第4話 ポポロクロイス城2、真夜中の旅立ち
─ そ の 4 ─




 ポツ ポツ ・・・ ・・・

「やだ、雨!?」
 城と城下町をつなぐ橋を走っている辺りから雨が降り出してきた。
 夜の闇の中で雨の音が響いている。
 視界が悪い。でも行かなくては、ラリスとリリスに追いつけなくなる。
 エレナはトランクの中からお気に入りの白い傘を取り出し、さすと走り出した。

 雨だからだろうか、城下をすぎ草原に出ても夜なのにモンスターの姿を見かけ
ない。凶暴になりつつあるモンスターに2人が襲われていたらどうしよう。
 ・・・・・・いやいや、返り討ちにあわされてるわよね、エレナは走りながら苦笑した。
ポポロ草原を走りながら考える。この先は分かれ道。海岸方面とタキネン渓谷方面、
どちらへ進んだのだろう。
 そう思った時、前方でフワリと光る魔法の玉を見つけてエレナはホッと胸を
なでおろした。
 ちょうど分かれ道の看板の前で──2人を見つけたのだ。ラリスの杖の先端が
光り、辺りをほどよく照らしている。
 2人は立ち止まり・・・・・・どうやら何か言い争っているらしい。

「ロマーナなんて絶対行かないからな!」
「なんでよ。音楽の国に私は行ってみたいわ!」
「はっ。音楽なんて必要以上に関わりたくないね!」
「なによ。さっきまで雨音に感動してたくせに!」
「う・・・・・・。とにかくロマーナには行かない。とりあえず身を隠す場所を探す!」
「ロマーナに行って身を隠す場所を探すのが賢明よ!」
「いちいちつっかかってくるなよ、妹のくせに!!」
「なっ! そっちが弟でしょう! 私の意見もたまには通してちょうだいよ!!」

  ゴンッ

「「いったぁーーーーいッ」」

 ラリスとリリスは頭を殴られその場に座り込んだ。
「父さんのカミナリよりひどいな」
「うん、言えてる」
「まったく、なに真夜中にケンカしてるのよ!」
 2人の頭を叩いた握りこぶしをそのままにエレナは2人に怒鳴った。
「ゲッ。ねーちゃん」
「エレナ様・・・・・・」
 ラリスとリリスが顔を見合わせ、それからエレナを見つめ、複雑な笑みを
うかべた。
「「こ、こんばんわ・・・・・・」」
「『こんばんわ』じゃないわよ! 何で城を出てきたのよ。さ、帰るわよ」
 エレナは2人に手を差し延べる。
 しかし、2人はそれを拒むように後退した。
「あなたたちが何から逃げているのか私は知らない。だけどポポロクロイスが
 一番安全よ。にいさまが守ってくれるわ」
「帰らない」
 ポツリとラリスが呟く。エレナはため息をついた。
 降り続く雨の中で言い合いをするのはゴメンだ。
「わかったわ、とりあえず場所を移動しましょう。雨のしのげるところへ。
 あなたたち、びしょ濡れじゃない!」
 エレナが屈んで2人の肩を掴んだ。ラリスとリリスはもう雨でずぶ濡れだった。
「いいよいいよ、雨、楽しいし」
 ラリスがエレナの手を振り払う。
「は、楽しい(-_-;)?????」
「天空のお城は文字通り空の上のお城なので、雨が降ることなんてないんです。
 地上ではこうやって雨が降るんですね」
 リリスが手を広げて空を仰ぐ。本当に楽しそうだ。
 エレナも傘を降ろし、空を見上げる。闇の空から降る雨は誰かの悲しみの
涙のようでエレナの心を締め付ける。目の前で楽しそうに振舞う双子にこの雨は
何か似ているところがあるのかもしれない。
「でもダメよ。このままだと風邪ひく・・・・・・」
 そうエレナが言いかけた時、

 バサッ

 ラリスとリリスの頭に大きなタオルがかぶさったのだ。


「まったく、風邪でもひかれたら困るんだよ。オレがな


 その声にエレナは振り返った。
 さっき広間で会ったばかりの青年がそこにいたのだ。
「バファン!?」
 エレナが2人をかばうように立ち、バファンを睨む。エレナの後で息を飲んで
双子がバファンを見つめている。
「ほんの久しブリだな、エレナ姫。さて本題だ。その2人を引き渡してもらおうか」
 手を差し出す青年バファンは目を細め、口の端を持ち上げる。
「何が『引き渡してもらおうか』よ! 言ったでしょう、あなたみたいな怪しい人
 ラリスとリリスは渡さない」
「残念だがエレナ姫、こっちはボリス国王の許可を得ている。オレが何者なのか
 わかってるはずだ。なぁ、2人共?」
 バファンの言葉に2人は何も言わなかった。その沈黙が何を意味していようと
エレナはバファンにラリスとリリスを引き渡すつもりはさらさらなかった。
「なんなの、あなた」
「部外者は黙っててもらおうか」
 降りしきる雨の中、エレナとバファンはお互い譲らずしばらくにらみ合っていた。
 と、その時、

「はっくしゅん」

 リリスが可愛らしく くしゃみをしたのだ。
「ちょっと、リリス大丈夫?」
「げっ、マジで風邪ひいたんじゃないだろうな」
 慌ててエレナとバファンがリリスに駆け寄る。
「・・・・・・」
 エレナはバファンを見つめた。リリスの濡れた髪を拭いているバファン。
敵意のないその優しそうな瞳・・・・・・。
「おいっ」
 バファンがエレナを振り返る。エレナは慌てて視線をそらした。
「ひとまず休戦だ。こいつらの体を温めてやらないと。一番近い町はどこだ、
 やっぱポポロクロイスか?」
「え、えぇ」
 うなづくエレナ。
「ポポロクロイスはダメ! 今、出てきたばっかりだもん!」
「ロマーナに行きましょう、ね!」
 リリスの提案にラリスが嫌〜な顔をしたのは言うまでもない。
 バファンは頭をかいた。
「オレはこの辺の土地観ないんだよ。エレナ姫、こいつらが満足出来そうな場所は
 どこにある?」
 そう言われ、エレナは考えた。ポポロクロイスに連れ戻したいのは山々だが
双子のワガママに今日のところは付き合うことにしたようだ。
「そうね、タキネン村に行きましょう。朝になればすぐにポポロクロイスの兵士たちが
 迎えに来てくれるだろうし」

「「え゛ーーーーーーーーーッ」」

 ラリスとリリスのヤな声がハーモニーとなってエレナを襲った。
「うッ。・・・・・・わかったわよ、それじゃあ」
 そして、真っ直ぐに北を指差す。
「タキネン渓谷を越えたずーーーーーっと先に雪に囲まれた村があるわ。白い村よ。
 でも、かなり遠いわ」
 ポポロクロイスを出るのは不味いと思ったエレナが考えた場所がここだった。
ギリギリポポロクロイスの領地である白い村。
「そしてなにより、温泉があるの
 エレナの発言に目を点にする3人。
「でも、雪か。うん、行ってみたい!」
 ラリスが手を挙げ、リリスもうなづく。双子の了解も取れたようだ。
「わかった、北だな」
 パチンッ
 バファンが指を鳴らした。エレナたちの周りを薄い膜が包み込む。バファンの
魔法に不安そうにラリスとリリスがエレナにしがみ付く。
 宙に浮くような、空へ引っ張られるような感覚。
 そして、4人はその場から一瞬にして姿を消した。




  



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