第0話4
「はじまりの、瞳の扉のその向こう側」


 そして、約束の3日後。日もすっかり沈んだ頃──。

 ヤズムは言ったとおり、ダカート号へと現れた。



[ なんだこれは ]
 扉をくぐるなり、ヤズムは立ちつくした。最初は誰かのお誕生日会か何かと思ったが、
違うらしい。自分への超歓迎ムードに、顔をひきつらせる。
 ヤズムは歯ぎしりをした。こんなところで遊んでいるわけにはいかない。早急に、扉をつなぐ
原因を突き止め、こいつらから離れなければならない。ヤズムには名前をつけてもらったあの
人からの使命がある。
 だから……。
「まー、酒でも飲め♪」
 ヤズムの前に空気の読めない酔っ払いエドガーが現れ、彼に無理やりグラスを押しつけた。
 グラスの中には、血のような赤いワインが半分ほど入っている。
[ 我は、この不思議な現象の原因を探しに来たのだ。お前たちとなれ合いに来たのではない]
「いいじゃねぇか! せっかくなんだし、今日は宴会するぞーー!」
「おーーーーうッ!!」
 ドノバンが拳をかかげ、みんなもうれしそうにグラスを頭上に掲げる。
 その時だ、
 ぐらり、と、船が大きく揺れた。
 思わずヤズムは足元をふらつかせる。グラスの中のワインが2、3滴こぼれ、床に落ちる。
[ なんだ? ]
「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。外は大シケなんだ。波が高くて航行もままならねぇ。ここんとこ天気は最悪だわ
 モンスターは立て続けに襲ってくるわ、方位磁石はぐるぐる回って航海士は胃痛で寝込むわで、
 最近、いいこと全然ねーんだ」
 ドノバンが死活問題を他人事のようにヘラヘラと答える。
[ どうやら、この船は呪いにかかっているらしいな。 ]
 そうヤズムに言われ、全員がざわめいた。確かに、最近、不幸続きで困っている。ダカート号には
魔法にたける者がいないので、それが呪いのせいだなんて全く思わなかった。
 ヤズムは、机にワインを置くと、食堂の真ん中まで歩き、スッと手を挙げた。
 甲板に通じる扉が勝手に開く。
 そこから宙に浮いてやってきたのは、あの小さな宝石箱だった。結局開かなかったので、物置に
放置になったのだが、ヤズムは宝石箱を手に乗せると、細い指でいとも簡単に開けたのだ。
「あ、開いたんだナ!!」
 あれだけ苦労したのに、とダイクが目を見開ける。
 ヤズムは中に入っていたものをそっと取り出した。

 そこから出てきたのは、金色に輝く指輪だった。

 みんながヤズムに近寄り、まじまじと指輪を覗き込む。
「それが原因なのか?」
 ドノバンの問いに、ヤズムはうなづいた。
[ どうやらそのようだ。強い呪いが込められた指輪だ。ずいぶん古いな……レムリアの遺産か]
 グーリーが、腑に落ちたようにポンッと手を叩いた。
「なるほど。だから、あの時、襲った商船は俺達に抵抗することもなく金銀財宝を差し出したのか」
「この呪われた指輪を処分するために。厄介なものを押しつけられたんですよ、私たちは」
 ランバートがグーリーの言葉を続ける。
 その時、再び船内がグラリと揺れた。
 ヤズムが片方の手を机につき、そしてもう片方の手で口を押さえる。
[ うッ…… ]
「おい、どうした!?」

[ き、気持ち悪ッ…… ]

「ヤッさん、呪いかーーーーーーーーーーーーーーー!?」
 叫ぶドノバンに、ベルがやれやれという感じでヤズムの背中をさすった。
「ただの船酔いだよ。 ビリー、バケツを持ってきてちょうだい。ランバート、船酔いの薬が
 あるなら持ってきておくれ」
 

 ベルに介抱されるヤズムを見て、全員が思った。
(これくらいのシケで船酔いとは……だっせぇ!!)
 
 青白い顔をさらに青白くしたヤズムは、ベルの腕をほどくと甲板へ出た。
 船が大きく揺れるので、どれほどの天候かと思ったが、外は予想以上の大嵐だった。この
大型船でさえ転覆するかもしれないほどの大嵐だ。うなる風、叩きつける雨、山のような高波が
何度も甲板にうちつけられる。
 ヤズムは、フワリと宙に浮いた。そのまま空高くへと上がる。



 全員が嵐の中、甲板に出て、ヤズムに目を見張った。
 ヤズムは手を広げ、力を集中させる。

 暗雲立ち込める空に閃光が走った。
 一瞬にして嵐は去り、雲は晴れ、海は波一つない静けさとなった。
 月のない夜、空には満天の星が輝いている。
「あ、あいつ、すげぇ……!!」
 久し振りの静かな海に、ダカート号クルーは、ヤズムの力に恐ろしさを感じることもなく、
喜びの声をあげた。



 


    

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