第6話  いざ雪原へ、北の大地から’05
─ そ の 1 ─




「さて、これがブレーキ。このレバーで帆の向きを変えて、それからこっちの
 レバーを倒すとスピードが上がり・・・・・・」

 ──雪上帆船。
 雪原を行くヨットと思ってもらえばいいだろう。昔はほとんど自給自足だっ
た白い村の人々の暮らしも、この帆船のおかげで日帰りでも、ここから一番近い
タキネン村に行けるようになった。雪原で暮らす人々の重要な交通手段である。
 村のはずれで、村人から真剣にその帆船の操作の説明を聞くラリスとリリスを
バファンに任せ、エレナは防具屋に足を運んだ。

 何を隠そう、これからエレナたちは雪原の北に聳える
「氷の魔王城跡」へ観光に行くのだ。

 別に観光名所になっているわけではない。今でも怖がってあまり人が近づか
ない場所だ。もちろんエレナもピエトロの武勇伝は知っており、ブリオニアなど
には足を運んだことはあるが、さすがに氷の魔王の居た北の大地には行った
ことはない。行こうなんて考えたこともなかった。
 それが、今朝の朝食で、宿屋の主人が「白い村で温泉以外で有名なものが
あるとすれば・・・・・・」なんて話をするから・・・・・・ラリスとリリスが興味を持たない
はずがない。


「「行きたい〜〜〜!!」」
「行かないわよッ!!!」


 ポポロクロイス城へ帰りたくて仕様がないエレナは猛反対したのだが、
言い出したら聞かないラリスとリリス。バファンは双子の好きにさせてやりたい
みたいで、多数決で氷の魔王城跡への観光は決定した。


 防具屋のおじさんもエレナの話に眉をひそめた。
「物好きだねぇ。あそこには、なーーーーーーーーんにもないよ」
「それでも行きたいらしいのよ。ここから北はさらに冷えるって宿屋のご主人に
 聞いたんです。だから防寒具を買いたくて・・・・・・」
「ちょっと待ってな」
 うなづき、防具屋のおじさんは裏へと消えた。店内に1人取り残された
エレナは辺りを見渡した。赤い字で「SALE」と書いてあったり、
「超お買い得!」と書いてあったり、「全品50%OFF」
書いてあったり、あまり売れていないらしいお店だった。
しかし、この村で防具屋はこの店だけしかない。
 しばらくして戻ってきたおじさんはガバッとカウンターに毛皮を置いた。
辺りにホコリが舞い上がり、エレナとおじさんはひどく咳き込んだ。
「なんなんですか、これ?」
「これはな、火ネズミの皮で作ったマントだ」
「火ネズミ???」
「あぁ。お嬢さん、クロコネシアという島を知ってるかい?」
「えぇ、よく知ってるわ」
 まさか北の大地でその地名を聞くとは思わなかった。エレナがうなづく。
「これは、そこの火山に住む火ネズミの皮で作ったマントなんだ。溶岩の上を
 平気で走るネズミでね。どんな熱にもびくともしない。
冒険の序盤から終盤まで絶対役立つオススメの防具だ

 ・・・・・・ただ押し売りしたいだけにも聞こえるが(汗)。

「おじさん、それで温かいの?」
「もちろん! あったかいですぜ」
 確かに、手触りがとても気持ちよく触ると暖かい。エレナは購入を決めた。
「4着欲しいんだけど、おいくらかしら?」
 エレナは茶色の皮の財布を取り出した。・・・・・・もちろんピエトロのものである。
「毎度。1着1万ゴールド。4着で4万ゴールドになりまーすw」
「そう。じゃあ2万ゴールドね」
「な! ちょっと待ってくれ!」
 おじさんが慌ててエレナの行動にストップをかける。エレナはイタズラっ
ぽく笑うと壁の張り紙を指差した。「全品50%OFF」
「あ・・・・・・」
「じゃ、そういうことで。在庫処分出来て良かったと思えばいいじゃない」
「ま、毎度ありがとうございました・・・・・・
 おじさんの掻き消えそうな声を聞きながら、エレナは防具屋を後にした。



 酒場の店主に頼んでおいた昼食用のお弁当を受け取り、エレナは村のはずれ、
3人の元へ向かった。
 雪上帆船、これで一気に氷の魔王の城跡まで行くのだ。本当に便利な乗り物
である。
 エレナが村はずれにつくと、ラリスとリリスは上手に帆船を乗りこなしていた。
「さ、2人とも、これを着なさい。あったかいわよ」

「「全然かわいくなーーーい」」

 買ってきたマントを見てしかめっ面をしたラリスとリリス。
「そりゃあなたたちの服に比べれば地味だけど、ここから北はもっと寒く
 なるのよ。我慢してちょうだい。嫌ならそのヨットの行き先を南へ向ける
 だけだけどね。あーー、1秒でも早くポポロクロイス城に帰りたいわーー
 エレナの棒読みな台詞にラリスとリリスは渋々マントを羽織った。
 エレナは次に船のレバーを見ながら頭を悩ませているバファンにマントを
差し出した。バファンもそれを拒否した。
「オレに構うなと言ってるだろ。貸しは作りたくないんだ」
「いいから着るのよ!」
「・・・・・・」
 エレナの剣幕に押されてバファンはマントを受け取った。
「それじゃあ出発しましょうか。ねぇ、バファン、そのヨットだけど、私、
 あなたの後ろに乗せてもらうわ。操縦よろしくね」
「あ、あぁ」
 不安そうにバファンがうなづく。
 エレナはラリスとリリスを振り返った。
「ヨットは2人乗りなんだから、あなたたち2人で乗りなさい。2隻で出発よ」
「はーい。よし、リリス。どっちが先に運転するかジャンケンで勝負だ。
 せーの、じゃーんけーん・・・・・・」



 青と赤の派手めの帆をなびかせ、エレナたちは雪原を北へと進んだ。
火ネズミの毛皮の予想以上の温かさにエレナも満足。雪上帆船は北へと順調に
滑っていく。
 赤い帆をつけた雪上帆船に乗るラリスとリリスがエレナたちに手を振る。
エレナは手を振り返したが、バファンはそれどころじゃない様子だ。
「ねぇ、バファン。あそこを見てよ。キツネがいるわ。ルールルルルルル」
「誰のモノマネだ! ってか、話し掛けるな! オレは今、操縦でいっぱいいっぱい
 なんだよッ!」
 1本のレバーを足で固定し、2本のレバーを押したり倒したり、ロープを
引っ張ったり・・・・・・バファンはとても大変そうだ。大変・・・・・・というか、彼は
どうやらこういう作業は苦手らしい。
「下手ねぇ・・・・・・あっちの2人は上手いわよ。きゃあっ!」
 船体がグラリと揺れ、エレナは船体にしがみ付いた。
「・・・・・・んもう。帆に追い風を受けて進むだけじゃない。簡単でしょ!」
「むずかしいんだよ!!」
 本当は今、バファンと話をしようとエレナは思っていた。
 2人の力のことを、バファンの目的のことを。彼の目的、それは2人の力を
──再生力──を使わせること。バファンにはきっと再生させなければならない
「何か」があるのだろう。そうじゃなければ、双子の機嫌を取ったりすることもない。
 そのことについて話したかったのだが、全くそれどころではなかった。
 エレナはため息をつき、バファンの危なっかしい操縦を眺めながら、船体を
揺らさないように身体を左右に銃身を傾けたりしていた。
 バファンに気を使っている自分がよく分からない、エレナは白銀の大地を
見つめそう思った。

 と、その時。

「!!」

 その気配にエレナが振り返る。
 背後の雪原が大きく盛り上がり、そこから大きなモンスターが現われたのだ。
「モンスター!?」
 エレナたちに緊張が走った。





  


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