第2話 王家の洞窟、にいさまとラブラブデート
─ そ の 2 ─


 城の西にある風車小屋の側にたくさんの人だかりが出来ている。
 ピノンに連れられて、寝起きのエレナは風車を見上げた。
 穏やかな風。いつもならゆっくりと回る風車の4枚の羽が今はグルングルンと
物凄い勢いで回っているのだ。そんな強風でもないのに・・・・・・。
エレナおばさん・・・・・・(バシッ)・・・・・・おねーさん、あそこを見て!」
 ピノンが風車を指さす。風車小屋の屋根に2人の人影が見えた。
「ラリスとリリスなの!?」
 またあんな高い場所に・・・・・・(-_-;)。
「そう! ラリスが魔法で風車を動かしてるんだ」
 いきなり二人が問題を起こしている。エレナは頭を振った。
「それで、ピノンには風の精霊さんが見えてたりするの?」
「え? あ、うん。一緒になって、大笑いしながら風を起こしてる・・・・・・かな?」
「ピノンは風の精霊さんに頼んで風車を回すのをやめさせてちょうだい。私は
 ラリスとリリスを屋根から降ろしてくるわ。落ちたら大変よ」
「うん、わかった」
 エレナとピノンはそれぞれの方向に走り出した。


 エレナは風車小屋の扉を開けた。
「ちょっと・・・・・・ヤダ、なにこれ?」
 
 真っ白ッ!!

 挽いた小麦粉が部屋を飛び、辺りは真っ白になっていた。風車のせいで、小麦粉を
挽く軸が物凄い勢いで回転している。
「エレナ姫〜〜〜、助けてください。私がもっと風が吹けばたくさん小麦粉が挽ける
 のに、って2人に冗談まじりに話したせいで・・・・・・」
 こうなった、というワケらしい。
 風車小屋を管理している男がエレナに泣きついてきた。頭から足まで真っ白で
頬の涙が流れた場所だけ小麦粉が固まってしまっている。そんな男の姿を笑いたい
のをこらえてエレナは屋根裏に続くはしごを上った。
 窓から顔を出す。しかし、2人の姿は見えない。屋根へ続くはしご等はなく、窓
から出て屋根に登らなければならない。それをするには勢いよく回る風車につかまっ
て屋根に飛び移らなければならないのだが・・・・・・。
 エレナはタイミングを合わせ、1枚の羽に飛びついた。
「きゃあッ!」
 その勢いにエレナは声を上げた。地上からは悲鳴に似た城の人々の声が聞こえる。
エレナは放り投げられないようにしっかりつかまり、必死で目を開けた。風車の羽は
エレナと共にすでに何度も回転していた。グルグルと回るポポロクロイス。ふと屋根の
上のラリスとリリスが見えた。目が合う。
 エレナは屋根に飛びついた。先端にしがみつく。
 回転のしすぎで目の回る頭をエレナは振った。
「ねーちゃん!」
「エレナ様!」
 ヤバイ、な感じの2人の声。エレナは緑色に淡く輝いているラリスの魔法の杖を
奪い取った。
「あ゛!!」
 ラリスが声を上げる。
 途端に魔法の力は消え、風車は落ち着きを取り戻し、いつもの緩やかなスピードに
戻った。下から人々の安心した声が聞こえてくる。

 ゴンッ

 エレナは屋根の上で危険度も忘れて2人の頭をグーで叩いた。
「まったく、何をやらかしてくれてるのよ。心配させないで」

「「いったぁーーーーいッ」」

 2人が同時に声を上げた。
 さすがは双子・・・・・・と言うか、同じリアクションが面白くて思わずエレナは
笑った。
「だって、ねーちゃんが全然起きてこないから、暇で暇で」
「2人で風車小屋を訪ねたんです」
 ・・・・・・つまりは、エレナのせいですか。
「ごめんなさい、私が悪かったわ・・・・・・はぁ。」
 気分も落ち着き、ようやく周りを見る余裕も出てくる。
 その場所はポポロクロイスを一望できた。海が日の光を受けてキラキラと輝いて
いるのも見える。空もなんだか近く見えるような気がする。
 空か。
 エレナはラリスとリリスを盗み見た。空、きっと2人は帰りたいのだろうな。
「ねーちゃんは高い所は好き?」
「え・・・・・・?」
 突然ラリスにそう聞かれ、エレナはまばたきをした。
「そうねぇ、好きよ。うん、大好き!」
 エレナは笑った。胸に手を当てる。
「だって私には竜の血が流れているんですもの。空高く舞い上がるのはとても好きよ」
 そう聞き、ラリスとリリスは二ッと笑う。エレナは何かとても嫌な予感がした。

「「じゃ、いってらっしゃ〜〜〜いッ」」
「へ?」

 ドンッ

 2人に背中を押され、エレナの体は屋根を離れ宙へと投げ出される。
「うそ・・・・・・」
 1秒が10秒にも、周りがスローモーションのようにゆっくり動く。

「い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 
そして、彼女は地上に真ッ逆さまに落ちていく。
 ラリスとリリスも屋根から飛び降りた。
 ふわり、と3人の体が宙に止まった。
 そのままゆっくり地面に着地する。
 リリスはスカートを抑えながら優雅に着地したが、エレナはそれどころでは
なかったらしい。顔が真っ青だ。
「び、びっくりしたー。本当に今度こそ死んだと思ったわ・・・・・・」
 エレナはその場に崩れた。
「この方が降りるの早いだろ?」
「天空の城からのダイビングのほうがスリリングありましたけどね」

 ゴンッ

「「いったぁーーーーいッ」」

 それがラリスの魔法だったことに納得するのに少し時間がかかった。バクバク
する心臓をエレナは抑える。

 3人が無事に戻ってきたこともあって、城の人々が徐々に持ち場へと帰っていき
風車小屋の前は静かになりつつあった。
「エレナおねーさん、大丈夫?」
 元気なラリスとリリスに笑いながらピノンがエレナの顔を心配そうに覗き込む。
 こんなことが1ヶ月も続くのかと思うとエレナはゾッとした。何とかならないか
と思うが結局例の夢と同じで答えは出てきそうになかった。


 風車小屋の騒ぎを聞きつけて、遅れながらピエトロとナルシアが風車小屋前に
座り込むエレナたちの元に歩いてきた。
「こちらから大絶叫や大歓喜が聞こえてな。見に来たのだが、もう遅かったかな?」
 のん気なピエトロ王。何が起きたかわざわざ説明を始めようとするピノンを
エレナは制止させた。
「何でもないわ」
 その一言で終わらせるエレナ。2人の面倒を見ると約束したのだ。今の出来事は
なかったことにしてしまいたい。
「そうか・・・・・・」
 あごひげを触りながらピエトロはうなづいた。
 ナルシア王妃がエレナの後ろに隠れているラリスとリリスを手招きする。
「ちょうど2人を探してたの。今夜のパーティーで着る衣装の試着をしてもらおう
 と思って。一緒に来てくれるかしら」

「「「え゛ーーー、パーティーーー!? (ーー;)」」」

 と声を上げたのは、エレナとラリスとリリス。そのしかめっ面にナルシアは
苦笑した。
「2人の歓迎パーティーよ。エレナちゃんも帰ってきたことだし、城下のみなさんに
 元気な姿を見せておかないと、ね?」
 ナルシアの笑顔にエレナは渋々承諾した。ラリスとリリスもパーティーがかなり
嫌そうだ。
「あ、そうだ!」
 ポンッとラリスが手を叩き、ピエトロを見上げた。
「知恵の王冠!」
「はっ?」
 ラリスの言葉にピエトロは小さな声を上げた。
「せっかくポポロクロイスに来たんだし、僕、知恵の王冠が見えてみたい!」
「あ、私も! よろしければ今夜のパーティーでかぶって頂けませんか?」
「うん、そしたらパーティーにでも何でも出る出る!」
 目を輝かせてピエトロに迫るラリスとリリス。
 知恵の王冠は国にとっても世界にとっても大事な品物。そうそう簡単に出せる
ものではないのだが・・・・・・。
「わかった。2人の頼みだ。知恵の王冠をかぶろうじゃないか」
 ピエトロは大きくうなづいた。
「「やったーーーーーー!!」」
 素直に喜ぶ2人。ラリスとリリスはナルシアとピノンと共に衣装合わせをしに
城の中へと姿を消した。

 その場に残ったのはエレナとピエトロだけ。
「さて・・・・・・行くか」
 ピエトロがエレナに向き直る。
「行くって、どこへ?」
 ピエトロが笑い、エレナの手を取り歩き出した。
「王家の洞窟へ、知恵の王冠を取りにだよ。久しぶりに兄妹で散歩をしようじゃ
 ないか」



  


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送