第4話 ポポロクロイス城2、真夜中の旅立ち
─ そ の 1 ─



 ラリスとリリスの使っている客間のテラスで、エレナはボーッと夜空を眺め
ていた。空は厚い雲で覆われている。もうすぐ雨が降るわ、エレナは広間で
起こったことをもう一度思い出していた。

 城の中は気味が悪いくらい静まり返っている。

「なぁ、ねーちゃん。王冠が1つ壊れたくらいで、どーして落ち込むんだよ」
「そうですわ。壊れたならまた新しいのを発注すればいいですわ」
「そういう問題じゃないの!」
 思わずエレナは怒鳴っていた。・・・・・・気まずい沈黙。
「ごめんなさい。私がイライラしてもしょうがないわよね。でもね、2人共、
 あの王冠はこの国に伝わる大切なものなの。何にもかえることは出来ないわ」
「話に聞いたことはあるけど、そんなに・・・・・・大切なの?」
「えぇ。神様から与えられた闇の力を見張るために授けられたものって聞いた
 わ。それが、割れてしまったのよ。今、世界で何かよくないことが起ころうと
 している。そう思うの。大切な何かを守るように神様が警告したのかもしれない。
 知恵の王冠が無くなった今、人々の心は不安で押し潰されることになるわ。
 なんとかしないと。・・・・・・にいさまは命に替えて償いをするかもしれない」
「ごめんなさい!」
 リリスがエレナに頭を下げた。
「私たちが、知恵の王冠が見たいと言ったばっかりにこんなことになってしまっ
 て・・・・・・」
「責任・・・・・・感じるよな」
 ラリスがベットに寝転がり呟く。
 2人は悪くない、エレナは思う。むしろ悪いのは・・・・・・私なのかもしれない。
アリスの言葉がエレナの頭の中で繰り返し繰り返し回り続けている。
 エレナは一息つくと、2人に笑顔を向けた。
「さ、着替えてもう寝なさい。知恵の王冠のことを心配しても仕方ないわ。
 そうね、明日は海へ行きましょう。海の妖精のルナはね、とっても笛が上手い
 のよ。2人とも音楽が好きそうだし、気分転換をしましょ」
 エレナの言葉にラリスとリリスも笑顔を向けた。

 ──しかし、3人の笑顔は誰が見ても分かる作った笑顔だった。




 エレナは、客間を後にすると自室に戻った。ドレスから普段着に着替える。
 いろいろなことが頭を駆け巡り、今夜は眠れそうになかった。
 部屋にいても落ち着かず、エレナはピエトロのことが気になりピエトロの
部屋へと足を運んだ。
 自分のことを信じてると言ってくれた兄に、やはり連日の夢のことを話そう。
 ノックした部屋から顔を出したのはピエトロではなくナルシアだった。
「あの・・・・・・にいさまは?」
「もうおやすみになられたわよ」
「あ・・・・・・そうですか」
 がっかりするエレナにナルシアは優しく微笑んだ。
「何かが起こる時はバスカル様が夢の中に現われて助言をしてくれるそうよ。
 それを期待して早く就寝されたみたい」
「バスカル様って?」
「大神ユリウス様よ」
 ナルシアは胸に手を置き、そう言った。
 知恵の王冠は神様から授かったもの。ピエトロが夢の中でバスカルに出会え
ばこれからどうしたら良いかがわかる。知恵の王冠を元に戻す方法もわかるか
もしれない。
 エレナは落ち着きを取り戻そうと務めた。
「あのね、エレナちゃん」
 ナルシアが優しく話し掛ける。
「ピエトロにも言ったんだけど、あまり自分を責めないでね。形あるものは
 いずれ壊れる。当たり前のことじゃない」
 大丈夫よ、とナルシアはうなづいた。
「・・・・・・はい」
 エレナもうなづき、ナルシアに頭を下げるとその場を後にした。




 その後、エレナは自室へは戻らなかった。ふと知恵の王冠のことが気になっ
たのだ。
 知恵の王冠がある部屋へ行く途中、ラリスとリリスの部屋の前を通り過ぎた。
中は静かで扉の隙間から明かりももれていない。2人は眠ったのだろう。
 兵士から割れた知恵の王冠は、今日はとりあえず城の武器庫に保管されている
とエレナは聞いていた。ドン将軍とゴン将軍が寝ずの番をして知恵の王冠を
守るそうだ。安心できるだろう。
 それに、今更、知恵の王冠を盗もうと現われるヤツもいないだろうし。
「!!」
 何かに気付き、エレナは廊下を走った。
 武器庫の扉が開いているのだ。周りに兵士たちの姿もない。
 武器庫に入ると、そこにはドンとゴンが倒れていた。
「2人とも、大丈夫!?」
 抱き起こし呼びかけるが反応はない。特に外傷もない。脈も正常で、息も
穏やか。どうやら眠らされているだけのようだ。
「いったい何があったの・・・・・・?」
 エレナは辺りを見回した。
 知恵の王冠が保管されていたであろう宝箱は空だった。武器庫をくまなく
探すが知恵の王冠の影も形も見当たらない。
「知恵の王冠がなくなってる! 大変、にいさまに知らせなきゃ!」
 エレナは立ち上がった。

 そして耳にする。
 広間から聴こえてくるピアノの演奏を・・・・・・。




  



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