こった砂埃が視界を遮る。やがて砂埃がなくなり、辺りの様子が見えてくる。
 エレナの目の前に立っていたのは2人の子供だった。

「うーん、間一髪だったな」
 2人の子供のうちの1人──年のころはエレナの甥のピノンとそんなに変わらないだろう、
栗色のショートカットの髪に同じ色の瞳、キレイな空色のローブを羽織った男の子──が、
先端に赤い水晶のついた魔法の杖をクルクルと回しながらエレナたちに向かって二ッと笑う。
「みなさん、お怪我はありませんか?」
 2人の子供のうちのもう1人──栗色のツインテールの髪、同じ色の瞳、色白の肌に淡い
ピンクのレースのついたブラウスにヒラヒラ揺れるスカートをはいた女の子──が、スカートの
ほこりを払いながらニッコリ微笑む。

 エレナたち(サルを含む)は、ボーッとそのおとぎ話の世界から飛び出したかのような
格好をした2人の子供を見つめていた。
 2人の背中にちょこんとあるのは純白の羽。
「天使だ・・・・・・」
「ウキャ・・・・・・」
「ということは・・・・・・」
「我々は死んだんだーーーーーーーーー!!」
「ウキャーーーーーーーーーーーーーー!!」
 ドンとゴン、それにサルたちのの絶叫が洞穴に延々と響いた。



  


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