第8話  ガミガミ魔王城2、絶対無敵超高速飛空艇・怒涛空王丸ッ!
─ そ の 3 ─




 散乱するガレキをどかしながら、ガミガミ魔王を先頭にエレナとバファンは
ガミガミ魔王城地下へと続く階段を降りていた。そこにラダック仙人の所へ
向かうための乗り物があるらしい。
 地下へ向かいながら、エレナはガミガミ魔王に、知恵の王冠が元に戻ったのは
ラリスとリリスの「力」のおかげだと説明した。それからポポロクロイス城を出て
きたこと、白い村でオルガンの演奏で春の幻影を生み出したこと、そしてサル
たちの願いでガミガミ魔王城にやって来たことを話し終わったところで、
ようやく地下の秘密基地(自称)へ辿り着いた。その間、バファンは一言も
その話に口を出さなかった。

 地下は自爆から免れたようで、たくさんのデフロボたちがテキパキと、それ
でいて暇そーに働いている。
「見よ、これが俺様が完成させた乗り物だ!」
 ガミガミ魔王の声と同時にスポットライトで奥にあったものが照らされた。


「じゃっじゃじゃーーん♪
 その名も絶対無敵超高速飛空艇怒涛空王丸だッ!」



「・・・・・・ッ!」
「・・・・・・ッ!」

 エレナとバファンは息を飲んだ。目の前に現われたのは、灰色のとても大きな
鉄の塊だった。
 やがてエレナは口を開いた。
「・・・・・・って、これ、海王丸じゃない? (ーー;) 」
 月の掟の冒険の時、確かに海で見たよーな記憶がある。
「まー、予算がなかったんで、ゼフィスに破壊されて再起不能だった海王丸を
 サルベージして改造を施し、空を飛べるようにしたのだ!」
「そう・・・・・・とても心配だわ!」
「なんだとー! 乗るのか、乗らないのか?」
「乗る、乗るわ。乗せていただきます」
 エレナが頭を下げ、丁寧にお願いをする。鼻をふくまらせるガミガミ魔王。
 そこへ横入するのは、先ほどの記念撮影でもお世話になったお土産屋の店主
デフロボだ。
「限定発売、怒涛空王丸ミニフィギア!! 記念にどうデフか?」
 ……ちゃっかりしているこのデフロボ。
「買うわ。ポポロクロイス城に送っておいてちょうだい」
「毎度デフ〜」
 エレナが代金を支払うところを呆れながら見ているバファン。それが兄の
財布なんだから手がつけられない。

 エレナたちはエンジン音を唸らせ、プロペラを回す空王丸に乗り込んだ。
「じゃあ行くぞ! いざ、ハタハタ村へ!」
 ハッチが開き、エンジニアロボたちが手を振る中、怒涛空王丸は空へと飛び
立った。




 ──空王丸のコントロールルーム。
 正面に座り、モニターを見ながら運転の指示を出すのがガミガミ魔王。
その後ろに遠慮がちにエレナが座り、後方に窓の外の流れる景色を眺めて
いるバファンがいる。
 空王丸の運転はデフロボ(機長服装備)がし、空の旅は順調に進んでいた。

「さてと、そろそろ話してもらいましょうか」

 空王丸も気流に乗り安定した走りを見せ、安全ベルトを外しても良いデフと
デフロボ(スチュワーデス服装備)に言われたエレナは、さっそくバファンに向き直り
話を切り出した。
 外の景色を見ていたバファンがチラリとエレナを見やる。
「何から話しましょうか、お姫様」
「真面目に答えてちょうだい!」
 バファンはため息をつくと決心したようにエレナに向き直った。
「オレは闇の世界の王ダーナの兵士だ。ダーナの命令でこの世界へとやって来た。
 ……天空城の双子・ラリスとリリスの元へな。
 本当はオレが闇の世界へ2人を連れて行くように言われたんだが、知恵の王冠
 で再生力を使っちまったり、白い村で遊ばせたりしてたのが悪かったらしい。
 ダーナは痺れをきらしたんだろう。他の兵士にラリスとリリスは連れていかれた」
「それで、ダーナは2人の力・『再生力』で、一体何を再生させようとしているの?」
「・・・・・・」
 バファンは黙った。ここまできてもエレナを巻き込みたくないと思っているのか。
彼はやがて重たい口を開いた。

「闇の世界を、だ」

「え・・・・・・?」
 エレナが聞き返す。バファンは辛そうに目を閉じた。
「今、闇の世界の均衡が崩れ、滅びようとしている」
「なんですって!?」
 エレナは眉を吊り上げた。
「光あるこの世界の光が強くなれば、闇も同じように強くなる。闇の世界がその
 力を抑えられなくなってきてるんだ」
 信じがたい話。しかし、闇の世界の兵士がそう言っているのだ。間違いないの
だろう。ピエトロも気にしていたように近頃、モンスターが凶暴化してきたのにも
納得が出来る。邪悪な魂が管理されている世界。その世界が滅びると言うことは、
つまり・・・・・・。
「邪悪な魂が解放され、全ての世界に影響を与えることになる」
「そんなッ!」
「だからラリスとリリスは強い光の力──デュオンの力を持って生まれてきた。
 あいつらの魂は生まれたときからずっとダーナの管理下にあり、しかるべき時が
 来たら闇の世界へ赴き、力を使って均衡を戻すことになっている。これは運命っ
 てヤツだ。父親のボリス国王も知っているし、ラリスとリリスも『再生力』を使うために
 生まれたことを了解済みだ」
 エレナはなんとか頷いた。
「闇の世界を再生させるために2人は連れて行かれたのね。それは分かったわ。
 ”その時”が今だというのもわかる。でも、闇の世界を元に戻したら2人はまた戻っ
 てくるんでしょう?」
「・・・・・・」
 バファンは黙った。
 その意味を、エレナは理解せざる得なかった。
 ──帰ってこないのだ。
 重い沈黙がコントロールルームに流れる。
「あの2人はもともと闇の世界を再生させるために使わなければならない力を
 2回も別のことに使ったんだぞ。あんたも1回見ているだろう。再生力を使うために
 あの2人は命をかけているんだ
 ポポロクロイス城でパーティーが開かれたあの夜、知恵の王冠を再生させたラリスと
リリスの疲れきった顔をエレナは思い出していた。

 ”命をかけている”。

「そうだ。再生力は2人の命と引き換えに発動する。知恵の王冠を再生するのに
 2人は自分たちの命を削ったんだ。本当ならそれだけ生きられる分の寿命を犠牲に
 してな」
 エレナは唇をかみしめた。
 ずっと背中を向けて進行方向を向いているガミガミ魔王もこの話を聞いているの
だろう。しかし、彼もデフロボたちも雰囲気を察してか誰も何も言わなかった。
「あの2人にはもう寿命が残されていない。ダーナじゃないから詳しいことは
 わからないが、闇の世界を再生させるための分しか残っていないだろうな。
 ・・・・・・誰も代わってやれない、世界を救う力だ」
「次に、闇の世界を救うために再生力を使ったら……あの子たちは死んでしまうの?」
「そうだ」
 声を震わせながら聞くエレナに対して回りくどい言い方もせず、バファンは
キッパリと答える。
「どーする? 2人を助ければ世界は滅ぶ。命を犠牲にするラリスとリリスの
 覚悟は決まっているんだ。あんたが動く必要は何もない。世界を救わせてや
 れよ・・・・・・というのがダーナの兵士だった頃のオレの意見だ」
 『あんたを巻き込みたくない』とバファンが言っていた理由が今わかった。
「でも・・・・・・でも、それでも行くわ。私はラリスとリリスに
 会いたい!」
 泣きそうになるのをこらえてエレナが声を上げる。
「わかった。出来る限り協力しよう」
 バファンがうなづく。


 ──知恵の王冠が壊れた時、2人の再生力の力を知っていたら、エレナは2人の
演奏を止めていただろう。そう言えば、エレナがバファンと始めて出会ったあの夜、
彼は2人の剣を向けようとしていた。あれは、2人の演奏を止めようとしていたのだ。
 エレナはくやしさに唇をかんだ。


 空王丸はハタハタ村を目指し、まっすぐに飛び続けた。





  



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