第8話  ガミガミ魔王城2、絶対無敵超高速飛空艇・怒涛空王丸ッ!
─ そ の 1 ─





「闇の王・・・・・・ダーナですって!?」

 男の口から漏れた人物の名前にエレナは息を飲んだ。
 接着剤が取れずに、もがいていたガミガミ魔王もその名前を聞いた途端、動き
を止め、その男を睨みつける。

 闇の世界を司る王・ダーナ。
 まさか、まさかラリスとリリスの持つ「力」にそんな人物が絡んで
いるなんて思いもしなかった。


「おい、ちょっと待てよッ!」
 バファンが男に向かって叫ぶ。
「ラリスとリリスはオレがダーナのところへ連れて行く。これはオレの仕事だ」
 バファンとこの男は知り合いらしい。
 男は軽蔑するような目でバファンをチラリと見る。
「どうしてお前などにダーナ様はこんな重要な任務を与えたのだろうな。
 確かに、これはお前の任務だった。しかし、待てども待てどもお前は2人を
 連れて闇の世界に帰ってこない。だから私が出向いたのだ。
 ・・・・・・来てみれば、お前は任務を忘れ仲良くやっているとは・・・・・・」
「忘れてなんかいない! だが、こいつらはまだ子供で・・・・・・」
「子供だからなんだ! もう時間は残されていないんだぞ!」
「……ッ!」
 男の言葉にバファンは口をつぐんだ。言い返すことが出来ないらしい。
男──ダーナの兵士が双子に向き直る。
「さて、行くか」
「あんたとは行かない!」
「行くならバファン様とです!」
 ラリスとリリスが戦闘モードで身構える。男は呆れた感じで肩をすくめて
バファンを見た。
「ずいぶん親しい仲になったものだな。情が入れば辛くなるだけだぞ」
「うっさい! 2人が嫌がってるだろ。オレに任せてお前は下がれ」
 男は目を伏せた。
「残念だな。・・・・・・あぁ、本当に」
 その言葉と同時に男は動いた。魔法なのか、瞬時に移動した男はラリスと
リリスの前に現われ、2人の腕を掴んだ。
「放せよ!」
「セクハラ反対ッ!」
 男の腕から脱出しようと2人ががもがく。
「ラリス、リリス!」
 エレナが剣に手を掛ける。
 それを見た男は、2人を掴む手に力を入れる。
「動くな。2人がどうなってもいいのか?」
「・・・・・・ッ!」
 男の言葉にエレナは動けない。彼はバファンに向き直った。
「ダーナ様からの伝言だ。『お前の力を剥奪し、闇の世界から追放する』、と。
 お前はダーナ様に見捨てられたのだ。ま、当然の結果だがな」
 ダーナの兵士は唇の端に笑みを浮かべると、ラリスとリリスを両脇に軽々と
担いだ。
「ラリス、リリス!!」
 エレナが叫ぶ。
 その声に顔を上げるラリスとリリス。泣きそうな顔で・・・・・・それでもエレナ
たちを心配させまいと笑っている。エレナの胸が締め付けられる。
「ねーちゃん、短い間だったけどありがと。楽しかったよ」
「これで私たちから解放されてまた海へ旅へ出られますね」
「な・・・・・・何を言ってるのよ、2人共!!」
 そんなお別れみたいな言葉・・・・・・。エレナが激しく首を振る。
「さよなら、ねーちゃん!」
「もう私たちを追わないで!」
 ダーナの兵士がエレナたちに背を向ける。
「さらばだ」
 スッと双子をつれたダーナの兵士が魔法で姿を消した。
 エレナが駆け出す。今までダーナの兵士がいた場所へ。しかし、そこにはもう
魔法の痕跡も何も残っていない。
 


 どんな理由があるにしろ「連れて行かれた」のだ。



「そ……そんな」
 ラリスとリリスをピエトロから任されていたのに・・・・・・。エレナはその場に
崩れた。
 バファンもその場から一歩も動かない。




ドンッ




 何かが爆発した。大きな爆発なのに、それに気付いたのはガミガミ魔王だけ
だった。エレナもバファンも唇を噛み締め、床を見つめている。
 爆発したのはコントロールパネルだった。ダーナの兵士の仕業に違いない。
コントロールパネルにはガミガミ魔王が押そうとしていた自爆スイッチも
あった。つまり・・・・・・。

「ギャ−−−−−ッ!! あいつ、俺様の漢のロマンの
 自爆スイッチを押しやがった! 他人に押されるなんて史上始まっ
 て以来だぞ!!」
 依然として右手を床にくっつけたまま、左拳をグーにしてガミガミ魔王が叫ぶ。
 ライトが消え、辺りが薄くなり、警報装置が鳴り響く。

「爆発3分前・・・・・・」

 機械音声がカウントを始める。
 しかし、誰もその場を動こうとしない。エレナもバファンも。そして文字通り
『動けない』ガミガミ魔王がガンガンと左手で床を叩きながらエレナとバファンに
怒鳴った。

「くぉらーーーーー!! お前ら! もうすぐこの城は爆発する。
 ボーッとしてないで俺様を助けろッ! 接着剤で手が取れな
 いんだ!」

 ガミガミ魔王の声にエレナは立ち上がった。
 今は落ち込んでいる場合じゃない! ここから脱出することが先だ。
「バファン、一緒にガミガミ魔王さんの接着剤をはがすのを手伝って!」
 バファンはエレナに背を向けて立っていた。
 今起こったことに相当ショックを受けているのだろう。
「私はあなたを信じるわ」
 その言葉にバファンがうつろな目でゆっくりとエレナを振り返る。
「どんな理由があろうとあなたを責めたりしない。だからお願い、今はここから
 脱出することに集中して!」
 バファンはため息をつくと、パチンッと指を鳴らした。以前、ポポロ草原から
白い村へ一瞬で移動した時の魔法を使おうとしたのだろう。しかし、何も起こら
なかった。先ほどのダーナの兵士が言った通り、その力をなくしてしまったらし
い。
 バファンは吹っ切れたように顔を上げ、大股でエレナたちの方に歩いてきた。
「で、どうしたらここから脱出出来るんだ?」
 安心したようにエレナがうなづく。
「まず、ガミガミ魔王さんの手をはがさないと。不慮の事故とはいえ、私たちの
 せいなんだもの」
 と、床にくっついた手を2人がかりで引っ張るが・・・・・・
「いててててててて! は、はなせーーーーー」
 ガミガミ魔王が涙を流しながら叫ぶ。本当に取れないらしい。
「簡単な話だ」
 バファンは不敵に笑うと剣を抜いた。薄暗くなった部屋の中で剣先がギラリと
不気味に光る。
「その腕、切り落とせばいいんだろ。1秒あれば十分だ!」
 ゴンッ
 エレナに殴られるバファン。バファンが後頭部を抑えてエレナを睨む。
 エレナは隅のほうに置いてあったバーナーを手にしていた。
「これで床を切断しましょう」
「おい、待て。エレナ、お前、その機械を使ったことはあんのか?」
「いいえ。始めてよ。一緒に置いてあったチップソーのほうがいいかしら?」
「いや、どっちも不安だ」
「いいから、やるわよ!」
 ボッ バーナーを構えるエレナ。
 エレナとバファンはバーナーで床を切断し始めた。ガミガミ魔王が
滝のように冷や汗を流しながら作業を見守る。出来るだけ小さくしようと
するが始めて扱う道具、なんとか30センチ四方に床を切り抜くことに
成功する。
「俺様は一生この鉄板と暮らさなければならないのか」
 ガミガミ魔王は立ち上がると右手の鉄板を重そうに持ち上げ、コントロール
パネルへと向かった。自爆を解除するべく煙を上げるキーボードを操作するが、
全く反応はない。
「うぬぬ・・・・・・さすが俺様。こりゃ脱出できんな」
 自分の素晴らしさにうなづく。
 エレナが辺りを見回しながらガミガミ魔王に尋ねる。
「ねぇ、ガミガミ魔王さん。4畳半のお部屋は?」
「なぬ、お前、俺様の部屋に何の用だ?」
「変な目で見ないで。案内してちょうだい」
「・・・・・・コントロールパネルが動かん以上仕方ないな。こっちだ」
 エレナとバファンはガミガミ魔王の後をついて行った。鉄の扉の先にあっ
たのは畳4畳半のまったり癒し系空間。
 ガミガミ魔王は棚に飾ってあるナルシア人形や、壁に飾ってあるナルシア
特大ポスターを紙袋に入れ始めている。
 エレナは部屋の隅に例のものを見つけた。──ダストシュートだ。
「なにやってるのよ、さ、入って!」
 エレナはガミガミ魔王をダストシュートに放り込んだ。
「俺ゴミじゃなーーーーい」という大絶叫が遠ざかっていく。
 エレナは後に控えるバファンを振り返った。
「待て、オレもこれに入るのか?」
「そうよ。じゃ、お気をつけてーーー」
「おい、やめろ。ぐはっ」
 エレナに蹴られ、バファンもダストシュートに頭から転がり落ちていった。

「爆発まで 10 9 8 ・・・・・・」

 カウントダウンの響く中、エレナもダストシュートに飛び込んだ。





  



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