第1話 ウッキィ帝国、舞い降りた天使たち
─ そ の 4 ─



 夕陽で赤く染まったポポロクロイス城を仰ぐ。
 馬の手綱を持ちながら、ゆっくりと城下を歩くエレナ。
 久しぶりに戻ってきた。
 人々の明るい声が飛び交っている。エレナは変わらない町の懐かしさをうれしく
思った。


 ──ポポロクロイス城、謁見の間。
 ここで普通なら兄と妹の涙の再会となるわけなのだが・・・・・・
 エレナは段上の玉座に腰掛けるピエトロ王を睨むように見上げて言った。
「お久しブリです、にいさま。それにナルねえさま」
「おぉ、戻ったか、エレナ。元気そうで何よりだ」
 うれしそうにピエトロが立ち上がる。ナルシアがニッコリ微笑む。
 エレナはため息をつくと手に持つ紙袋をピエトロにつきつけた。
「はいコレ。南の島のお土産よ」
 それにキラキラと目を輝かせるピエトロ。
「ありがとう、エレナ。やはり私の妹だな」
「どういたしまして。──で、私の大事な大事な航海の最中にポポロクロイスへ
 帰れって、一体何があったの? そんなに深刻なこと?」
「あー、っと・・・・・・」
 話を逸らすかのようにピエトロが手を叩く。
「そうそう、エレナ。サルたちはどうだった?」
「ドン将軍とゴン将軍と一緒にウッキィ帝国へ行ってきたわ。にいさまの時代の時
 みたいに、ただ悪さを楽しんでるわけじゃなかったわ。話し合いで解決出来そうよ。
 レオナさんに頼んでサルと交渉してちょうだい。その段取りはドン将軍とゴン将軍に
 任せてあるから、もう大丈夫よ。きっと」
 うむ、とピエトロがうなづく。
「そうか、手間を取らせたな」
「いいえ。で、話を戻させてもらうけど・・・・・・」
 と、その時だった。

「あ、エレナおばさん、久しブリーーーーーーーーーー!!」

 謁見の間に大きな声が響いた。
 ピエトロの息子のピノンだ。前の月の掟の冒険の時より少し背が伸びたかも
しれない。
頭には月の精霊のパプーを乗せ、ピノンは元気よくエレナの元へ駆けた。
 バシッ
「・・・・・・お、おねーさん。おかえりなさい」
「ただいまピノン。元気にしてた?」
「う、うん」
 ピノンは赤くなったおでこを痛々しく触りながら父に向き直った。
「お父さん、2人が到着したよ。強風に煽られて着いた場所がポポロクロイスの
 ずっと東のほうだったんだって」
「そうか、無事に着いたか。これ以上遅くなるようなら迎えを出すところだったが・・・・・・」
 ピエトロとナルシアが顔を見合わせ安堵の胸をなでおろす。ピノンが謁見の間の
入り口に向かって手招きする。
「何してるのさ、2人とも早く入っておいでよ」
 ピノンに言われ、遠慮がちに入ってきたのは・・・・・・


「「「 あッ 」」」


 エレナと、そして入ってきた2人の子供が同時に声を上げた。
 不思議そうにピエトロがエレナと2人を交互に見つめる。
「なんだ、知り合いか?」
「え・・・・・・えぇ、少し話した程度だけど」
「そうか」
 ピエトロはうなづくと玉座を立ち、2人の元へ歩み寄った。
 2人の子供・・・・・・それは、ウッキィ帝国でエレナとサルたちの間に割って入っ
てきた子供たちだった。まさかこんな形で再開するとはエレナも思ってもいなかった。
 ピエトロが2人の前にかがみ、同じ視線に顔を持っていき、ニッコリと微笑んだ。
「よく来たね。私がピエトロだ」
 2人は緊張しているようで、背筋をピンと伸ばす。
「は、始めまして。ラリスです」
「リリスです。父からの手紙とお土産を持って参りました」
 ピエトロは先にお土産に手を出そうとしたが、そこをぐっと我慢し、2人の父からの
手紙に目を通した。
「話は聞いている。1ヶ月間、ここを自分の家と思ってくれ」
 そう言うとピエトロは後ろで何も出来ずにいるエレナを振り返った。
「私の妹のエレナだ。君たちの面倒はエレナが見ることになっている。困ったことが
 あったら何でも彼女に相談しなさい」
「なッ・・・・・・!?」
 エレナは眉をつりあげた。

 こ の 2 人 の 面 倒 を 私 が 見 ろ で す っ て ?

 2人は顔をひきつらせるエレナに、二ッと笑った。
「よろしく、ねーちゃん!」
「よろしくお願いします、エレナ様」
「今日は疲れただろう。ピノン、2人を部屋へ案内してあげなさい」
「はーい。こっちだよ」
 ピエトロに言われ、ピノンはラリスとリリスを連れて謁見の間を後にする。そこには
重い沈黙だけが残った。
 その空気を読んでか、黙って成り行きを見ていたナルシアがクスリと笑った。
「かわいいわね、あの2人。本当に双子の天使みたい」
 エレナはため息をつくとピエトロに向き直った。
「にいさま、私が1ヶ月の間、あの子たちの面倒を見るってどういうことよ。勝手に
 決めてくれちゃって。私が今、とても大事な航海の最中だって手紙にも書いて
 たし、知ってるでしょう?」
「わかっている。あの急な発熱にも早く効く・・・・・・」

バファリンじゃないわよ! バファンよ、バファンの剣ッ!! 

 今じゃガミガミ魔王さんまでバファンの剣を狙ってるのよ。一分一秒でも惜しい時
 なのに・・・・・・」

「あの2人の父親であるボリス国王は天空の城の主で、私の昔の戦友でもあるのだ。
 大切な仲間の頼みなんだ。エレナ、わかってくれないか」
「そんなの私には関係ないでしょう」
 かなり不機嫌なエレナにピエトロはある事を口にした。
「エレナ、最近モンスターたちが凶暴になってきたのを知っているか?」
「え?」
 ピエトロがそう切り出し、エレナの表情が変わった。エレナも感じていたことをピエト
ロが口にしたのだ。
 航海中、海のモンスターが凶暴になってきたのをエレナやダカート号の乗組員は
不思議に思っていた。いつも穏やかなモンスターも敵意をあらわにし、船が襲われる
ことが何度かあった。
 エレナの胸を妙な不安が襲う。
「モンスターが凶暴になった理由がわからないんだ。そんな時、ボリス国王が私に
 手紙を送ってきてな。天空の城がモンスターの大軍に襲われたという内容だった」
「あの子たちの城が襲われたの・・・・・・?」
「あぁ。ボリス国王は2人を危険な城には置いておけないと判断し、しばらくポポロク
 ロイス城で預かって欲しいと私に頼んできたのだ」
「それで、人の良いにいさまは引き受けたってワケね」
 嫌味を含めて言いながら、エレナはラリスとリリスのことを考えていた。自分の城が
襲われたのだ。あんなに元気に振舞えるなんて、2人は強いな、とそう思う。
「モンスターの凶暴化で私や兵士たちは手一杯なのだ。このとーり頼む、1ヶ月間、
 あの子たちが帰るまでこの城にいてくれないか?」
「・・・・・・」
 ピエトロの話にエレナは折れた。肩をすくめる。
「わかったわ。にいさまの頼みですもの。断れないわよね」
 エレナは苦笑し、うなづいた。



  


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送