第4話 ポポロクロイス城2、真夜中の旅立ち
─ そ の 2 ─




 ・・・・・・こんな真夜中に誰がピアノを弾いているのだろう。

 エレナは2階のテラスから広間を覗き込んだ。ガミガミ魔王の襲撃で壊れた
広間──天井には大穴が開いたままになっているので、広間の様子がよく見えた。
エレナの立っているテラスも石片なのでかなりガタがきている。

 ピアノを弾いていたのはラリスとリリスだった。

 聴いたことのない曲。
 神秘的で心によく響く音色。
 連弾をする2人の姿にエレナは見入っていた。
 そして、2人の側には知恵の王冠があった。武器庫から持ち去ったのはどうや
らラリスとリリスのようだ。
「・・・・・・2人共、何をやってるのよ」
 双子に近づこうとした時、エレナの視界の端でキラリと何かが光った。

 ハッとその光のもとをたどる。 剣だ。
 広間の外、壊れた壁の隙間から剣を握り締め、ラリスとリリスを狙う人物。
 そこには1人の青年が立っていた。年のころはエレナとたいして変わらない
だろう、十七、八歳といったところか。スラリと伸びた長身に濃い紺色の髪、
紫の瞳、灰色のシャツに紺色の軽めのコートを羽織った青年がそこにはいた。
 何よりその青年は真っ直ぐに双子を睨みつけ、手に持つ両刃剣で双子を襲おう
と身を乗り出したところだ。
「危ないッ!」
 エレナは自分の剣を引き抜き、山になったガレキを飛び降りて1階へ着地
すると、その青年に向かって駆け出した。

 
 カキンッ


 エレナと青年の剣が火花を散らせた。
 青年はエレナの存在に気付いていなかったらしく、驚いた表情でエレナを
見つめている。
 ラリスとリリスはエレナたちに全く気付いていないようだ。壁のせいで2人の
姿を確認出来ないが演奏は続いている。

 神秘的なメロディーが流れる中、エレナと青年は剣を構え向かい合った。

「邪魔をするな」
 キッと青年がエレナを睨む。
「あの子たちに手を出さないで!」
「それは無理なご相談だな、エレナ姫。オレの狙いはあの2人だ
 ピアノの演奏は続いている。
 青年はとても焦っているようだ。ラリスとリリスの演奏を振り払うように
頭を振った。
「しょうがない、邪魔するようならあんたから片付けさせてもらう」
 青年が剣をエレナに向け駆け出す。エレナは体を守るように剣を構え、
それを受け止める。力で勝負すればもちろん勝ち目はない。エレナは後へ
反ると横へと逃れた。すぐに青年が体勢を立て直しエレナに向けて剣を
振り被る。
 接近戦より距離をおいて技で戦ったほうが懸命だ。しかし、相手がそれを
させてはくれなかった。エレナは押される形で青年の剣を受け止める。
流れを変えなければ・・・・・・。そう思った時だった。

 フワリ・・・・・・

 ピンポン玉くらいの大きさの銀色の光が2人の間に現われ、ゆっくりと
通り過ぎた。それが何なのかエレナにはわからない。だが、その光を見た
青年の手が止まったのだ。チャンスとエレナは青年の剣を振り払った。
 剣は弧を描き、床に突き刺さる。
 エレナは剣を青年の首に突きつけた。息があがっている。
 しかし、青年はこの勝負などどうでも良かったかのように壊れた壁の隙間から
ラリスとリリスを見つめていた。
「・・・・・・?」
 エレナも視線を双子に送る。
 演奏はまだ続いていた。

 広間内に変化が起こっていた。
 ポツ ポツ と、銀色の光がいくつも現われ、それが曲に合わせて踊るよう
に辺りを飛び、割れた知恵の王冠へと集まっていく。
「なんなの・・・・・・?」
「再生力だ」
 青年は悔しそうに呟いた。
 光が知恵の王冠の割れた場所に触れては消える。
 知恵の王冠がみるみる元の姿に戻っていく。
「すごい・・・・・・」
「エレナ姫。あんたとはまた会うことになりそうだ」
 床に刺さった剣を引き抜きながら、捨て台詞を吐いてる青年をエレナは慌てて
呼び止める。
「待って! 何なの、あの力は・・・・・・。それで、あなたは一体、何者?」
あの力は『光の意思デュオン』の力。そしてオレは・・・・・・」
 そこで青年は一呼吸置くと、意地悪そうに笑った。
「あー、そーだな。バファン名乗るか。あんたにとっちゃ覚えやすい名前だろ」
「バファン・・・・・・ですって!?」
 エレナがキッと青年を睨んだ。
 この男、どうやらエレナのことを知っているらしい。いや、ポポロクロイス
全国民がエレナのことを知っているように、青年もエレナに対してそれなりの
知識があるらしい。
 彼の言葉はバファンの剣の冒険を途中で中断させられたエレナにとって癪に
さわるものだった。心に爆弾を投下された気分である。
「えぇ、よーーーーく覚えておくわ。ラリスとリリスは私が守る。あなたの
 思い通りにはさせない!」

「あぁ。それまで 2 人 の 面 倒 、よ ろ し く な 」

 青年は不敵な笑みをみせると指をパチンと鳴らし、魔法でその場を後にした。


 辺りに静寂が訪れた。




  



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