第2話 王家の洞窟、にいさまとラブラブデート
─ そ の 1 ─



 ウサギは1人、海の上に浮かぶイカダに乗っていた。
 太陽のない絵に描いた青空。見渡す限りの海原には風は吹いていない。
「・・・・・・またなのね (-_-) 」
 イカダの上でガックリ膝をつき、ウサギは呟いた。
 ・・・・・・もう考える事もしたくなかった。自分は確かにポポロクロイス城の
自室のベットで眠ったはずなのに。これで8回目。さすがにウサギは疲れた
表情をしている。
「もーー! いい加減にしなさーーいッ!! アリス、あなたなんでしょう!?」
 ウサギの声が大海原に響く。
 ウサギにはこれが誰の仕業なのかわかっていた。
 アリス──というのは、毎夜夢の中に現われる少女にウサギが勝手に付けた
名前だ。金色の髪に青いスカート、白いエプロン。で、自分はウサギの姿。
物語「不思議の国のアリス」に似ていることからウサギはいつも夢の中に出て
くる少女をアリスと呼んでいた。
「今日の夢は漂流ですか・・・・・・そうですか」
 叫んでも何も変わらない。仕方なくウサギはイカダに身を委ねることにした。


「・・・・・・あら?」
 そして、しばらくすると、海面に立つ2本足の巨大魚がウサギのイカダに
近づいてきた。昨日出会った猫さんオーケストラの指揮者ドン・マエストロ
かと思ったが、ウロコの色が違う。
 魚はウサギに声を掛けた。
「私は海の神ポセイドン! ・・・・・・の使いのマーマンXである」
 ウサギは肩をすくめる。相手が名乗ったのだから、ひとまずこちらも名乗る
ことにする。
「私はエレナ。ポポロクロイスのプリンセスで、ダカート号のボスよ」
「うむ、エレナよ。これから私の出す問題に答えるのだ」
「何で? (-_-)」
 ウサギことバニーガール姿のエレナは頭をかいた。頭についているのはウサギの
耳。バニーガール姿でいったい自分はなにをこんなバカなことをやっているんだ
ろう。
 マーマンXは有無を言わさず出題してきた。
「第1問、ラダック仙人とデルボイ仙人、偉いのはどっち?」
「・・・・・・第1問、あなたを刺身にするとおいしいか、おいしくないか?」
 スッとエレナは剣を抜いた。マーマンXの顔がひきつる。
「なっ!? 問題に正解しないとここは通さぬぞ」
「どうでもいいわ、そんなこと。あぁ、早く夢から覚めればいいのに・・・・・・」
 エレナが絵に描いた空を仰ぐ。マーマンXが海面に地団駄を踏む。
「私を侮辱すると海の神ポセイドンが怒るぞ!」
「別にいいわよ。知り合いの海の妖精に頼んで謝ってもらうから(^^)」
「あんたは鬼ですか(汗)。
 私の試練は受けるまでもないということか。ならばそれでも良かろう。進む
 べき道を進め」
「え・・・・・・?」
 マーマンXの言葉になにかを感じたのか、エレナはマーマンXの姿を追った。
しかし、彼の体は深い海に沈んでいってしまった。海の底は果てしないほどの闇。
「ちょっと待ってよ!」
 また1人になってしまった。
 エレナは顔を上げた。そこはもう海ではなかった。
 真っ黒な闇の中にエレナは立っていた。さすがは夢の中だな、と思う。
 剣を持つ手に力を入れ、辺りを伺う。夢の中とはいえ油断はできない。
「クスクスクス」
 笑い声にエレナは振り返った。
 目の前には赤い扉と青い扉。その前に立っているのはエプロンドレスの少女。
「アリス!」
「よくここまで辿り着いたわね、ウサギさん」
 かわいらしく笑う少女。エレナは一歩前に出た。カツーンと彼女の履く黒の
ハイヒールの音が闇の中に大きく響く。
「いつまで私をからかえば気が済むのよ!? いい加減にしてちょうだい!!」
 エレナの言葉に少女・アリスは笑うのをやめた。
「えぇ。今日で最後にしましょう」
「・・・・・・」
 アリスの言葉に押し黙るエレナ。
「あなたは運命に出会ってしまった。だから今日であなたの夢に現われるのを
 やめるわ」
「一体何なの? わけがわからないわ」
 疲れたように首を振るエレナ。


 ピシッ


 何かが音を立てた。エレナの中で「何か」が・・・・・・。
 闇の中に雪が降ってくる。雪は激しくなり、エレナの周りを吹雪が舞う。
「なに、なんなのこれ!?」
 戸惑うエレナにアリスは無表情で言い放った。

「あなたはピエトロを裏切り、ポポロクロイスを滅ぼすわ」

「な・・・・・・何を言っているの・・・・・・?」
 ━━私がにいさまを裏切るなんて、有り得ない!!
 ピシッ ピシッ
 音は止まらない。エレナとアリスが立つ場所が凍れる世界へと変わっていく。
 エレナはアリスを見つめた。アリスは体の半分以上が氷付けとなりつつあった。
それでもアリスは平然として、エレナを見つめている。
「アリス!」
 アリスはそっと目を閉じた。ようやく口元に笑みを見せる。
「大丈夫。これはあなたの夢よ。現実にしたくないのなら、これ以上先に進んで
 はダメよ。・・・・・・さようなら、ウサギさん」
「でも、私は行かなくちゃ!」
 突然、自分の口から出た言葉にエレナは驚いた。「行く」って、何処へ?

 エレナの目の前が真っ白に染まった。





 エレナは目を覚ました。
 ポポロクロイス城にある自分の部屋のベッドの上。カーテンから日の光が射して
いる。日の高さからすると、もう朝とは言えない時間らしい。
 エレナは胸を抑えた。まだ心臓が早く動いている。息が荒い。額の汗をぬぐう。
「また夢・・・・・・、一体何なの?」
 考えても答えは出てきそうにない。
 エレナは仕方ないので服を着替え始めた。1ヶ月滞在するのだから持ってきた
トランクの中の荷物を出して整理しなくては・・・・・・エレナはとにかく夢のことを
忘れようと務めた。
「あ、そうだ。ラリスとリリス・・・・・・今ごろ何をしてるのかしら。さすがに起きて
 るわよね」
 その時だ。

 ドンドンドンドンドンドンッ!

 物凄い勢いで部屋の戸を叩く音にエレナは飛び上がった。
エレナおばさん! 起きてよ、エレナおばさん! おばさんってばッ!!
 その声にエレナは無表情で扉を開けた。
 バシッ
「パプッ・・・・・・」
 その音に思わずパプーが目を瞑った。
 おでこをさすりながらピノンがエレナを見上げる。
「お、おはようございます。エレナおねーさん」
「おはよう、ピノン。そんなに慌ててどうしたのよ?」
「そうなんだ、ラリスとリリスが!」
「あの2人がどうしたのよ?」
「とにかく来てよ!!」
 ピノンに手を引かれ、エレナは走り出した。


  


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送