第0話3
「はじまりの、瞳の扉のその向こう側」




 ドノバンは、扉を見つめ、震え上がった。
 緊急事態に、全員が食堂に集まっている。
「おい、どうなってんだ?」
「見た目はごくごく普通の扉なんですが……。開けると別の場所につながっているようです」
「先週は、普通に開きましたけど。な」
「そうそう。……ズズズー」
「海に不思議はつきものです。ま、これはなんとかしないといけませんが」
 めいめいに話すが、解決策が出てくるわけではない。
 そんな話を聞きながら、黙々と宝石箱を触っていたカーティスがお手上げということで、
ダイクに宝石箱を返した。
「降参。 どうやっても開かないし、魔法でもかかっているのかも」
 ダイクは宝石箱を受け取り、再び振った。カラカラと中で音がする。
 それを横目でみながらドノバンは腕を組んだ。
「わからんことだらけだな。よし、次の港で、偉い魔法使いに、この扉と宝石箱を見てもらうか」
 どうせ破格の診断料を取られるのだろうと思い、ダイクが嫌な顔をする。
 とりあえず一同 今後のことが決まったところで、ベルが太ももを叩いて立ち上がった。
「それじゃあ、ティータイムにしようかね。さっきクッキーを焼いたんだ」
「おぉ、そりゃいいな」


  カチャ

「ねぇ、こっちはおやつの時間だけど、あんたも食べるかい?」


「うわーッ、ベルさーーーーーーーん!??」

 ベルの行動に、ドノバンびっくり。
「いいじゃないか。あっちも私たちと同じで、どうしてこうなったのか、わかっていないらしいし、
 同じ被害者だろ。仲良くしようじゃないか!」
 ベルは恐れることなく、扉の向こうの黒い人に声をかけた。
「クッキーがあるんだ。飲み物は何にする? コーヒー? 紅茶? 昆布茶もあるよ」
[え? じゃ、じゃあ、昆布茶で]
 半ばベルに強制される感じで、黒い人はボソボソと答えた。
「わかった、ちょっと待ってな」

バタンッ

[……]
 黒い人も、驚いていた。
[なんで、うちのトイレが別の次元と繋がったんだ? ……困る]



 そして、みんなでティータイム。

[我が名は、ヤ……]

[ ………… ]

 言いかけて、黒い人は、自分の名前を言うのを思いとどまった。
「ヤ……?」
 ベルの後ろについて、黒い人の領域にズカズカ入ってきたダカート号クルーは、全員首を
かしげて、黒い人の言葉をじっと待った。
[いや、名前を言うのはやめておく]
「なんだい、照れ屋なんだねぇ。名前なんて減るものじゃないだろう?」
[違う。 名前を付けられたばかりで、我も戸惑っているんだ]
「なに? 大きい声出してくれないと、聞こえないんだけど?」
 ベルが黒い人(以下、読者バレてるし「ヤズム」で文章進行致します)を、からかうように笑う。
[我には、名前は大切なものなのだ。やはり言わぬ。 ここは闇の世界。本来ならば、選ばれた
 者のみしかここへ来れないのだが……。なんなんだお前たちは。我を倒しに来たのか?]
 凄みを利かせてそう言うと、ヤズムは立ちあがった。体はグーリーよりも大きい。黒い姿に、
青白い顔をしたヤズムは、ダカート号クルーを威嚇するように見下ろした。
 みんながドノバンの背中を押し、彼をヤズムの前に押し出した。ドノバンの足が震えている。
「た、倒すとか、意味わからんが、俺は船長のドノバン。後ろは、うちのクルーだ。みんなで海賊を
 やっている。扉の向こうは海賊船だ」
[海にいるのか、お前たちは……]
 探るような視線を、ダカート号クルーと、扉の先へ向ける。
[こちら側には、お前たちと我をつなぐ原因となるものは1つもない。お前たちのほうに原因が
 あるのだろう]
「でも、俺ら、なーんもしてねぇし」
 ヤズムは一人で考えるように、一点を見つめ、それからうなづいた。
[一度、そちらに赴いたほうがよさそうだな]
「おっ、原因を調べてくれるんだナ?」
 魔法使いに高額料金を払わなくてもよさそうな雰囲気に、ダイクの目が輝く。
[……今度の新月はいつだったか……3日後か]
「なんだ、今こっちに来て調べてくれるんじゃないのか?」
[我は、ここを離れられぬのだ。3日後の夜に、そちらに行こう」
 ヤズムはうなづいた。


 


    

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