エピローグ
私たちは歩く。光と闇と、その間を生きながら。





「「それでは、お世話になりました〜〜ッ!」」

 ペコリ、とラリスとリリスはポポロクロイス城の人々に頭を下げた。たくさんの
城で働く人たちが2人の見送りに城門まで集まってきていた。
 ラリスとリリスの前に立つのはピエトロ王にナルシア、それにピノン王子。
「1ヶ月、あっという間だったね。もう少し居ればいいのに……」
 残念そうにうつむくピノン。すっかりラリスとリリスと仲良くなり、毎日たくさん
遊んだのに、今日でお別れなのだ。
「天空城の修理も終わってる頃だと思うし、帰らなくちゃ。みんなが待って
 ますから」
「ピノン王子、今度はボクたちの城に遊びに来てくれよ」
「うん! 絶対行くよ!!」
 ピノンと双子は笑い合った。その様子を見守りながらピエトロが腕を組む。
「それにしても……エレナは何処へ行ったんだ。あれ以来、まったく顔を出
 していないとは」
 ピエトロの重そうなため息。「あれ以来」とは、「ガミガミ魔王が知恵の
王冠を奪いにやって来たパーティーのあった日以来」である。ラリスとリリ
ス、そして2人を追って出て行ったエレナ(ピノン談)を探すため、ピエト
ロ王も苦労していたのだ。ナルシア王妃が魔法の井戸で2人の居場所を突き
止めようとしたのだが、見えるのは「闇」のみ。ボリス国王にどう説明しよ
うか悩んでいたところで、ひょっこりラリスとリリスは帰ってきたのである。
しかし、エレナの姿はそこにはなかった。
「ねーちゃんを怒らないで」
「私たち、エレナ様から大切なものを頂きましたから」
「……そうか」
 2人の言葉にピエトロは納得して頷いた。
「ボリス国王によろしくな」
「「はい、ありがとうございました」」
 手を振り、ポポロクロイス城を後にするラリスとリリス。
 ピエトロたちは2人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。




 ラリスとリリスは大きなカバンを持ちながら春の暖かなポポロ草原を歩いていた。
2人とも、無言だった。
 リリスが立ち止まり、城を振り返る。ラリスも立ち止まった。
「いい所だったね」
「いろんなことがあった」
「私たち、生きてる」
「なぁ、帰ったら、何する?」
「そりゃ、お父様と涙の再会して……」
「スミレと遊ぶか!」
 2人は笑った。
 ラリスが杖を振ると、ふわりと2人の体が宙に浮いた。徐々に空へと登っていく。
 見上げる先にあるのは、大きな白い雲。
 帰れるんだ、二度と帰れないと思っていた場所へ。2度と会えないと思っていた
人の所へ。
 2人は空へと舞い上がった。





 ──そして、また別の空で。

 絶対無敵怒涛空王丸が空を飛んでいた。
 天空城へ帰るラリスとリリスの姿を確認してから、デフロボはモニターを切り替える。
「見送り、ちゃんとすればよかったデフのに……」
「はっ、こういう別れ方でいいんだよ!」
 デフロボに向かってガミガミ魔王は怒鳴った。
「終わったわね」
 晴れた顔で彼女──エレナは笑った。大きく伸びをする。
 眼下に見下ろすのはポポロクロイス。
「エレナ。お前、俺様に感謝しろよ。なんつったって、ダーナに勝てて、この
 世界に帰ってこれたのも全て俺様のおかげなんだからな、俺様の!」
「わかってます! 何度もお礼を言ったでしょう?」
 操縦桿を握りながら高笑いするガミガミ魔王に頬を膨らませるエレナ。
「風船みたいに膨れるな、その頬。針でつついてやろうか?」
 皮肉めいた顔で彼──バファンが笑う。
 呆れた顔で肩をすくめるとエレナは窓の外を眺めた。
 ポポロクロイスは今日も平和そのものだ。光の世界、強き光が生み出す闇。
エレナは今回の冒険のことを振り返っていた。
「平和過ぎるのもダメなのかしら? 光と闇がバランスを保って共存出来る
 世界は作れないのかしらね」
 そうしないと、たぶんきっとまた何百、何千年先にも同じ事が起こるかもしれな
い。この先、邪悪な魂が生まれ、闇の世界に封印され続ければ、起こりうること。
再びラリスやリリスのような運命を背負う子供が生まれ、その身を犠牲にしなくては
ならない事態が来た時、側に誰かいてやれることは出来るのか。エレナはそれを
危惧していた。光と闇の交差する、ずっとずっと未来を。
「光と闇の共存ねぇ……。ほど遠い話だな」
 んなもの無理だ、と吐き捨てるようにそう言うバファン。その後、何か考えるように
腕を組む。彼も彼なりにその先の未来を見ているようだ。
「でも、もしそんな世界があるのなら……」
「……そこが『楽園』なのかもしれないわね!」
「うむ。俺様が支配する世界だな、そりゃ」
 ガミガミ魔王の言葉に、エレナとバファンは顔を見合わせ苦笑した。

「エレナ姫〜! 注文の品が出来たデフよ〜!」

 と、扉にぶつかりながらコントロールルームに入ってきたのは懐かしい、あのガミガミ
魔王城のお土産屋店主のデフロボだ。
「注文の品?」
 エレナが眉をひそめる。全く注文した覚えなんてないのだが……。
「これデフよ。よく撮れてるデフ」
「あッ!」
 渡されたのは1枚の写真だった。
 それは、ガミガミ魔王の城で、ガミガミ魔王のロボットとの戦いの前にみんなで
撮った写真だった。写真には、ガミガミ魔王の満面の笑顔を中心に、ピースサイ
ンのラリス、おしとやかに笑うリリス、照れたようにカメラから目線を逸らすバファンに、
そしてエレナの笑顔。
 あの時、かなり嫌々撮った写真も、今ではとっても良い思い出。
「ありがとう! 大切にするわ!」
 胸に写真を抱きかかえ、エレナは笑った。
「ねぇ、ガミガミ魔王さん。感謝ついでで悪いんだけど、このまま私をクロコネシアへ
 送ってくれない? みんなと待ち合わせしてるのよ」
「ぬわーーーんで俺様がンなことしなきゃならねーんだ!」
 ガミガミ魔王が1つのボタンを豪快に押した。

 パカッ

「「え……?」」
 その音にエレナとバファンは固まる。
 眼下に見えるのは、鉄の床ではなく、ポポロ草原。ここは空の上だという
のに、真下に地上が見えるということは……。
 エレナとバファンが座っていた床が開いたのだッ!
 座ったまま地上へまっ逆さまに落ちていく彼女らの元へ、ガミガミ魔王の
怒鳴り声が響いた。

「あばよ、お前ら! 
  二度と俺様の前に現われんじゃねーぞーーー!!」



「キャーーーーーーーーーー」
「ウソだろーーーーーーーーーーーー」


 2人の大絶叫は空王丸から遠のいていった。




  



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