第4話 ポポロクロイス城2、真夜中の旅立ち
─ そ の 3 ─




  謎の青年が去り、エレナは剣をしまった。
 手が震え、足が一歩も動かない。心を落ち着かせようと深呼吸をする。
 ──今のあの人は一体何者なんだろう。ラリスとリリスを狙っていた。

 双子のことを思った時、ちょうど演奏が終わったところだった。
 壊れた壁の隙間から2人を伺う。銀色の光は既に消えていた。
 エレナはその場にずっと立ち尽くしていた。動けなかった。

 演奏を終えたラリスとリリスは息を切らし、疲れきったようにその場に身を
かがめた。
 ラリスが椅子から立ち上がる。
「おい、誰かに見つかる前にとっととズラかろうぜ」
「う、うん。ねぇ、ラリス。知恵の王冠はどうしよう」
「そこに置いとけよ。朝には元に戻った知恵の王冠が発見されて終わりだ。
 ピエトロ王も、ねーちゃんも喜ぶだろ」
「・・・・・・うん」
 2人は崩れた広間を早足で出て行った。

 広間に誰もいなくなり、辺りは不気味なほどの静寂に包まれている。
 エレナはようやく足を動かした。一歩、一歩、広間へと。
 ピアノの側の椅子に置かれた知恵の王冠を恐る恐る手にとる。


 元通りに戻っているッ! 


 確かに数時間前、みんなの前で割れたのに。今、知恵の王冠はエレナの中で
金色に輝いていた。

「再生力。『光の意思デュオン』の力だ」

 ムカツクことにバファンと名乗った青年の言葉が頭に響く。

 さすがに一夜誰も居ない広間に知恵の王冠を置いておくのはまずいと思い、
エレナは知恵の王冠を元あった武器庫の宝箱に戻した。
 ドン将軍もゴン将軍もまだ眠っていたが、時期に目を覚ますだろう。エレナは
2人の将軍を見下ろし武器庫を後にした。



 トントンッ

 エレナはラリスとリリスが使用している客間のドアをノックした。今、広間で起こった
ことを聞こうと思って。そして、二人を狙うバファンと名乗る青年に心当たりがないかを
聞くために。
 ノックしたものの、返事は返ってこなかった。
「開けるわよ?」
 それでも返事はない。エレナはドアを開けた。
 真っ暗な部屋、もう眠ってしまったのだろうか。机の上の明かりを灯す。
 部屋に2人の姿はなかった。
 それどころか・・・・・・

「荷物がなくなってる! ウソでしょ!?」

 エレナは叫んだ。ラリスとリリスは部屋に人がいた気配も全て消して
出て行ったのだ。
「身勝手もいいところね、あの子たち!」
 エレナは部屋を飛び出した。まだそう遠くへは行っていないだろう。
今なら十分追いつける! それにあの子たちは狙われているのだ。
守らなければ・・・・・・。

 自分の部屋へ戻り、トランクを掴む。荷物の整理をしておかなくて良かった
と思いながら部屋を出る。そこで待ち構えていたのはピノンだった。
「エレナおばさん!
 寝巻き姿のピノンが心配そうにエレナを見上げる。
「ピノン・・・・・・」
 エレナはピノンの前に屈んだ。

ピノン。いい加減『おねーさん』って言ってくれないと、
 エレ、全力で ピノンのこと泣かしちゃう ^o^ 

 エレナの優しい優しい笑顔にピノンがゴクリと生唾を飲む。
お、おねーさん。こんな夜中にどこへ行くの? また旅に出ちゃうの?」
「まさか。にいさまと1ヶ月はポポロクロイスにいるって約束したのよ。
 どこにも行ったりしないわ」
「でも、さっき、お父さんのお土産部屋で・・・・・・うぐっ
 ピノンを羽交い絞めにし、エレナはその発言をさせなかった。
「ラリスとリリスがいなくなったのよ!」
「えぇ!?」
 エレナの言葉にピノンは声を上げた。
「荷物をまとめて出てったみたいなの。すぐに連れ戻すつもりよ。でも、もし
 朝までに2人を連れて私が戻らなければ、にいさまに状況を説明してちょう
 だい。大丈夫? お願いできるかしら」
「うん、いいよ。・・・・・・知恵の王冠は壊れちゃうし、変なことが続くね」
「それは・・・・・・」
 直った、と言いたかったがエレナはピノンの頭をポンッと叩きうなづくと
踵を返し、廊下を走った。
 早くしなければ、2人に追いつけなくなったら困る。
 途中、何人もの兵士が床でぐっすり眠っていたがきっとラリスとリリスの
せいなのだろう。城門の見張りの兵士も眠らされているので、エレナは
2人が城の外へ出て行ったのを確信する。
 エレナは兵士たちを飛び越え、城を飛び出した。




  



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