第3話 ポポロクロイス城1、狙われた知恵の王冠
─ そ の 1 ─


 スカートの裾を踏まないように丁寧に歩くリリスを横にエレナは大広間へ
続く廊下を歩いていた。
「はぁっ。苦手なのよね、こういうのって」
 これから始まる歓迎パーティーにため息1つ。
「あ、ねーちゃん! 音楽が聞こえるッ!」
 先頭を歩いていたラリスがうれしそうに振り返った。そう言われ、エレナも
耳をすませる。
   ♪〜〜♪ ♪〜〜 ♪ ♪
「広間からね。舞踏会も一緒に開かれるそうだから、オーケストラの人たちが
 演奏をしているのよ」
「オーケストラ!? 見たい、聴きたいッ!!」
 リリスの目が輝き出す。ドレスのことも忘れてラリスと一緒に廊下を駆け出す。
「あ、ちょっと待ちなさいッ!」
 エレナもドレスの裾を持ち上げ、2人の後を走り出した。



 日が沈み、東の空に星が輝く頃、ポポロクロイスの大広間にエレナ、ラリス、リリスは
現われた。
 エレナはバラ色のドレスに身を包み、海の生活では一度もしたことのなかった
化粧をしている。ラリスは群青色のタキシードに、リリスは白と桃色のフリルの
ついたドレス。
 3人を見ようと集まった人々からワッと歓声が上がった。
 たちまち3人の周りに人だかりが出来る。

 そこからは質問の嵐だった。

 エレナには海での冒険のことを、双子には空の世界のことを聞こうと大勢の
人が四方八方から話し掛けてくる。
 エレナは人々の質問に丁寧に・・・・・・とは言えないが話せることは話した。海
の世界のことにたくさんの人が聞き入っていた。
 チラリとラリスとリリスの方を見る。人々の波に押されて少しエレナと距離が離れて
しまった2人にもかなりの人だかりが出来ている。大丈夫だろうか心配してチラチラと
様子を見ながら人々と会話をしていたところに、ラリスとリリスの元へピエトロが助け舟に
入ったのを見て一安心した。ピエトロの一言で、双子に集まっていた人々が散っていく。
 エレナも人々の輪から早く脱出したかったが、なかなか放してもらえなかった。
 人々の質問攻めから解放された頃には喉はカラカラ、お腹はペコペコ。エレナは
よろよろと食事の置かれたテーブルへと移動した。

「あ、エレナおばさんッ!」

 その声にエレナは生ハムメロンを食べながら振り返った。
 一応正装に着替えました、という感じのマルコと、これまた可愛らしい青と白の
ドレスに身を包んだルナだった。

 ドスッ

「う゛・・・・・・エレナお姉さま、お久しブリです」
 みぞおちにクリティカルヒットをくらったマルコが右手でお腹を抑え、左手で
食べた物を吐き出してしまわないように口を抑えた。相当、食べあさったのだろう。
「まったく、マルコったら。女の子の気持ちがわからないんだから。ねぇ、エレナさん!」

 ビシッ

「いった〜〜いッ! なんで私まで!?」
 額を抑えてルナが抗議に出る。エレナはメロンを食べ終わると丁寧に口を拭き
2人に向き合った。
「ルナ、私に手紙を届けてくれたでしょう。そのお礼よ。まったく、大事な航海の
 最中だったっていうのに・・・・・・」
 ルナが苦笑する。
「だって、王様や王妃様はもちろん、ポポロクロイスのみんながエレナさんに
 会いたがってたんだもん。だから海の妖精の兵士に王様の手紙をエレナさんに
 届けるように頼んだの」
 ルナの必死の説明にエレナはうなづいた。これ以上問うのはやめておこう。
エレナもルナの元気な姿が見れて正直安心していた。少し前の出来事──、月の
掟の冒険はエレナにとっても辛いものだったが、ルナが一番辛かったのだ。
彼女の元気な姿が見れただけで良しとしよう。
「エレナお・・・・・・ねーさん。アイナは元気にしてたか?」
 マルコに聞かれ、エレナは笑ってうなづいた。
「えぇ。とーっても元気よ。『マルコにヨロシク』って言ってたわ」
「そっか、元気か。そりゃ良かった」
 頬を赤く染めながら安心するマルコにエレナとルナは声を上げて笑った。
「・・・・・・」
 ふとエレナは辺りを見回す。
「どうしたんだ?」
「ねぇ、ラリスとリリスを知らない?」
 広間を見渡すが2人の姿が見当たらないのだ。急に不安になるエレナ。
 ナルシアの側にくっついていたピノンに声をかける。
「え? さっきまで、お父さんの王冠を楽しそうに見てたよ。その後はどこに行ったか
 わかんない」
 ピノンも知らないらしい。
「手分けして探してくれるかしら?」
 エレナの呼びかけにピノンたちはうなづき、それぞれの方向に走り出した。


 エレナは、風車小屋へ来ていた。今朝、ラリスとリリスが一暴れしてくれた
場所だ。今朝のことがあるからなんとなく・・・・・・という感じで風車小屋を見上
げたが、そこには人気がなかった。風車がゆっくりと音を立てて回っている。
「まったく、どこへ行ったのかしら・・・・・・」
 エレナは1人呟くと、風車小屋を後にした。
 城の庭を歩き、それから城門の兵士に声をかけラリスとリリスのことを聞い
たが、「見かけていない」とのことだった。辺りを湖に囲まれたポポロクロイス
城、城門を通らなければ出ることはできない。城の中にいるのは確かだ。
 エレナは再び城内に戻り、2階から外へと足を運んだ。自分の好きな場所、
噴水へと辿り着く。エレナは昔はよくこの噴水に腰をおろしてくつろいだもの
だった。
「あ、エレナおねーさん!」
 ピノンがエレナの元へ駆け寄ってきた。
「どうだった? ラリスとリリスはいた?」
「まだ見つからないんだ。ルナとマルコがもう一度大広間のほうを探しに行って
 くれてるよ」
「そう、ありがとう。本当にどこに行ったのかしらね」
「パプッ!」
 ピノンの頭上で大人しくしていたパプーが突然鳴いた。
 パプーはある方向を見つめている。エレナとピノンもパプーの視線の先を追う。
 ──魔法の塔だ。
 城の中でも一番東に位置し、魔法使いたちの研究所と、膨大な本と、最上階に
サボーの部屋のある魔法の塔。
「ねぇ、ピノン。あそこは探してみた?」
「ううん、まだだよ」
 エレナとピノンはうなづくと、魔法の塔へ足を運んだ。




  


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