第 5 話  白 い 村 、 春 を 呼 ぶ 歌
─ そ の 2 ─




 予想以上に卓球大会が盛り上がり、エレナたちがベットに入ったのは朝日も
完全に登りきった頃だった。
 エレナは倒れ込むようにベットに入り、眠った。またバニーガールの夢を見る
かと思ったが、前回の夢でアリスが言ったとおり、9夜目にして夢を見ること
はなかった。
 ぐっすりと眠ったエレナが起きたのは雪が夕陽に照らされオレンジ色に輝く
頃だった。久しブリによく眠れ、気分もすっきりしている。
 しかし、今自分のある状態は不安だらけだった。早くポポロクロイスに帰ろう。
知恵の王冠が元に戻り、ピエトロは安心しているだろうか。そして、ピノンが
説明したとしてもラリスとリリスがいなくなり、騒ぎになっているのは間違いない
だろう。






ピエトロ「やったーー! 皆の者、知恵の王冠が元に戻っているぞ!」
ナルシア「おめでとう、ピエトロ」
サボー「いきなりですが、大変です。実は・・・・・・」
ピエトロ「な、なに、ラリスとリリスがいなくなった!?」
ゴン「ピノン王子の話によれば、エレナ姫が探しに行っているとのことでしたが」
ドン「今のところ、身代金の要求はありません」
ピエトロ「すぐに探すのだ!! エレナなんかに2人を任せるんじゃなかったーーー!!」

((注)あくまでエレナの勝手な想像です)






(やばい、やばすぎるわ・・・・・・)
 ポポロクロイス城・円卓の間の入り口に看板が立てかけられているのをエレナは
想像して深くため息をついた。

 辺りを見回す。他の3つのベットは空になっていた。部屋にはエレナしか
いない。双子の荷物が置きっぱなしになっているので今回は夜逃げ(昼逃げ)
されたわけでもなさそうだ。耳をすませると外から雪合戦をしている子供たち
の声が聞こえてくる。ラリスとリリスは外で村の子供たちと遊んでいるらしい。

 ・・・・・・でも、あの男。バファンのことは気になる。
 エレナは着替えると部屋を出た。



「あ、ねーちゃん。おはよう! ・・・・・・もうすぐ、こんばんわカナ?」
「見てください、エレナ様。雪だるま! 私たちで作ったんですよ」
 宿屋の入り口にラリスとリリスはいた。上も下も同じくらいの大きさの
雪玉が重ねられ、石で顔が作ってあった。ラリスもリリスも宿屋で借りた
半天を着て、頬を赤くして元気に外で遊んでいたようだ。
「・・・・・・ところで、バファンは?」
 辺りを見渡すが彼の姿はどこにも見当たらない。
「にーちゃんなら温泉のそーじ」
「掃除?」
 眉をひそめるエレナに、リリスは両手を見せた。皮製の手袋だ。
「あら、どうしたのその手袋?」
「雪で遊ぶ私たちにバファン様が『しもやけになったらどうするんだ!』
 て道具屋さんで買ってくれましたの」
「お金はどうしたのよ。あの人、持ってないって言ってたわ」
「だから手袋代の変わりに温泉の掃除してんじゃんか。僕たちはもう少し
 遊んでるからさ、迎えに行ってやんなよ」
 ラリスにそう言われ、エレナは温泉へと向かった。



 昨夜訪れた温泉に向かう。「準備中」と書かれた看板の先へエレナは足を
踏み入れた。
 そこにはシャツ1枚で鼻歌交じりに掃除をしているバファンの姿があった。
 エレナが来たことに気付いたバファンがデッキブラシを持つ手を止める。
「遅いお目覚めだな、お姫様。そんなに寝ると脳みそ腐る・・・・・・ぶっ
 石鹸が顔面に直撃し、バファンは後方へよろけた。
 エレナが何事もなかったかのよーに腰に手を当てバファンに話し掛ける。
「それじゃあ話してもらえないかしら。あなたとあの子たちにはどんな繋がり
 があるの?」
「話せない」
 キッパリと言うバファン。再びデッキブラシで床の掃除に取り掛かる。

「再生力ッ!」

 エレナはその言葉を口にした。昨夜見た知恵の王冠を元に戻した2人の力。
 図星だったらしくバファンは睨むようにエレナを見つめた。湯煙の中、
白い空間に沈黙が流れる。
「あんたを巻き込みたくない」
「1ヶ月、あの子たちの世話を任されていなかったら私はこんなところに
 あなたたちと一緒にいることはなかったでしょうね」
「あの力がオレたちには必要なんだ。だから、あいつらの機嫌を損ねるわけ
 にはいかないし、風邪をひかせるわけにもいかないし、ましてやしもやけで
 ピアノが弾けなくなったりしたら困るんだよ」
 再生力でバファンが何を再生させたいのかは知らないが、今、バファンは
「オレたち」と言った。つまり、バファンは単独で動いているわけではない
ようだ。彼の後ろにいるのは一体誰なのだろう・・・・・・。何であれ、エレナの
胸の不安は大きくなる一方だ。

「バファン、あなたの再生させたいものって一体・・・・・・」

 その時、
 背後でガヤガヤと音がし、エレナとバファンは身を強張らせた。

 現われたのは・・・・・・

「いやー、大漁、大漁」
「今日の狩りは上手くいったな」
「汗かいた後はやっぱ温泉だよな」
 たくさんの村の男たちが素っ裸で温泉になだれ込んできたのだ。

 男たちと、エレナの目が合い、時間が止まる。

「・・・・・・ッ!!!」

 声にならない声を出すエレナ。

 準備中の看板は外され、しかもここは男湯だったりするわけで・・・・・・。
「ふっ」
 完全に暗い話題が吹っ飛んで、鼻でエレナを笑ってやるバファン。


「いやぁーーーーーーーッ!!!」

 エレナの大絶叫が白い村中に響き渡った。





  


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